「薬物中毒」に「拝金主義」…乱れる北朝鮮の教育現場
北朝鮮の教育現場で、深刻な拝金主義がはびこっていることがつたわってきた。北朝鮮では、6月1日が「国際児童節」つまりこどもの日だ。様々な行事が開かれて楽しく過ごすはずの一日だが、裏ではカネが飛び交っている。
ワイロで「同級生殺人」もみ消しも
咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、会寧(フェリョン)市の南門(ナムムン)幼稚園と炭鉱機械工場幼稚園ではこの日、運動会と登山会を行うことにした。
親たちは、自分の子どもがみすぼらしい恰好だとバカにされるのではないかと気にして、服と靴を買う。さらに、立派な弁当を作って教師に付け届けとして渡す。ある幹部は、弁当代やそれ以外の費用を合わせて10万北朝鮮ウォン(約1300円)を教師に渡したという。コメ20キロ分に相当する額だ。
幼稚園までもがカネまみれになったのは、北朝鮮の配給システムの崩壊に原因がある。教師らは、国から受け取る給料だけでは生計を立てられないため、子どもの親からカネはもちろんのこと、コメ、塩、味噌、歯ブラシ、歯磨き粉とありとあらゆるものを受け取る。
一方、親の方は市場での商売など様々な経済活動を行わなければ生きていけないため、子どもを幼稚園に預けざるを得ない。そのため、教師からの要求に応じるしかないのだ。そして、教師の要求に応じなければ、子どもが何をされるかわからないという恐怖心もある。
実際に、教師はより多くの金品をくれた親の子どもを露骨にえこひいきする。金持ちの子どもは生き生きしているが、庶民の子どもは周りの視線ばかり気にして、気後れしている。幼稚園の現場に蔓延する拝金主義は、こどもの日だけのことではない。学校に上がっても、社会に出てもずっとついて回るのである。
(参考記事:こどもの日も「賄賂漬け」…拝金主義が止まらない北朝鮮)
教育現場で、このような拝金主義がはびこっているせいか、中学生が犯した犯罪がワイロでもみ消されるという事例もあるという。
中学生が薬物中毒
昨年10月、両江道(リャンガンド)の金正淑(キムジョンスク)高級中学校の3年生だった「ソンジュ」という名前の生徒が、ある女子生徒をめぐって別の男子生徒と口論となり、刃物で刺して殺害した。高校生同士の「三角関係」のもつれと思われる「同級生殺人事件」で、男子生徒は逮捕された。しかし、両親は息子の刑期を短くするために、道の保衛局(秘密警察)などにワイロを渡すと同時に、圧力をかけたという。
(参考記事:薬物中毒・性びん乱の次は「同級生殺人」 北朝鮮の少年少女が暴走中)
学校現場で薬物中毒が蔓延していることも見逃せない。今年2月、会寧(フェリョン)市のキム・ギソン第1中学校で生徒の父母を集めた『大総会』が開かれた。ここでは、オルム(覚せい剤)を服用して性行為を行っている生徒らの非行問題で、とくに悪質と見られた生徒らの実名が公表されたという。
2011年1月には、清津(チョンジン)市の南江女子中学校で当局が取り締まりを行ったところ、16歳と17歳の生徒の相当数が覚せい剤の吸引道具を持っていたことが明らかになっている。
(参考記事:一家全員、女子中学校までが…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」)
北朝鮮では、2013年から義務教育の期間が12年制から13年制に1年延長された。こうした中、地方の教育現場では、教員不足を補うため一般住民から教員を選抜、雇用した。この教員たちは、理論ではなく実習を中心とした授業を進めることから、親たちからは概ね好評を得ているという。
こうした現場からの教育改革、いわば「北朝鮮・草の根教育改革」が、全体的にいい影響を生み出している一方で、拝金主義や薬物汚染が蔓延るようでは、健全な教育などできるわけがない。金正恩党委員長は、度々教育現場を訪れて「人民愛」をアピールしている。ならばこうした諸問題の解決に向けて積極的に取り組むべきだろう。