USCショア財団、ホロコースト生存者の記憶のデジタル化に向けて「証言を集める最後の機会」呼びかけ
第二次大戦時にナチスドイツが600万人以上のユダヤ人を大量に虐殺したホロコーストだが、そのホロコーストを生き延びることができた生存者たちも高齢化が進んでいき、その数も年々減少している。彼らの多くが現在でも博物館などで若い学生らにホロコースト時代の思い出や経験を語っているが、だんだん体力も記憶も衰えてきている。
映画「シンドラーのリスト」の映画監督スティーブン・スピルバーグが寄付して創設された南カリフォルニア大学(USC)のショア財団ではホロコースト時代の生存者の証言のデジタル化やメディア化などの取組みを行っている。戦後約80年が経過し、ホロコースト生存者の高齢化が進み、当時の記憶も薄れていき、体力的にも証言を取るのが難しくなってきており、これまでにも多くの証言を集めてきたが、今後あと10年が勝負である。
そんななか、南カリフォルニア大学のショア財団では「LAST CHANCE TESTIMONY COLLECTION INITIATIVE」(証言を集める最後の機会イニシアティブ)というプロジェクトを立ち上げた。名前の通りで、高齢化が進み、心身ともに衰弱して記憶が低下していかないうちに1人でも多くのホロコースト生存者の証言を録画してデジタル化して保管して後世に伝えていくことが目的である。ホロコースト生存者の家族や親せき、知人や友人らでホロコースト生存者がいる人たちにも呼びかけている。「LAST CHANCE TESTIMONY COLLECTION INITIATIVE」(証言を集める最後の機会イニシアティブ)でホロコースト生存者が語ってくれたインタビュー映像はショア財団のYouTubeで世界中に配信されている。このようなデジタル化されたホロコースト生存者の記憶の証言は歴史学の研究においても、当時の様子を知ることができる貴重なツールでありとても重要である。
南カリフォルニア大学ショア財団ではホログラムでの生存者とのインタラクティブな対話の技術開発にも積極的で、同大学ではこの取組を「Dimensions in Testimony」プロジェクトと呼んでいる。これはあたかも、目の前にホロコーストの生存者がいるようで、質問に対してリアルタイムに答えられる。ホロコーストの生存者らが高齢化しても、亡くなってからでも、ホログラムで登場して未来の世代にホロコーストを語り継いでいくことができるものだ。今回の「LAST CHANCE TESTIMONY COLLECTION INITIATIVE」(証言を集める最後の機会イニシアティブ)では、ホログラム化までは実施しない。まずは高理恵のホロコースト生存者の当時の記憶と経験に基づいた証言を録画してデジタル化して保管するところまでである。
現在、世界中の多くのホロコースト博物館、大学、ユダヤ機関がホロコースト生存者らの証言をデジタル化して後世に伝えようとしている。ホロコーストの当時の記憶と経験を自ら証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"が世界中に蔓延することによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実になってしまいかねない。いわゆる歴史修正主義だ。そのようなことをホロコースト博物館やユダヤ機関は懸念して、ホロコースト生存者が元気なうちに1つでも多くの経験や記憶を語ってもらいデジタル化している。だがホロコーストを経験した生存者は当時の悲惨な体験を子供たちや世間の人に語りたがらない人の方が多い。
▼「LAST CHANCE TESTIMONY COLLECTION INITIATIVE」(証言を集める最後の機会イニシアティブ)でホロコースト時代の記憶を語っている生存者