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年末年始に飲み過ぎ?コロナ禍で暴飲増加の米で注目される新年の禁酒月間「ドライ・ジャニュアリー」

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

ドライ・ジャニュアリー(Dry January)という言葉を聞いたことはあるだろうか?

アメリカでも年末年始は感謝祭、クリスマス、大晦日といったイベントごとが続き、飲酒量もつい増えてしまいがち。そこで、新年を迎えたこのタイミングで「心新たに悪しき習慣を断ち切ろう」「1ヵ月禁酒して体をリセットしよう」と思い立った人々が実践する新習慣がドライ・ジャニュアリー(乾いた1月=ノンアルコール月間)と呼ばれるものだ(別名:Drynuary、ドライニュアリー)。筆者が以前ニューヨークで取材をしたノンアルコール・バー(ソーバー・バー)のオーナーも、その効用を認めていた。

ハーバード・ヘルス・パブリッシングによると、ドライ・ジャニュアリーは2012年、英国の慈善団体Alcohol Change UKが始めたものだという。この10年間でアメリカにも伝来し、今では世界中で毎年何百万人もの人々がこの新習慣に挑戦するなど、トレンドとなっている。

コロナ禍でドライ・ジャニュアリーが見直されている

アメリカでは、新型コロナウイルスのパンデミック以降、アルコールの過剰摂取が増えているという報告がある。

ハーバード・ヘルス・パブリッシングによると、832人を対象にした調査で、月に平均12.2日、27杯の飲酒をしていることがわかった。回答した3分の1以上が暴飲傾向にあり、3分の2近くがコロナ禍で飲酒量が増えたと答えた。

ハーバードガゼットが発表したハーバード大付属マサチューセッツ総合病院による調査でも、コロナ禍で暴飲気味の人が21%増加していることがわかった。研究者は、飲酒量が持続的に1年以上増加すると、死亡率が19~35%上昇する可能性を指摘している。

このように、アメリカではコロナ禍においてアルコールへの過剰な依存が社会問題にもなっており、多くのメディアがドライ・ジャニュアリーの効用について紹介している。

USAトゥデイによると、2200人を対象に行ったある調査では「近年より多くの人々がこの新習慣を実践しながら新年を迎えるようになってきており、昨年1月には13%の人々がドライ・ジャニュアリーを実践した」とある。1ヵ月、お酒と距離を置くことで「自分とアルコールとの関係を見直すきっかけになり、年末年始の大量飲酒による体調を回復させリフレッシュできる。しかも節約しながら」と、その効果を高く評価している。

健康上の効用として「心臓病や癌の予防、免疫機能の向上、肌質の改善、安眠などに繋がり、気分の向上など精神的な安定をもたらす」(NBC)、「睡眠の質が上がり、活力が増し、体重減少、血圧とコレステロール値のコントロールが可能に」(ハーバード・ヘルス・パブリッシング)などが挙げられている。両メディア共に「1ヵ月という短期間でも、実践すると効果を感じられる」とある。

ドライ・ジャニュアリーを実践する人は増えている。
ドライ・ジャニュアリーを実践する人は増えている。写真:アフロ

ドライ・ジャニュアリー、成功の秘訣

メディアでは、ドライ・ジャニュアリーを成功するための秘訣もいくつか紹介されている。

1. アルコールの代替ドリンクを見つける

炭酸水、ソーダ、ノンアルコール飲料など代替ドリンクを見つける。(ノンアルコールと謳われているビールやワインでも最大0.5%のアルコールが含まれている商品もあるためラベルを確認する。砂糖が少ない商品を選ぶ)

2. 誘惑を避ける

家にアルコールを置かない。誰かの家に招待されたらノンアルコール飲料を持参する。

3. サポート体制を固める

家族や友人など周囲の人に知らせる。サポートグループに入ったり、禁酒・減酒仲間を見つけられたらなお良し。

4. アプリを活用する

目標達成を助けるアプリを活用する。(Try Dryなど)

5. 諦めない

もしスリップ(再飲酒)しても、罪悪感を感じる必要はない。また翌日から始めれば良い。

ハーバード・ヘルス・パブリッシングより)

