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不登校は親の責任?学校の責任?支援とつながっていない小中学生11万人。受け皿が全く足らない現在地

今村久美認定NPO法人カタリバ代表理事
(写真:アフロ)

10月、「不登校になる大半の責任は親にある」「大半の善良な市民は、嫌がる子どもを無理にでも学校に通わせて義務教育を受けさせている」という東近江市長の発言が、広く話題になりました。実は教育関係者や政治家にも、まだまだこうした考えを持つ方々は一定いると感じています。

今回は、学校や社会は、本当に子どもたちのケアができているのか、10月3日に発表された文部科学省の子どもたちの長期欠席および不登校の最新(令和4年度)統計をもとに、改めて考えたいと思います。

令和4令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要より年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果概要

令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果

「長期欠席」状態にある小中学生の数は、昨年度から約47,000人増加し、460,648 人( うち不登校カウントの小中学生は約54,000人増加の299,048人) に上ることが明らかになりました。

令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要より
令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要より

不登校が増加する中、対策を強化する自治体なども増えていますが、それでもなお過去最多を更新し続ける状況が起きています。

令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要より
令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要より

カタリバでは、東京都足立区・島根県雲南市で不登校の子どもをサポートする事業をリアルで運営しており、またオンラインの不登校支援プログラムでも複数自治体と連携しています。

都市と地方、そしてオンラインの不登校支援の現場で働くカタリバスタッフたちと一緒に、改めて増加の背景や今起きていることを考えてみました。

学校でスクールカウンセラー等に相談できたのは3人に1人

まず気になったのは、学校内外で相談・指導を受けた子どもは61.8%という数字です。

令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要より
令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要より

調査結果の内訳を詳しく見ていくと、学校内でスクールカウンセラー、相談員等に相談できた不登校の子どもは33.3%で、3人に1人という状態です。文科省調査では、相談を定期的に行っているかの調査は行われていないため、「年に1−2回だけは相談できた」という子どもも含めて、この割合となっています。

令和4年度は、「養護教諭に相談できた」というケースを含めても、学校内で担任以外(※1)の相談・指導を受けたのは不登校の子ども全体の50.6%でした。

※1:中には、落ち着ける別室で学習支援をしたり家庭訪問を行ったりして親身に動いている担任もいるのではないかと推測されますが、文科省の調査では、担任の先生に相談した場合でも、学校内の相談にカウントされない内容になっています。

では、残りの49.4%の子どもたちは、学校外の相談や支援に繋がっているのでしょうか。実は、不登校の子どものうち38.1%は、教育支援センターにも病院にもフリースクールにも、どこにも全くつながっていないということが、本データでは明らかになっています(※2)。この中には、学校を90日以上欠席している子ども約59000人も含まれています。

※2:文科省の調査は、学校が回答しているため、「どこかの相談や支援につながっていても担任等に伝えていないご家庭」は、「全くつながっていない」とカウントされます。

全体として11万人以上の数の子どもたちが家庭内のケアのみに頼っており、保護者の負担が非常に高いものになっているということが、このデータからは見えてきます。約18万人となっている「学校内外で相談指導を受けた児童生徒」の数についても、「最低でも月に1回は支援や相談を受けている」「週に2−3日はどこかの居場所に通えている」など、頻度を含めて調査していくと、その数は減り、家庭内のケアに頼る割合は増えるのではないかと思われます。

学びの多様化学校(不登校特例校)に通えるのは、一部の子ども

「とはいえ、学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)や教育支援センターなど、公営でケアや学習支援を担う場所も設置されているようだけど、そういうところには繋がれないの?」

不登校についてニュースなどで見聞きしたことがある方の中には、そんな風に思う人もいるかもしれません。私たちも改めて、公営で設置される日中の居場所について調べてみました。

まずは、昨今話題になっている学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)ですが、令和5年度は公立・私立あわせて24校が設置されています。ただ、実際に通えている子どもたちは何人いるのでしょうか。

公立で生徒数を公開している多様化学校の中学校8校の平均の生徒数は、令和4年度で1校あたり3学年あわせて37.1人でした。行けない理由を不登校保護者に聞いてみると、「県内にない、通える範囲にない」という声や、「学籍を移して転校しないといけないので、ハードルがある」というような声もあります。

