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本格的戦争となれば、オイルショックのきっかけとなった50年前の1973年の第4次中東戦争以来に

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 イスラム組織ハマスによる大規模な攻撃への報復作戦を進めるイスラエルは9日、ハマスが実効支配するパレスチナのガザ地区への空爆を続けるとともに「完全に包囲する」として圧力を強めている(10日付NHK)。

 イスラエル軍は過去50年で最大規模の30万人の予備役を動員したと発表し、今後どこまで軍事作戦を拡大させるのかが焦点となっている。

 中東のイスラエルが絡んだ本格的戦争となれば1973年の第4次中東戦争以来となるようである。しかし、どうしてこのタイミングなのか。ロシアによるウクライナ侵攻なども絡んでいるのか。わからないことも多く、これによる影響についてなかなか見通しづらい。

 ひとまず、9日の欧米市場がどのような反応を示していたのかを振り返りたい。

 ガザ地区が「中東の火薬庫」のひとつともされていたように、イランなども絡んでいたとなれば、原油の供給に支障が出てくる可能性がある。

 9日の原油先物は買われ、WTI先物は一時、87.24ドルまで上昇した。ただし、これはそれまで売られていた反動程度との見方もあり、パニック的な動きとはなっていなかった。

 9日の米国株式市場は中東地域での戦闘が激化したのを受けて、売りが先行した。しかし、FRBのジェファーソン副議長が「債券利回りの上昇を通じた金融引き締めを今後も認識しつつ、将来の政策の方向性を評価することを心掛ける」と述べ、この発言など受け、追加利上げへの警戒感が和らいだことから、株式市場は買い戻され、ダウ平均は197ドル高、ナスダックは52ポイント高とプラスで引けていた。

 米国の債券市場は、コロンブスデーのため休場となっていたが、ドイツの国債など欧州の国債は総じて買われていた。また、米国債に連動する上場投資信託(ETF)が大きく買われていた。10日の東京時間の米10年債利回りは4.63%と6日の4.80%から低下した。いわゆるリスク回避による安全資産への買いの動きとなった。

 9日のニューヨーク外為市場も休場となっていたが、欧州市場では安全通貨であるドルがユーロに対して上昇した。また、同様の発想から円もドルやユーロに対して買われていた。

 株式市場はそれほど動揺は示さなかったが、原油先物は買い戻され、リスク回避の動きから欧米の国債は買われ、ドルや円も買われた格好となった。

 1973年の第4次中東戦争はいわゆるオイルショックの要因となった。それからちょうど50年を迎えた。

 1973年10月にイスラエルとアラブ諸国による4度目の戦争である第4次中東戦争が勃発。サウジアラビア、イランなどペルシャ湾岸6か国が原油公示価格を70%引き上げ、イスラエルとその支持国に対する石油供給抑制を狙いとして石油採掘の削減と同国を支援する米国やオランダに対して石油の禁輸を決めた。これにより原油価格は3か月で約4倍に高騰し、日本でもパニック的な動きが起きたのである。

 今回の戦争がオイルショックのようなことをもたらすのかはわからない。しかし、そのきっかけになる可能性も完全には否定できないことから、今後の動向は注意深く見守る必要がある。

 ちなみに、2022年7月の日本の原油輸入における中東依存度は過去最高の98%を記録していた。現在の日本の原油輸入のほぼ全てを中東に頼る形となっている点にも注意したい。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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