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水樹奈々が1年ぶりのシングル。この時世に「窮地だからこそ諦めない」想いをアニメ主題歌に込めて

斉藤貴志芸能ライター/編集者
キングレコード提供

声優アーティストのトップランナー・水樹奈々が、1年ぶりのシングル『Get up! Shout!』をリリースする。自らも出演するアニメ『SHAMAN KING』の第2弾オープニングテーマ。作品の昭和テイストな世界観を反映しつつ、デビュー20周年だった昨年のツアーが中止になったりもしたコロナ禍の時代を生きる想いも織り交ぜた。励みになる言葉も数々聞けたロングインタビューを前編・後編とお届けする。

若返ったと言われたくてトレーニングは必死に

――年明けのさいたまスーパーアリーナでのライブが決まりましたが、今も以前のようなアスリート並みの体作りはしているんですか?

水樹 トレーニングは春ごろから、徐々にペースアップしています。ライブに向けてしっかり準備したくて。再開した直後は「この回数でヒーヒー言ってるのか……」というのはありました。筋力が落ちていたので、早く取り戻そうと、つい必死にやりすぎて、自分の首を絞めてしまったりもしました(笑)。先日も流行りのヒットトレーニングをやったら、気持ち悪くなってしまって。しっかり追い込めている証拠ではあるのですが、悔しかったです(笑)。

――ライブまでには元の体に戻すと。

水樹 もう体力的にも筋力的にもしっかり戻っています。でも、以前よりも動ける身体を目指したくて。「水樹も年を取ったな」とか「間が空いたから息が上がってるよ」みたいなことを言われたくないから(笑)。「前より若返ってない?」と言ってもらえるように頑張ります!

歌謡曲テイストの憂いが欲しくて

――『Get up! Shout!』は『SHAMAN KING』の第2弾オープニングテーマ。アニメの2000年版以来、林原めぐみさんが歌っていたイメージが強いですよね。

水樹 林原さんの名曲と肩を並べて恥ずかしくないものができるのか、ものすごいプレッシャーでした。お声掛けいただいたからには水樹奈々らしい色をしっかり出しつつ、『SHAMAN KING』の歴代の主題歌と繋がりのある構成にしたくて。冒頭を必ず歌で始めることは決めていて、あとは作品に流れる世界観から、古き良き日本を感じるエッセンスを入れたいと思っていました。

――その点、林原さんは第1弾オープニングテーマの『Soul salvation』について、「令和にないド根性的なメロディが欲しかった」とのことでした。奈々さんもラジオ『スマイルギャング』で、昭和感や歌謡曲テイストを求めたと話していましたね。

水樹 実は『Get up! Shout!』はサビを一度書き直していただいたんです。心にガッと絡みつくようなメロディにしたくて。生と死が常に隣り合わせの『SHAMAN KING』の戦いとリンクさせることを考えたとき、どこか憂いがある、しこりのような余韻を感じられるものにしたいと。それが歌謡曲テイストだと思ったんです。日本独特のわびさび。光と影は表裏一体で、笑顔の裏には涙もある。カラッとした晴天でなく、雨や嵐を連れてきそうな雲が遠くで様子をうかがっているイメージ。言葉で表すのは難しいですけど……。

――そういうニュアンスは作曲の山本玲史さんには伝わったんですか?

水樹 伝わりました! 私の想いをすぐに汲み取っていただけて、一発でこのサビを仕上げてくださいました。ストレートだけど、まさにイメージ通りの心に絡みつく泣きのメロディに、一瞬で鷲づかみされました。

『Get up! Shout!』MUSIC CLIPより
『Get up! Shout!』MUSIC CLIPより

刃を向ける相手も受け入れるのは究極の愛だなと

――『スマイルギャング』では、作詞に当たって原作を改めて読んで、1ヵ月寝かしながら考えていた、との話もありました。その中で、奈々さんにとっての『SHAMAN KING』の核のようなものは浮かび上がりました?

水樹 “愛”です! 主人公の葉の生き方が究極の愛の形だなと、改めて感じました。葉は一見、マイペースなのんびり屋。自分がシャーマンキングを目指すのも「楽に生きられる世界を作るため」と言っていて。文字面だけで捉えると怠け者のように見えて、みんなが楽に生きられるなんて、すごいこと。葉はいつも、人間は十人十色で考え方が違うのは当たり前と、誰も否定しない。相手のすべてを受け入れて、どうしたら心を通わせられるかを考えている。器が大きくて、深い愛を持ったキャラクターだと思ったんです。そして、対峙する敵のハオも自分の正義を貫くために戦っていて。

