今回の震災に対して今感じていること
この度の熊本・大分で発生した一連の地震によって、犠牲となった方々のご冥福をお祈りいたします。そして、被害に遭われた皆さんが、1日も早く平穏を取り戻せるよう心より願っております。
今回の震災に対して今感じていることをお伝えさせていただきたいと思います。
■
カタリバは2011年に発生した東日本大震災以降、コラボ・スクールをはじめとした取り組みによって、子どもたちに教育支援を行ってきました。
その活動の多くは、私たちの想いに共感し寄せられたご寄付と皆さんの納めた税金から捻出された国の支援のおかげで実施することができています。
私たちなりに活動の意義を見出しながら、これまで進んでまいりました。
■
それから5年。熊本で地震が起き、心を痛めながらも二の足を踏んでいたのですが、先日、女川町出身で現在は大学に通うお子さんがいる保護者の方から、こんなメッセージをいただきました。
「震災が起きて、女川町は大変大きな被災をしましたが、女川の教育行政とカタリバが協力して、子どもたちのための教育支援の専門チームを作り、細やかな教育ニーズに応えながら活動をしていただけました。5年という時を経て、改めてその活動に価値があったと感じています。
他の地域で、こういった支援に出会えなかった子どもたちの中には、進学をあきらめざるを得なかった子もいます。また、さまざまな心の闇を抱えて非行に走るなど、支える大人も子どもたち本人も、震災がなかったら起きなかった状況によって人生が変わってしまった人もいます。
地震の恐怖を知っているからこそ、特に、受験を控えた熊本の子どもたちが今どうしているのか心配しています。もし熊本の支援をされるのであれば、ぜひよろしくお願いします。」
このメッセージをいただいて、東北の皆さんが今回の熊本の震災に対して心を痛めていることを知りました。
コラボ・スクールには、熊本に支援物資を送りたいと自分が被災した時にありがたいと感じた物を周りの方々から集めて、支援物資を送り出す高校生の姿もありました。
■
カタリバとしても、東北で蓄積した知見が生きるならば、これまでにいただいた支援に対する価値を別の有事の貢献に変えることは大切なのではないか、という気持ちが芽生えていることは確かです。
一方、悩みもあります。
すでに熊本にある他団体を通じて、 「東北の時はこうだったと、いろいろと言いたいボランティアが押し寄せて困っている」という声も聞きました。
それは私も、思い当たることがあります。
たくさんの方々から心のこもったアドバイスをいただけることは大変貴重な機会ではありましたし、平常時には関われないような方々との出会いも多くありました。しかし、当時の被災地に必要なのは、スポットでいただくアドバイスよりも、日々変わる状況を一緒に受け止め、手も足も時間も使いながら解決をする伴走者でした。 一面的に様子をご覧いただく方々に一体どこから説明をしたらいいのかわからないほど、重層的な課題に悩み、眠れない日々を送っていました。 多様なアドバイスに対してありがたい気持ちはあったものの、コミュニケーションに割く時間を確保することや全ての意見を活動に活かすことは難しく、結果的に現場にも混乱を生みました。
今回、私たちは熊本で起きている状況にどこまで関われるのかお金の面でも人の面でも、見通しは立っていないため、この状況で熊本に行っていいものか、迷いました。
しかしながら、やっぱり一度、動いてみることにしました。
まずは謙虚な姿勢を持って現場を把握し、本当に役に立てるかどうかの見立てを立てるため、または何もしないというスタンスに留まるのかを判断するために情報収集を行っています。
■
5月3日〜12日のタイトなスケジュールで東北のメンバーを中心としたスタッフが、熊本で教育ニーズの調査活動を実施。主に、熊本市益城町、南阿蘇村、御船町で、学校や保護者の方々、地域の学習塾などの方々にお会いしながら、実際の復旧支援も行いました。
メンバーの中には東日本大震災を経験し、現在はカタリバに参画する佐藤敏郎先生も。佐藤敏郎先生は、避難所運営と学校再開の準備で忙しい先生方の不安に寄り添い、震災後の中学校で子どもたちをどのように支えてきたか、座談会を開催しながら対話を重ねてくれました。
3.11の教訓として、震災後の心のケアの重要さが浸透しているからこそ、先生方からは生徒たちとの具体的なコミュニケーションの取り方について不安を感じられている方が多くいらっしゃいました。
座談会の終わりに、敏郎先生は先生方にこんなメッセージを残しました。
「身体を壊さないでください。これが一番の願い。」
■
とはいえ、避難所となっている学校の先生方は、避難所運営の手伝いや授業の準備、子どもたちの心のケアなどで多忙を極めています。
また、震災後、「夜眠れない」「乱暴になった」といった子どものたちの変調を相談する保護者も増えているとも聞きます。
改めて、私たちに何ができるのかをしっかりと見極めるために、本日(5月12日)も調査の一環として、熊本大学でイベントを開催しました。
方向性はまだ定まってない状況ではありますが、悩みと葛藤をそのままにお伝えしたく、現状を共有させていただきました。