長期欠席する小中学生が、約29万人に。国や社会が、子どものためにできることは?
「息子が不登校になり1年半が経ちましたが、地域にフリースクールや通える場所はありません」
「不登校の子どもの面倒を見なくてはで、仕事が続けられません」
そんな相談がカタリバに寄せられることが、コロナ禍以降、増えました。今の学校や社会にどんな現状があり、どういう仕組みが必要とされているのか、今日は書いてみたいと思います。
義務教育の長期欠席が約29万人という現状
少し前に、不登校が8年連続増加したことがニュースになりました。2020年度は前年度より15000人ほど不登校の小中学生が増え、19万人を超えています。
そして、困っているのはこの19万人だけではありません。持病で学校に行けない子、新型コロナウイルスの感染を回避するため学校を休む子、経済的理由で通えない子などを含めると、2020年度は全体で28万7747人に。29万人近い子どもが学校を長期欠席している事態となっています。
総務省のデータでは、いま小中学生の数は936万人。全体の約3%の子どもは長期欠席しているのです。各クラスに1人ずつ、規模の大きな学校であれば、学校全体で20〜30人を超える長期欠席者がいる場合もあるでしょう。
保健室にはどうにか通えるという子、朝のホームルームには行けないけど遅刻しながらも通学を続けている子など、不登校傾向の子も含めると、もっとたくさんの困っている子どもたちが潜在的にいることも考えられます。
こうした不登校や長期欠席は、決して子どものワガママなどではありません。2020年、10代の自殺は777件にものぼりました。NHKの報道では、自殺が増える時期として、緊急事態宣言や夏休みなどの長期休み明けに増えていることを指摘しています。自殺を図った時間帯が、朝の登校時間や夕方の下校時間に多いこともわかってきています。
「学校に行きたくない」という気持ちから、子どもたちが死ぬことを自ら選んでしまう。そんな深刻な現状が、今の日本にはあります。
オンラインで虐待の兆候に気づき、支援につなげたケースも
カタリバとしてもこうした事態を重くみています。カタリバでは2016年から雲南市で不登校の子どもたちの教育支援センターを運営してきましたが、全国の37%の自治体には、未だ教育支援センターは設置されていません。不登校になり、どこの居場所にもつながれてない子どもたちが、全国にはたくさんいます。
場所を問わず子どもたちとつながれることを目指して、カタリバでは2021年からは、オンラインの不登校支援プログラムを始めました。子どもや保護者と面談して現状を聞きながら、その子の状態にあわせた個別支援計画を組み、伴走しています。
もちろん、最初からすぐに信頼関係が築けるわけではありません。不登校状態にある子どもたちは、今の自分の状況に対して自尊心を失っていたり、大人に対して警戒心を持っていたりする場合もあります。最初はオンラインで顔を出して話すことを嫌がる場合もあり、画面はオフにして音声のみでやりとりを続けたりもしています。
趣味や好きなことを少しずつ話していく中で、打ち解けて、ある日ふと顔を出して話してくれる。朝ちゃんと起きられなかった子どもが、毎朝定時に参加してくれるようになる。そうして、無理のない形で少しずつスモールステップを踏みながら、学習の支援にもつなげていきます。
「カタリバと約束したから(ドリルを)頑張る」「今の自分にはカタリバがあるから大丈夫」。そんな風に話してくれる子どももいます。
家の中からオンラインにつないで参加することで、家庭内での状況が見えやすい場合もあります。伴走支援をしていたスタッフが画面越しに虐待の兆候があることに気づき、地域のNPO等とも連携しながら、家庭の生活支援やサポートにつなげていけたケースもありました。
支援のすべてがオンラインで完結できるわけではなく、地域の学校や他機関と連携していくことも必要ですが、オンラインでも一定の支援ができるのではないかと、手応えを感じています。
子どもだけでなく、保護者の悩み・孤独もサポート
また、子どもの支援だけではなく、保護者の支援もオンラインで実施しています。
「子どもの不登校が長期間続いていて、どうしたらいいのかわかりません」そんな声が、カタリバ相談チャットには毎日のように寄せられています。
カタリバ相談チャットは、NPOカタリバが2021年より運営している、保護者がLINEでなんでも相談できるサービス。コロナ禍で生活困窮の相談が増えたことを契機に始めましたが、最近は不登校の保護者からの相談も増えています。
