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善意の寄付だから感謝ではなく、寄付だからこそ問題である段ボール授乳室騒動

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
(写真:イメージマート)

島根県松江市の道の駅に段ボールの授乳室騒動、当初は「段ボールの授乳室だなんて、不安」という女性たちの声があがったが、次第にむしろそれに対する批判の声も大きくなっている。「ないよりもいいじゃないか」「寄付されたというのに、ひとの善意を無下にするなんておかしい」「少しずつ、改良していけばいい」「文句を言うなんて、お金がかかる。こうやって税金が使われるんだ」など。

私も、段ボール授乳室が、撤去されるであろうわけ―あまりに貧困な「子育て支援」という記事を書いたところ、同様の批判を戴いた。

島根県の丸山知事も、9月28日の記者会見で「間違った考え方」だとして、「批判を一蹴」したようである(道の駅「段ボール製授乳室」への批判に島根・丸山知事が反論 100点じゃないからダメは「間違った考え方、非難に惑わされちゃいけない」)。

「色々問題はあったと思いますが、100点じゃないから供用すべきじゃないっていうのは間違った考え方です。

車の中で、段ボールすらないガラス越しで授乳しなきゃいけないのなら、段ボール授乳室の方が使いたいって人がいるかもしれないから設置する。5点でも10点でも前進するなら、100点でなくてもやるべきことはやる。50点のものでも良いから使いたいという人がおられるかどうかですよ。これでも良いから使いますって人がおられるなら供用し続ければいいと思いますよ。

非難がたくさん来たんでしょうけど、そんなことに惑わされちゃいけない」

こうした知事の声に対して「正論」だと、賛同の声もSNSで上がっているようである(道の駅「段ボール授乳室」への批判を島根・丸山知事が一蹴「正論」「ちょっと感動」SNSで広がる賛同)。

さまざまな意見がでて、議論が活発になされることはよいことである。私も最初は、「善意での寄付なら、文句は言えないなぁ」と思っていた。実際にYahoo!のコメントにも「善意から寄贈されたものであるから言いにくい」と書いている。

しかし実はこの授乳室にかんして、国土交通省が数値目標として2025年までに50パーセントと掲げているのを知って、申し訳ないが評価が180度変わった。

国土交通省は「道の駅」第3ステージで地方創生の拠点として位置づけ、子育て応援を盛り込んでいる。そのためにベビーコーナーを設置の数値目標を2025年までに50%と掲げており、授乳室も25年までにその目標を達成しなければならないのだ。

ここで道の駅が本当に地方創生、子育て支援の拠点として有効なのかはもっと検討が必要ではあるが、数値目標を作ったのであったら、どのように達成するのかが次は問われるだろう。日本道路建設業協会は思いつきや善意でこの段ボール授乳室を寄付したのではなく、国土交通省のこうした取り組みの一環であったのだ(実際にさまざまな授乳室のあり方や、寄贈式の詳細などは、国交省のHPに記載されている)。

であるならば、避難所用の段ボール授乳室の寄付に頼り、数値目標を達成するのではなく、きちんとした予算の根拠が必要であっただろう。丸山知事もできれば、財政の問題に言及して、どのような制度構築が可能かについて語って欲しかった。

「税金が必要となるのがわかっているのか」というお叱りの声があったが、私の答えはむしろイエスである。子育て支援であるのであったら、きちんと財政的根拠をもって施策を推し進めて欲しい。「多くを求めるのはワガママだ」という声もあった。1メートル×2メートルの段ボールの授乳室は、避難所にあったらとてもありがたいと思う。しかし常設となれば、子どもを置くスペースもオムツ替えのスペースもないところで、小さな椅子に座って段ボールに囲まれて、お母さんは子育てを楽しいと思うだろうか? 「お気持ちかよ」と言われそうであるが、授乳をするお母さんの気持ちを考えてみて欲しい。そして段ボール授乳室でも「ないよりも有難いです」といわざるを得ない子育て世代が置かれている状況は、改善の余地があるのではないかと思うのである。

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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