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BBCの過去と未来 放送メディアはどうなっていくか

小林恭子ジャーナリスト
BBC本社(ロンドン)(写真:ロイター/アフロ)

 メディアコンサルタントの境治さんが運営する、テレビとネットの横断業界誌「MediaBorder2.0」の勉強会イベント(6月24日)で、英国の公共放送BBCについて、話す機会がありました。

 BBCは日本で言うとNHKに相当しますが、「某国営放送BBC」「国営放送BBC」と言った表記を目にすることがあり、ドキリとしているこの頃です。

 BBCは国営放送ではなく、公共(サービス)放送です。国営ではなく、公共放送であることに存在意義があります。

 何らかの参考になるかもしれませんので、ここに話の概要を記してみましょう。

 記憶を頼りに書いているので、イベントのやり取りの部分は言葉を補足しています。

開局から100年余

 BBCが英国で放送サービスとして生まれたのは、1922年です。当初は民間企業で、27年に公共組織化されました。

 最初の一声が出たのは、1922年10月。民放の時代ですね。

 2022年秋には、開局からちょうど100年でした。

 民間企業から「君主による勅許」(王立憲章)で公共組織になったのですが、時の政治や商業主義の影響を受けないようにという配慮がありました。

 BBCの国内の活動資金は視聴者世帯から徴収する放送受信料です。つまり、「公共のための」「公共による」放送・配信サービスがBBCです。

「どうして、BBCはあのような番組ができたのか」

 BBCのジャニーズ問題を取り上げた番組(ドキュメンタリー番組「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」、2023年3月放送)は、日本では大きな反響を呼びました。

 BBCはどうしてこのような番組を作ることができたのでしょうか?

 まず、BBCはこれまでにも日本について、あるいは日本の性に関わる番組をいくつも作ってきました。あの番組はそういう意味では突然出てきたわけではなく、特別な番組だったというわけでもありません。近年では、ジャーナリストの伊藤詩織さんをナレーターとして、性犯罪についての番組が放送されています(「日本の秘められた恥」、2018年)。

 今回の番組のプロデューサーは日英の言語ができ、以前には握手会を取り上げる番組を作っています。

 また、英国では少年に対する性加害の事件が発生し、これまでに何度も取り上げられてきました。そういう意味では、英国の視聴者にとっては分かりやすい内容だったと思います。「日本でも、こういうことが・・・」ということですね。

 BBCとしては、通常通りの調査報道の番組だったということですね。

 日本人として、驚きだったことの1つは、ナレーターとなったジャーナリストが旧ジャニーズ事務所が取材に応じないので、「説明責任に欠けている」と怒る部分です。大きな組織に何らかの嫌疑がかけられたら、説明責任の必要・義務がある、という考え方ですね。日本人の感覚では、「都合の悪いことについて、会社は取材に応じたがらないだろう」と思ってみていたのですが。

BBCの未来は?

 テレビ局のコンテンツが素通りされる傾向が英国でも強くなっています。若い層は特にそうですが、年齢にかかわらず、誰もがそうなっています。この傾向は変わらないでしょう。

 では、将来はどうなるのか?

 BBCはNHKのように視聴世帯から徴収する放送受信料で国内の活動を賄っています。でも、BBCやほかのテレビ局の番組を見ない傾向にさらに拍車がかかれば、この受信料制度が崩壊しますよね。なぜお金を払っているのかと疑問になりますから。正当性を失います。

 放送の次にどんな媒体が主流になるのかも、分かりません。「次はすべてネットで」という方針をBBCは明確にしていますが。一応は、ネット配信の世界になると。

 でも、あふれる選択肢の中で、BBCを選んでもらうにはどうしたらいいのか。

 暗い結末になりそうだった所に、ネットフリックスの本を書いた長谷川朋子さんの発言があり、目からウロコの気持ちになりました(中公新書ラクレ「NETFLIX  戦略と流儀」)。

 BBCは米国などのテレビ局や娯楽企業と共同でコンテンツを作って配信している、と紹介してくださったのです。

 そうか!と思いました。

 放送局のだいご味はニュース報道だけじゃないのです。「好きな俳優が出る」「あのスポーツの試合をどうしてもみたい」など、人の気持ちを捉え、夢中にさせるコンテンツで視聴者を虜にすることができるのです。これだ、と思いました。

 この「好き!」という感情やホロっとさせる気持ちを引き出すような、広い意味の娯楽の意義はどんな形になっても、変わらないはずです。

 ここに何か、生き残りというか、変身というか、秘密があるような気がしたのです。

 具体的にどうなる、と形が見えたわけではないのですが、「どうしても見たい・知りたい」という感情を満たす媒体として、変わっていくのかもしれないと思った夜でした。

 ***

 7月3日の夜、荻上チキさんの番組にゲスト出演しました。言葉のつかえ等、お聞き苦しい点もありますが、ご関心がある方はこちらからどうぞ。=小林恭子さんが語る〜『BBC、その光と影』

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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