――ハオは人類を滅ぼそうと1000年も輪廻転生を繰り返して、この時代に葉の双子の兄として生まれたことが明かされました。

水樹 過去にすべての人類に憎悪を抱くほどの喪失と絶望を経験しているんです。それで、良い世界を作るために人類を滅亡させようとしていて。そんな刃を向けてくる相手に、同じように刃を向けても、根本的な解決にならない。葉はハオの刃を身を呈して受ける覚悟で、歪んだ愛の形を元に戻そうと考えています。だから歌詞には、お互いの愛の形を織り交ぜられたらいいなと思いました。

――<天地を返すほど珠玉の愛>というフレーズが入りました。

水樹 生と死という、とてつもなく大きなテーマにふさわしい言葉を探して、辿り着いたフレーズです。どう表現するか悩んだ結果、とてもスケールが大きくなりました(笑)。今回の歌詞は2人を取り巻く様々なキャラクターたちの想いもシンクロさせたくて、ハードルを自分で上げてしまったので、練り上げるのに1ヵ月の時間が必要でした。メロディがシンプルで言葉数が限られている中で、言いたいことをしっかり落とし込めるかが勝負だったので、すごく難しかったです。

20年前なら物語の捉え方が違っていたと思います

――原作を読んで、20年前の『シャーマンキング』の頃とは違う感じ方もしました?

水樹 20年前は玉村たまおと兼ね役のコロロというキャラクターで参加していて、2人の人生を生きていました。たまおとして葉たちをどう支えられるのか。コロロとしてホロホロをどうサポートできるか。そういうことに注視していたので、捉え方が今と違っていたかもしれません。今回は主題歌を作詞も含めて担当させていただいて、グッと物語の中枢に入って、キャラクターそれぞれに寄り添いながら周りを見ることができました。作品をより深く体感できたと思います。

――そうした立ち位置の変化と共に、20年を経て、奈々さんの感覚も変わっていませんでしたか?

水樹 それもありました。20年前の私からは、この言葉たちは出てこなかったと思います。目の前の自分のことに必死で、葉のようにすべてを受け入れる考え方には行き着けなくて。もし当時、この作品の歌詞を書いていたら、もっと直接的な熱い表現でまとまっていたかもしれません。以前は来た球をそのまま打ち返す感じだったので(笑)、言葉のチョイスも物語の捉え方も違っていたと思います。

――それにしても、20年ぶりって、改めて考えるとすごいことですよね。

水樹 そうですね。20年を経て再び同じ役をやらせていただけるだけでも幸せなことなのに、さらに主題歌まで歌わせていただけるなんて、本当に光栄です。

当たり前なものこそ幸せとコロナ禍で感じました

――今回の詞に関しては、朝4時ごろに浮かんだフレーズがあって、そこからはスラスラ書けたとのことでした。

水樹 そうなんです。1番の出だしの<夜を編む静寂に導かれ>が朝4時ごろに浮かんで、そこからは導かれるように書けて、3日くらいで仕上がりました。冒頭の歌い出しの<胸に聳え立つ譲れぬ願い>は、全部書き終えてから象徴するようなワードを入れて、タイトルの『Get up! Shout!』は歌入れを終えてから決めました。今回はストレートでいこうと。

――自分の中でキーワード的に捉えているフレーズもありますか?

水樹 2番のBメロの<幸せはちっぽけな集合体-塊->までは、スラッと流れるように書けました。以前は当たり前だったことが、今は特別。ライブがこんなにできなくなるなんて考えもしなかったし、簡単に会えていた人とも今は会えなくて。『SHAMAN KING』では、ハオがいつも「ちっちぇえな」と言うんです。「そんな想いで俺に向かってきているのか?」と。でも、幸せはちっちゃいんです。当たり前すぎて気づかないものほど大きな幸せなんだと、コロナ禍で改めて感じました。その大きくてちっちゃいものを手に入れるために、私たちは頑張っていると、ここで表したかったんです。

朝型にしたら詞がストレートになって

――詞は昔みたいに、何日も徹夜して書くわけにはいかないんでしょうね。

水樹 そうなんです(笑)。今は朝型人間になって、早朝に書くことが多くなりました。

――そうなったことで、詞自体に変化はありました?

水樹 朝型に切り替えたのは数年前からで、生活が変わる以前に体のためだったんですけど、結果的に作詞では伝えたいことがまとまりやすくなりました。夜中に書いていた頃は比喩表現が多くて、物語的要素が強かったのが、朝型に変えてから、ストレートでシンプルな詞になってきた気がします。

――並べたらいけませんが、日記や手紙でも、夜に書いたものを朝に読むと「ポエマーか?」となりがちですよね。

水樹 本当にそうなんです(笑)。だから、曲によっては夜に書いたほうがいい場合も、今後出てくるかもしれません。

キングレコード提供
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心が折れたら負けなのは現実でも同じ

――『SHAMAN KING』の主題歌としては、戦い要素も必要だったわけですよね?