国はこうした学校を300校つくることを目指していますが、仮に37.1人×300校=11,130人と試算すると、不登校の子どもたちの全数に比べてかなり少なく、一部の子どもたちしか使えないものであることが見えてきます。

74%の自治体に設置される教育支援センターを、ワンストップ型へ

では、教育支援センターはどうでしょう。これは令和5年2月時点で、単独で設置している市町村が1147自治体、他の自治体と共同設置している市町村が126自治体となっており、日本全国の1718市町村の74%に設置されているものです。「現在設置していないが設置を検討している」とする市町村も134自治体あり、不登校の子どもを支えるベーシックなインフラへと近づきつつあります。

しかし、教育支援センターでの相談・指導経験がある子どもは現在25,292人であり、不登校状態にある子ども全体の8.4%ほどになります。

子どもたちが利用していない理由にはさまざまなものがありそうです。「市内に1つあるにせよ、保護者が送迎などをしないと通えない、遠い」というものもあれば、「雰囲気があわなかった」という声も現場で見聞きします。都内のあるエリアでは、不登校の子どもの人数は多いのに、日中のプログラムが定員割れしているという教育支援センターもあります。

学校やスクールカウンセラーも教育支援センターの存在を知らないままでリファー(子どもや保護者に紹介して、つなぐこと)が少なかったり、通えるまでには職員と面談をする必要があるけれどその面談待ちに1−2ヶ月を要したりして、なかなか参加にたどり着けない状況もあります。たらい回しになる中で親子ともに疲れてしまったり、働きかけのタイミングを逸してしまうケースも散見されます。

カタリバは島根県雲南市で教育支援センターを運営していますが、教育委員会と情報を共有しながら各関係機関とのハブとなり、できるだけワンストップで子どもたちを支援につなげるようにしています。面談を実施したスタッフが、「ちょっと今日参加してみる?」とそのまま支援センターの日常のプログラムへと繋いでいき、子どもファーストで、心理的にも身体的にも負担を減らすように工夫しています。場合によっては自宅への訪問や誘い出し(アウトリーチ)なども行います。

こうした工夫を経て、雲南市では、市内の不登校児童生徒のうち53%(2023年度1学期)が教育支援センターへと繋がっています。自治体での設置率が高まっているからこそ、設置して子どもたちをただ待つだけでなく、子どもを真ん中において利用率をあげていく工夫をしていくことが、各自治体で求められていくように思います。

特性があり、困っている子どもたちへの合理的配慮

また、学校運営における工夫も必要です。文科省の調査でも、小学校低学年時から不登校の子どもが増えています。

カタリバのオンライン不登校支援プログラムにも、こうして小学校低学年から不登校になっている子どもたちが参加していますが、「家から出ることができない」「対人への苦手意識が強い」「癇癪が酷かったり感情コントロールが難しい」などのさまざまな特徴を持っています。

光や音への過敏さや集団行動を行うことへの難しさがあり、どうしても学校やフリースクール等に通えない子どももおり、家庭だけではサポートが難しいものの、外の支援に非常に繋がりにくいというケースも見られます。オンラインでのプログラムにはどうにか参加できるものの、癇癪を起こしてパソコンをパタンと閉じてしまうようなこともあります。

当オンライン支援プログラムでは、参加者の55%は、「心身又は発達上障碍があると医師の診断を受けている」または「医師による診断はなされていないが、学習面や運動面、行動面において何かしらの困難がある」という子どもたちです。

オンライン支援だけでなくリアルの現場でも、「不登校の子どもたちのうち、何かしらの発達上の特性を抱えている子どもが一定数いる」というのは、共通して持っている見解です。

文科省の2022年調査でも、「通常の学級に在籍する小中学生の8.8%に学習や行動に困難のある発達障害の可能性がある」というデータが出ており、35人学級で3人程度は存在する計算になります。

教室に発達特性を抱えた子どもが必ず居ることを前提としたクラス運営を行い、刺激が強すぎると子どもが感じたら別室でゆっくり休んだりできる、そういった環境作りも必要になってくるかもしれません。

卒業証書のみもらう、義務教育の「形式卒業者」も増加している

また、不登校の長期化も問題です。たとえば、中3の不登校生のうち68.4%(47,602人)は、前年度から継続して不登校状態になっています。こうした子どもたちは、3月になると卒業証書をもらって形としては卒業となるけれど、実は中学の勉強にきちんとついていけないという、形式的な卒業となっているかもしれません。