ひとつひとつの質問にしっかり向き合いながらLINEで返事をする相談員も、カタリバの事務所にフルタイムで出社するのではなく、隙間時間を活用しながらオンラインで在宅で働いています。「子どもたちに対応する専門的な人材が足りない」と言われていますが、フルタイムで勤務できる人は少なくても、子育ての合間や副業などで関わりたい専門人材・準専門人材は非常に多くいると感じます。
また、多くの電話相談やLINE相談は時間が決まっていたり、「1人あたり30分までやりとりしたら終了」というものも多くあります。しかし、カタリバでは相談者とゆるくつながり続け、何度でも同じ人に相談できる仕組みにしています。LINEだけではなく、オンライン動画での面談に誘い出したりもしながら、その人の状況にあわせて相談方法を柔軟に変えています。
保護者にも複合的な課題を抱えている人が多く、最初からすぐに困りごとを言葉にできるわけではありません。最初は子どもの不登校について相談してきた人も、何度かやりとりをしていくうちに心を開いてくれて、実は経済的にも困窮していることや就労に困っていることを伝えてくれたりします。
「役場に知り合いが働いていて、地域で(困りごとを)知られてしまうのが怖くて相談できなかった」「学校に相談しても、クレーマーのように扱われてしまって困っていた」という声もいただいており、地域内での相談だけでは取りこぼしてしまう方々が、どうにか相談窓口にたどり着いてくださっていると感じます。
保護者の孤独や困難に向き合っていくことは、子どもが安心できる環境づくりにもつながります。時には切迫した相談も届きますが、ソーシャルワーカーや精神科医など、専門職の方々とも連携しながら、対応しています。
国全体で、早急に子どもを支える仕組みの検討を
カタリバではこうして小さくできることを始めているけれど、それでも私たちが直接対峙できる子どもや保護者は、全国で見れば本当にわずかでしかありません。現場で見えてきた知見を、全国でも活かして欲しい。そんな思いで、最近は政策提言にも積極的に取り組んでいます。
1月31日に実施された内閣府規制改革会議では、初等中等教育における専門人材の活用について提案する機会をいただきました。オンラインを活用したスクールカウンセラー整備や多様な学び支援センター配置など、困っている子どもを取りこぼさないための施策について話してきました(当日の詳しい資料については、カタリバHPでも公開しています)。
たとえば、現状ではスクールカウンセラーの活用は自治体ごとに状況が違い、月に1−2回のみカウンセラーが勤務する学校も多くあります。子どもが何か悩んだとしても、実際に話を聞けるまでに1ヶ月以上かかっていては、その間に子どもはずっと悩み続けたり、問題が変化・悪化してしまうこともあります。オンラインを活用することで、子どもや保護者のSOSを、より早く聞くことができるはずです。
デジタル大臣政務官・内閣府大臣政務官であり、子ども庁創設を早くから提唱されてきた山田太郎議員からは、「基礎自治体の人数の中央値は2万人。それ以下の人口の基礎自治体もたくさんあり、専門家を確保するのは難しい地域もある。国としてワンストップの相談センターをつくることは必要なのではないか。また、子どもの意見を聞いて代弁するという、アドボケイトの仕組みを取り入れていかなければいけないのではないか」というご助言をいただきました。
また、牧島かれん大臣からは「オンラインは物理的な境界線を外すことができるので、オンラインを活用することで、どこに住んでいても求める相談につながれるのではないか。現状は、自治体がやるかやらないかを決めるため地域にバラツキが出てしまう仕組みになっている。国として方向性を決めることが大事だと思う」とコメントをいただいています。
政治家の方々や官僚の方、教育現場で頑張っておられる先生やスクールカウンセラーの方たちを含め、「子どもたちが苦しんでいる現状をどうにかしなければ」という思いは、多くの方が同じく持っていると、政策提言の場でも感じています。
学校が問題、国が問題などと誰かを責めるのではなく、どんなリソースがあったらできるのか、解決の手法をできるだけ早く探っていく。その責任が大人にはあります。
地域の中のリアルな関わりでできること、オンラインだからこそできることを組み合わせていくことで、セーフティーネットの編み目が細かくなり、こぼれ落ちる人を防ぐことができるはず。
カタリバでは、不登校と収入・就労・家計について、不登校のお子さんを育てる保護者の方へアンケートを実施しています(2/14月曜、23:59締切)。ひとりでも多くの方のお声を聞き、政策提言へとつなげていきたいと考えています。
子どもをどう支えていけるか、そして親や学校など子どもを取り巻く環境をどうサポートできるのか、引き続き多くの方と一緒に検討していけたらと思います。