水樹 そうですね。『SHAMAN KING』での戦いは魂と魂のぶつかり合い。意志の強さで勝負が決まるので、心が折れたら負け。どれだけ自分の目的に対してハングリーになれるか。それは現実の世界でも、同じだと思うんです。持霊がいたり、特別な技を発動できなくても(笑)、夢や目標を叶えるためには心の強さと、どこまでストイックに向き合えるかがポイントになるので。『SHAMAN KING』を知らない方が聴いても、自分の夢に向かって立ち上がれるような曲にしたいと思って書きました。

――一方で、アニメではシャーマンファイトが佳境に入るタイミングから流れることも意識しましたか?

水樹 本当に熾烈な戦いが続いて、何度も死んでは蘇る過酷さに身を置くキャラクターたちの想いも、乗せられたらいいなと思いました。シンプルな中に憂いがあるメロディに、どのキャラクターの感情ともシンクロする多面的な詞を付けられたらと。なので、強い言葉を選んでいます。

――『SHAMAN KING』では主人公の葉も含め、キャラクターたちがみんな敗北を経験しますよね。

水樹 そうなんです。何度も打ちのめされて、自分の実力を思い知らされて、それでも蘇って立ち上がる。打たれても打たれても負けない、諦めない。観ていて胸が熱くなります。順当に勝ち上がったり、すぐに強くなったりはしない。どうにもならない敵と向き合わないといけないのに、葉は「なんとかなる」が口ぐせなんですよね。たぶん焦りや緊張感はありつつも、冷静に自分が今できることを探っている。なかなか行き着けない究極の領域だと思います。

ボーカルは柳のようにしなやかに

――詞には“絶望からの希望”のようなニュアンスも感じます。

水樹 ピンチがチャンスということは、大人になるとたくさんあって。子どもの頃なら「もうダメだ」と見切りをつけていたかもしれないところで、経験を積むと「まだ方法はある」と諦めが悪くなる。いつでもどんなときでも諦めさえしなければ、大逆転への道が広がっていると、私も成長しながら学んできました。今のコロナ禍の状況に繋がる部分もあるなと。

――そこでも作品世界と現実が交錯していますね。

水樹 ライブができなくて、ツアーが中止になって、私もすごく悔しい想いをしました。でも、そんな今だからこそ、オンラインの新しいプロジェクトを考えたり、この状況にならなければトライしなかったことも多々あります。そういう点でも、今の自分の心境と重なるところがありました。

――『Get up! Shout!』とタイトルから熱い曲ですが、ボーカルはスイスイ行って爽快な印象がありました。

水樹 柳のようにしなやかに、まさに葉の生き様を表すようなボーカルを目指しました。直球で攻めるところは攻める。流れに委ねるところは委ねる。変に歯を食いしばって抗わない。どっしり構えるというより、ヒョイヒョイ身軽にこなしていくようなイメージ。Aメロ、Bメロ、サビとメロディの色味がどんどん変わっていくので、そこにシンクロするように表情を変えていけたら、この曲の良さをしっかり伝えられると思って歌いました。

――<軽快な魂>というフレーズと呼応している感じ?

水樹 まさにそんなイメージで、気持ち良く曲を乗りこなせたらと思いました。

*インタビュー後編はこちら。カップリング曲や最近のプライベートについて。

『Get up! Shout!』MUSIC CLIPより
『Get up! Shout!』MUSIC CLIPより

Profile

水樹奈々(みずき・なな)

1980年1月21日生まれ、愛媛県出身。

1997年に恋愛シミュレーションゲーム『NOëL ~La neige~』で声優デビュー。2000年にシングル『想い』で歌手デビュー。2009年にアルバム『ULTIMATE DIAMOND』、2010年にシングル『PHANTOM MINDS』で声優初のオリコン週間チャート1位に。2009年に『NHK紅白歌合戦』に初出場(以降6年連続)。2011年に声優初の東京ドーム公演。主なアニメ出演作は『魔法少女リリカルなのは』シリーズ(フェイト・テスタロッサ役)、『ハートキャッチプリキュア!』(花咲つぼみ役)、『NARUTO-ナルト-』シリーズ(日向ヒナタ役)など。

公式HP

『Get up! Shout!』

10月27日発売 1320円(税込)

キングレコード提供
キングレコード提供

『NANA MIZUKI LIVE RUNNER 2020 → 2022』

2022年1月3日・4日/さいたまスーパーアリーナ

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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