「高校では心機一転して頑張ろう」と思っても、高校でもやはり勉強についていけず、また不登校を繰り返してしまうケースも考えられます。実際に不登校の高校生のうち25%は、前年度から不登校を続けている、長期の不登校となっています。

不登校状態にある高校生のうち、中退した生徒も1万人を超えています。また、近年、通信制高校の入学者が急増している状況を鑑みて、不登校からの入学や転学が増えている可能性を見ていく必要性も感じます。

東京都ではチャレンジスクールなど学び直しに力点を置いた高校も設置されていますが、こうした学び直しのカリキュラムを持つ学校を各県に増やしていったり、夜間中学を活用していくことも、大切なことだと考えています。

こうした状況は、「先生の努力不足」で片付けられる問題ではない

また、不登校は必ずしも学校の先生たちの努力不足が原因というだけではないことにも、触れておきたいと思います。中には保護者や家庭の気持ちにそぐわない指導をする先生がいるのは事実だと思いますが、不登校増加という現象に対して、学校の先生たちはどうしてもやり玉に挙がりがちです。

いまは社会の変化が激しく、先生たちの負担感があがっています。科目学習の力を一定つけさせて、探究学習やSTEM教育も行って、SNSで起きるいじめ事案の介入や、不登校の子どもの家庭訪問や、発達特性がある子へのクラス内での合理的配慮も…。

全部やりきれるというスーパーマンのような先生も一部いらっしゃるかもしれませんが、一人の先生でカバーできる範囲には限りがありますし、「全部取りこぼさないでください」というのは無理難題という場面もあるのではないでしょうか。

全てを学校で賄うことができないとしたら、学校に求められる社会的な機能を見直し、場合によってはそぎ落としていくことも、これから大切になってくるのかもしれません。居場所機能を強化していくことも、その方向性の1つだと思います。PISA(OECD生徒の学習到達度調査)などによると日本の子どもたちの学力は高いレベルを維持していますが、一方で内閣府調査では日本の子どもの自己肯定感はかなり低い状態にあります。

学習到達度についてどこまで高いレベルを求める必要があるのか、どんな子どもたちも安心して自分らしくいられる環境をつくるという方向性なども含めて、学校が社会の中でどのような機能を果たしていくのか、見直す時期に来ているのかもしれません。

臨床心理士等の有資格者の方の常勤配置が難しければ、つなぎとなるようなケア担当の常勤スタッフを配置し、子どもたちがちょっとしたことでも日々相談できるようにしながら、ハードなケースがあれば有資格者につないで対応を検討していくような形も、検討できるはずです。

家庭内の不和や経済的困窮など、家庭が居場所とならない子どもたちが一定数おり、そうした子どもたちを包摂できる地域の機能も弱まっている中で、学校に求められる居場所としての機能や福祉としての機能を、再評価する段階に来ていると思います。

1つの解決策がないからこそ、みんなで考えていく

不登校の要因は「これ」という単一のものではなく、複合的な要因がある以上、「こういう施設をつくったら解決する」という解決策はありません。現場の声を聞きながら、クラスの環境、学校内の相談や学びの環境、学校外の相談や学びの環境を少しずつアップデートする必要があると思います。

不登校の子どもたちが沢山いるけど定期的に支援につながっていないという現状を正しく把握し、どこでこぼれ落ちてしまっているのか、モニタリングを行いながら、改善していかなくてはなりません。

これまでの不登校調査は先生など学校側が答えるものだったので当事者の子どもたちの認識とはズレがあったと思いますが、文科省も不登校の児童生徒や家庭にアンケートを直接行うといった動きも進めているようです。

カタリバでも、当事者のご家庭や支援現場のスタッフたち、学校の先生方や研究者の方々も交えながら、引き続き考えつつ、この不登校児童生徒数の急増を子どもたちからのSOSと捉え、いま困っている子どもたちを待たせることのないよう、迅速に打ち手を考えていけたらと思っています。

認定NPO法人カタリバ代表理事

2001年にNPOカタリバを設立。高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。2011年の東日本大震災以降は子どもたちに学びの場と居場所を提供するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。「ナナメの関係」と「本音の対話」を軸に、思春期世代の「学びの意欲」を引き出し、大学生など若者の参画機会の創出に力を入れる。ハタチ基金 代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム理事。中央教育審議会 委員。著書に「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」(ダイヤモンド社、2023年)」

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