1. 生活のルーティーンを改善する

いつもの飲むシチュエーションが、仕事から帰宅しホッと一息で1杯ということであれば、代わりにエクササイズしたり散歩に出かけたりと、新たな習慣を始めてみる。

2. サポートシステムを構築

家族や友人に知らせることで、サポート体制が得られやすい。

3. 代替ドリンクを見つける

炭酸水、フレーバー付きのドリンク、レモン水などを代わりに飲む。

(* ノンアルコール市場は2026年までに1.6トリリオンドル、日本円で約185兆円規模になるとの予想)

NBCより)

1. 禁酒・減酒に挑戦する理由を明確に

禁酒・減酒に挑戦する理由や動機は人によってさまざま。「飲み過ぎは悪いことだから」というような曖昧な理由ではなく、「良質な睡眠を確保したいから」「毎朝気持ちよく起きて運動するため」など、禁酒に挑戦する理由や動機を明確にする。

2. 目標を「賢く」設定する

仕事や勉強もそうだが、目標というのは達成可能な範囲で具体的に立てていた方が達成しやすい。例えば「飲酒は週3日までに減らす」「ビールを1杯までにする」「飲み会への参加ゼロ」など、数値化で具体的に目標を立てる。目標は大き過ぎると達成できない可能性も高くなるため、ほどほどの目標値が良い。

3. 目標を公言する

自分1人でチャレンジするより、誰かと目標を共有した方が、成功率は高くなる。中でもソーシャルメディアでの公言はお勧め。(後に引けなくなるため)

4. 「モックテイル」で乗り切る

「モックテイル」は本物のカクテルそっくり。
「モックテイル」は本物のカクテルそっくり。写真:イメージマート

飲み会やパーティーでは、モックテイル(mocktail=ノンアルコール・カクテル)や炭酸水などアルコールの代替品を飲むことで、脳を騙して誘惑を乗り切る。最近では、カクテルと区別がつかないほど本物そっくりのモックテイルが増えている。

5. 気持ちを記録する

禁酒に失敗したり、結果的に断酒ができなかったとしても、つい飲んでしまった時や飲み過ぎた時の気持ち、どのような状況で深酒に至ってしまったのかなどを記録し振り返ることで、飲みたい衝動に駆られやすいシチュエーションの傾向がわかり、分析の上で役立つ。

CNNより)

ドライ・ジャニュアリーの効用が報じられる中、その達成の難しさも同時に指摘されている。

デイリーメールが発表した、2000人を対象に行われたある調査では、ドライ・ジャニュアリーに挑戦した半数の人が2週目に入る前にギブアップした。20%の人は「アルコールなしでは1ヵ月間ももたない」と認めている。

かく言う筆者もドライ・ジャニュアリーというか、クリスマスの翌日から禁酒を始める習慣を取り入れて今年で2年目になる。昨年は5月まで禁酒に成功したが、気温上昇と共にBBQパーティーなどが増え、生ビールに手が出てしまった(前述の各記事によると、ドライ・ジャニュアリー脱落者の多くも、ソーシャライズの場においてノンアルコールで通すのが難しいと感じている人が多いようだ)。しかし筆者は、まったく飲まない期間を設けることでストレスが軽減され、自分とアルコールとの関係を見つめ直すきっかけになったことを実感しており、今回も12月末から2年目の「ドライ・ジャニュアリー+α」に挑戦中だ。今年は昨年の失敗を糧に、もうすこし長く禁酒を実践できる気がしている。

禁酒や断酒への決意がそれほど固まっていなかったり、ただ酒量を抑えたい程度の人向けに、ダンプ・ジャニュアリー(Damp January:湿った1月という意)という、ドライ・ジャニュアリーよりやや緩めの新習慣もあるようだ。

年が明けて1月の上旬、新たなチャレンジのスタートとしてはまだ遅くないはず。新年に新たな気持ちで新たなことを(自分のできる範囲で)チャレンジしてみてはいかがだろうか。

  • (注)いずれの記事も、飲酒量をうまくコントロールできない場合やアルコール離脱症状に苦しむ場合は、専門機関による治療を受けることを推奨している。

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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