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29歳の女医も犠牲に。1日で医師4人が死亡する中国の新型コロナ現場

宮崎紀秀ジャーナリスト
中国で医療関係者の犠牲が続く(武漢の病院 2020年2月22日)(写真:ロイター/アフロ)

 ベッドに横たわる女性は、鼻に酸素チューブをつけ、まるで祈るかのように目を閉じていた。眠っていたのだろうか。顎の下に当てたタオルと掛けられた寝具のピンク色が、彼女の若さを思い出させた。

子供の頃から医師を志した29歳の女医

 闘病中に撮られたこの写真の女性は夏思思医師。新型コロナウイルスは、この29歳の女医の命をも奪った。

 夏医師は、湖北省の武漢にある協和江北医院・蔡甸区人民医院で消化器内科に勤務していた。

 中国メディアによると、夏医師は、医者の家庭に生まれた。父は軍医、母は看護師。幼い頃から医師を志したという。夫も現役の医師、大学の医学部で知り合って結婚したという。

 夏医師は1月14日、同医院に運ばれてきた70代の発熱患者に接触し、4日間その患者を担当した。最初にその患者に接してから5日後の19日、彼女は発熱を伴う倦怠感に襲われた。そして同医院に入院。治療を受ける。

 その後、2月7日に症状が悪化。市内の別の病院に移されたが、そのまま帰らぬ人となった。

 昨日2月23日午前6時30分に他界。彼女は夫と2歳の息子を残して、29年9か月と20日間の命を終えた。

1日で4人の医療関係者が死亡

 昨日23日には、中国メディアの報道で分かっているだけでも、夏医師を含め4人の医療関係者が死亡した。

 同じ湖北省の孝感市では呼吸器内科の黄文軍医師。享年42歳

 海南省の杜顕聖医師。享年55歳。いずれも新型コロナウイルスに感染したという。

 また、江蘇省の朱医師は多臓器不全で死亡。享年48歳。過労死という。

 中国では、新型コロナウイルス感染の最前線で、医療関係者さえ犠牲になっている。症状が重くなりやすいのは高齢者や持病のある人とされながら、若く働き盛りで、かつ感染予防にも細心の注意を払っているはずの医師らが、次々と病魔に屈するのは、どこか理不尽な気さえする。

 未知の病との戦いの難しさに、彼らは身を以て警鐘を鳴らしてくれたのだ。世界は彼らの犠牲を無駄にしてはいけない。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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