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太り過ぎは皮膚にも大敵!?肥満と皮膚疾患の深い関係

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

肥満と皮膚の意外な関係 - 太り過ぎが引き起こす皮膚トラブルとは

近年、肥満は世界的な健康問題となっています。太り過ぎは心臓病や糖尿病のリスクを高めるだけでなく、実は皮膚にも悪影響を及ぼすことが分かってきました。米国皮膚科学会の報告によると、肥満または過体重の人の約50%が、何らかの皮膚疾患を抱えているのだそうです。肥満によって引き起こされる皮膚トラブルには、どのようなものがあるのでしょうか。

【肥満が皮膚に及ぼす影響】

肥満の人の皮膚は、皮下脂肪が増えることで厚みを増し、表面の凹凸が大きくなります。また、セラミドなどの皮膚の保湿成分が減少し、乾燥しやすくなるのです。こうした皮膚の変化は、肥満特有の皮膚トラブルを引き起こす原因となります。

代表的な肥満関連の皮膚疾患として、足底の角質増殖(かくしつぞうしょく)や肥満性間擦疹(ひまんせいかんさつしん)、多毛症(たもうしょう)などがあります。足底の角質増殖は、体重増加による足への負担が原因で起こる厚い角質層の形成を指します。「馬蹄形の」角質増殖が特徴的で、米国の研究では肥満患者の間で最も一般的な皮膚症状だったそうです。

一方、肥満性間擦疹は、皮膚どうしの摩擦によって股や脇の下などに発疹ができる状態です。皮膚のこすれによる刺激が原因で、痒みを伴うこともあります。多毛症は、肥満に伴うホルモンバランスの乱れ、特にアンドロゲン(男性ホルモン)の過剰が原因と考えられています。顔や体の毛が濃くなるのが特徴です。

肥満は皮膚のバリア機能や血流にも影響を及ぼします。皮膚のバリア機能が低下すると、細菌やウイルスが侵入しやすくなり、皮膚感染症のリスクが高まります。また、肥満による皮膚の微小循環の低下は、創傷治癒の遅延や皮膚潰瘍の原因にもなり得ます。

【炎症性皮膚疾患との関連】

近年の研究から、肥満は乾癬(かんせん)やアトピー性皮膚炎など、炎症性の皮膚疾患とも深い関わりがあることが明らかになってきました。肥満によって体内の炎症性物質が増加すると、これらの皮膚疾患を悪化させるのです。

乾癬は、免疫系の異常により皮膚に炎症が起こる慢性疾患です。実際に、乾癬患者の約60~70%が肥満または過体重であるという報告もあります。肥満は乾癬の発症リスクを高めるだけでなく、症状を悪化させ、治療効果を低下させる可能性も指摘されています。

アトピー性皮膚炎も、肥満との関連が注目されている皮膚疾患の一つです。肥満によって増加する炎症性サイトカインが、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させると考えられています。BMIが高いほど、アトピー性皮膚炎のリスクが上昇することも報告されています。

その他にも、肥満は膿疱性乾癬(のうほうせいかんせん)や掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)など、様々な炎症性皮膚疾患との関連が示唆されています。肥満が皮膚の炎症を引き起こすメカニズムについては、まだ不明な点が多く、今後のさらなる研究が待たれます。

【体重管理の重要性】

肥満による皮膚トラブルを防ぐには、適切な体重管理が欠かせません。食事療法や運動によって体重を減らすことで、肥満関連の皮膚疾患が改善したという研究結果も報告されています。

例えば、低カロリーダイエットによる体重減少が、乾癬の症状改善に有効だったという研究があります。また、肥満治療薬の中には皮膚に副作用を引き起こすものもあるため、医師と相談しながら慎重に使用する必要があります。

減量手術は、高度肥満の治療法の一つですが、術後に特有の皮膚トラブルが現れることがあります。手術による栄養吸収不良が原因で、亜鉛欠乏性の皮疹や脱毛などが起こり得ます。減量手術を受ける際は、皮膚の変化にも注意が必要です。

肥満が皮膚に与える影響は意外と知られていませんが、太り過ぎは皮膚の健康にとっても大敵なのです。バランスの取れた食事と適度な運動を心がけ、健康的な体重を維持することが、美しく健やかな皮膚を保つ秘訣と言えるでしょう。肥満による皮膚トラブルに悩んでいる方は、皮膚科医や肥満治療の専門医に相談することをおすすめします。

参考文献:

- Hirt PA, et al. Skin changes in the obese patient. J Am Acad Dermatol. 2019;81(5):1037-1057. doi:10.1016/j.jaad.2018.12.070

- Zhang A, Silverberg JI. Association of atopic dermatitis with being overweight and obese: a systematic review and metaanalysis. J Am Acad Dermatol. 2015;72(4):606-16.e4. doi:10.1016/j.jaad.2014.12.013

- Magana Garcia MDC, et al. Cutaneous manifestations after bariatric surgery: a review article. Indian J Plast Surg. 2020;53(2):237-244. doi:10.1055/s-0040-1721844

- Front Nutr. 2022 Mar 10:9:855573. doi: 10.3389/fnut.2022.855573.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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