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「キング北島」揺れる想い

萩原智子シドニー五輪競泳日本代表

若手の台頭が目立った競泳日本選手権

競泳の日本代表権が6日間(4月7~12日/東京辰巳国際水泳場)の日程で行われ、今夏の世界選手権日本代表選手が決定した。今大会は、中学生スイマー池江璃花子選手の活躍や4冠を達成した萩野公介選手や渡部香生子選手など、若い選手が活躍し、注目が集まった。

若手の活躍も印象的だったが、忘れてはならないスイマーがいる。長年、日本水泳界を牽引してきた男子平泳ぎの北島康介選手(アクエリアス)だ。32歳になった今でも、果敢にチャレンジする姿に心が熱くなった。

ワクワクするレース!

男子100m平泳ぎ決勝は、心が震えるレースだった。覚悟が伝わってくる、この舞台までの練習、そしてレースだった。水泳に対する姿勢、熱い想いは、出会った頃と変わらない。いつまでも泳ぐこと、勝負することが大好きな水泳少年「北島康介」なのだ。彼がそこに立つだけで心がドキドキする。いつまでもワクワクをくれるスイマーだ。

引退か、現役続行か・・・

「桜のように散ってしまったが、来年また桜を咲かせたいという気持ちは多少なりともある。」男子100m平泳ぎで3位となり、世界選手権日本代表権を逃した直後、北島選手が発した言葉だ。彼の揺れる想いが溢れていた。

引退か現役続行か。揺れ動く心は、本人にしか分からない。しかし私は、また来年も彼を応援できるかもしれないと、密かに胸を躍らせている。なぜならば、レース後の悔しそうな彼の表情は、次へのパワーに繋がると感じたからだ。

結果を受けて、悔しいと感じるか、もう仕方ないと感じるか。仕方ないと感じた時点で、アスリートとして戦うことは出来ない。北島選手は、レース後、「もっと出来た。悔しい。」とも話した。まだまだアスリートとしてのハートは燃え尽きていないのではないだろうか。

現役続行への覚悟

北島選手は、すぐに現役続行を表明しなかった。迷いを払拭し、自分自身と向き合い、覚悟を決められるか。現役続行は、険しい道のりになることは間違いないだろう。苦しくツラいトレーニングとも向き合わなければならない。年齢は関係ない・・・と話す人もいる。しかし、私も32歳まで現役生活を続けたが、疲労の抜け具合や体の故障には悩まされた。相当な覚悟が必要とされる現役生活。そう簡単には、決められないのが正直なところだろう。

2000年シドニーから、アテネ、北京、ロンドンと4回の五輪に出場し、金メダルを4つ獲得。世界新記録も樹立。誰が見ても、文句なしの水泳人生だ。しかし全てが順風満帆ではなかった。怪我や病気、度重なる故障にも悩まされてきた。金メダル大本命とまで言われ、周囲からのプレッシャーは相当なものだった。ときに自分自身の弱さをも受け入れ、逆境を力に変え、乗り越えてきた。そんな北島選手だからこそ、もう一度、チャレンジ出来る強さを兼ね備えていると思うのだ。

再び、新しい扉を・・・

今年は、新旧交代を告げる日本選手権だった。各種目を引っ張ってきたベテラン選手達が敗れ、日本代表から姿を消した。新世代の始まりだと言う人もいる。しかし若手の台頭によってだけもたらされるのが新世代ではない。ベテランがもう一度、死にもの狂いで切り開き光輝くことも、また新しい変化だ。常に新しい扉を開いてきた北島選手だからこそ、またベテランとしての新世代を築き上げられると信じている。

勝手な想いをぶつけるのは、失礼だと分かっている。しかし、もう一度、「キング北島康介」の真剣勝負を応援したい、と心から願う。

シドニー五輪競泳日本代表

1980年山梨県生まれ。元競泳日本代表、2000年シドニー五輪に出場。200m背泳ぎ4位。04年に一度引退するが、09年に復帰を果たす。日本代表に返り咲き、順調な仕上がりを見せていたが、五輪前年の11年4月に子宮内膜症・卵巣のう腫と診断され手術。術後はリハビリに励みレース復帰。ロンドン五輪代表選考会では女子自由形で決勝に残り意地を見せた。現在はテレビ出演や水泳教室、講演活動などの活動を行っている。

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