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「喫煙」は新型コロナ「後遺症」の原因になるか

石田雅彦科学ジャーナリスト
(提供:イメージマート)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下、新型コロナ)で無視できないのは、2020年5月頃から問題視され始めた後遺症(罹患後症状、遅延症状、Long-COVID)だ。感染者が増えればそれだけ後遺症の患者も増え、後遺症に悩む人も増え続けている。新型コロナ後遺症のリスク要因として喫煙が指摘されているが、最近の研究からそのリスクを考える(この記事は2025/01/12時点の情報によるものです)。

喫煙は新型コロナ後遺症のリスク要因

 新型コロナの入院や重症化、死亡は、喫煙と強い関係がある。日本の研究によれば、喫煙量が増えるほど新型コロナの重症度が増すことがわかっている(※1)。

 新型コロナに感染した人の多くは回復するが、治療後も症状が続く新型コロナ後遺症は大きな問題になってきた。新型コロナ後遺症のリスクにはどんなものがあるのだろうか。

 イタリアの研究グループが実施した複数の研究を比較し、統合的に分析する論文によれば、女性のほうがリスクが高く、基礎疾患(喘息、慢性閉塞性肺疾患=COPD、睡眠時無呼吸症候群、糖尿病、肥満)、そして喫煙などに発症との関係があるいう(※2)。これらの関係は依然として議論の分かれるところだが(※3)、中でも喫煙は新型コロナ後遺症の強いリスク因子とされる(※4)。

 全米の匿名データを用いた研究によれば、喫煙者は非喫煙者に比べて新型コロナから回復後に後遺症を発症するリスクが33%(オッズ比1.33)高く、過去喫煙者でも21%(オッズ比1.21)高かった(※5)。また、日本の研究グループによる報告によれば、喫煙は新型コロナ後遺症の回復を遅らせるリスク要因ということがわかっている(※6)。

 米国の大学生の新型コロナ後遺症の状況を調べた研究によれば、参加者の36%が後遺症を発症し、喫煙歴(現在喫煙者、過去喫煙者)のある参加者の発症リスクは非喫煙者に比べて59%(オッズ比)高かった(※7)。これは、ほとんど基礎疾患のない年代の若い参加者を対象とした研究として重要だ。

ワクチン接種も後遺症予防に重要

 また、新型コロナ後遺症では、感染前のワクチン接種が発症リスクを下げることがわかっている。これは最近の研究からも明らかだ(※8)。

 気温が下がって乾燥するこの季節、風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症が流行している。新型コロナも例外ではなく、依然として患者は多いままだ。

 新型コロナ後遺症については、明確な定義もまだなく、研究の多くはアンケート調査によるものでバイアスが生じやすいという問題がある。基礎疾患にかかっている喫煙者や肥満の喫煙者もいるはずだ。

 だが、喫煙は重症化などの明らかなリスク因子であり、後遺症との関係も強く示唆されている。禁煙することが、新型コロナの重症化対策や後遺症の予防に重要なのは言うまでもない。

※1:Mayuko Watase, et al., "Impact of accumulative smoking exposure and chronic obstructive pulmonary disease on COVID-19 outcomes: report based on findings from the Japan COVID-19 task force" International Journal of Infectious Diseases, Vol.128, 121-127, March, 2023

※2:Francesco Di Gennaro, et al., "Incidence of long COVID-19 in people with previous SARS-Cov2 infection: a systematic review and meta-analysis of 120,970 patients" Internal and Emergency Medicine, Vol.18, 1573-1581, 30, November, 2022

※3:Amani Al-Oraibi, et al., "Prevalence of and factors associated with long COVID among diverse healthcare workers in the UK: a cross-sectional analysis of a nationwide study (UK-REACH) " BMJ Open, Vol.15, Issue1, 6, January, 2025

※4:Antigona Carmen Trofor, et al., "Looking at the Data on Smoking and Post-COVID-19 Syndrome - A Literature Review" Journal of Personalized Medicine, Vol.14(1), 97, 16, January, 2024

※5:Olufemi Erinoso, et al., "Long COVID among US adults from a population-based study: Association with vaccination, cigarette smoking, and the modifying effect of chronic obstructive pulmonary disease (COPD)" Preventive Medicine, Vol.184, July, 2024

※6:Kazuki Takakura, et al., "Clinical features, therapeutic outcomes, and recovery period of long COVID" Journal of Medical Virology, Vol.95, Issue1, January 2023

※7:Megan Landry, et al., "Psotacute Sepuelae of SARS-CoV-2 in University Setting" Emerging Infectious Diseases, Vol.29, No.3, March, 2023

※8-1:Ida Henriette Caspersen, et al., "Post-COVID sympotms after SARS-CoV-2 omicron infection and the effect of booster vaccination: A population-based cohort study" Vaccine, Vo.. 8, January, 2025

※8-2:Tesleem K. Babalola, et al., "SARS-COV-2 re-infection and incidence of post-acute sequelae of COVID-19 (PASC) among essential workers in New York: a retrospective cohort study" THE LANCET Regional Health Americas, Vol.42, 100984, February, 2025

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科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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