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早期の日銀によるイールドカーブ・コントロール撤廃の可能性を探る

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 4月8日に黒田日銀総裁の任期が終了する。9日からは植田日銀がスタートする。

 植田氏は2月24日の衆議院議院運営委員会で行われた所信聴取と質疑において、長期金利と短期金利に操作目標を設けて金融緩和策を行う今の枠組み、「イールドカーブ・コントロール」について次のようにコメントしていた。

 「日銀は去年12月以降、副作用をなるべく緩和する意図のもと、さまざまな措置を採用し、現在はその効果を見守っている段階だと私は考えている。具体的なオプションの是非について申し上げることは、現時点では控えたいが、時間をかけて議論を重ね、望ましい姿を決めていきたい」と述べていた。

 これまでの植田氏の発言内容からは、まずは「イールドカーブ・コントロール」の修正もしくは撤廃に着手し、その後時間を掛けてマイナス金利政策を解除するとの見方となっている。

 すでに物価も上昇しているなかにあって、さっさと両方とも解除してほしいが、どうも緩和方向からの転換は総裁が代わっても容易ではないようである。それはそれで中央銀行の金融政策としてはおかしいと思うが、ここ10年で日銀はインフレファイターの面影もなくしてしまっているようである。

 それはさておき、それでは「イールドカーブ・コントロール」の修正もしくは撤廃はどのタイミングでどう行ってくるのか。

 IMF日本担当ミッション・チーフのラニル・サルガド氏は記者団に対し、日銀にはYCCの変更を事前に示唆することは勧めないと発言。そうした場合、市場で投機的な圧力につながる恐れがあるとした(3月31日ブルームバーグ)。

 IMF日本担当ミッション・チーフに言われるまでもなく、YCCの変更を事前に示唆することは考えづらい。オーストラリアのYCC撤廃も突然であった。

 オーストラリア準備銀行は昨年10月22日、2月以来初めて2024年4月償還国債を額面10億豪ドル買い入れると発表した。つまり利回り目標を維持する動きに出ていた。

 同月27日に発表されたオーストラリアの7~9月期のコアインフレ率は6年ぶりに2%を超えた。これを受けてのオーストラリア準備銀行による市場への介入は控えていた。

 29日にオーストラリア準備銀行は市場の予想に反し、3年国債の利回りを0.10%前後の目標水準に抑制するための対応を行わず、国債を購入する計画も公表しなかった。

 これを受けて、早ければ11月2日の政策決定会合で、2024年4月償還国債を対象とする利回り目標の撤廃ないし、修正が決定される可能性が市場で意識された。

 オーストラリア準備銀行(中央銀行)は、昨年11月2日に開催された政策決定会合に3年国債の利回り目標によるイールドカーブ・コントロールを停止すると発表した。

 それでは日銀はどのタイミングで「イールドカーブ・コントロール」の修正もしくは撤廃を行うのか。植田氏の発言からは時間を掛けてとの認識のように窺えるものの、こればかりはタイミングも重要になる。

 7日現在、10年債カレントとなる370回債利回りは0.455%と0.5%に届いていない。これは欧米の長期金利の低下などにもよるものである。370回は4月5日に発行されたばかりで、日銀による指値オペでの購入はまだない。ここはひとつのチャンスとなる。

 したがって早ければ4月10日の10時10分のオペレーションで指値オペのオファーをしないという選択肢がある。

 その上でか、もしくはそれまで何もせずいきなり4月27日、28日の植田体制となってはじめての金融政策決定会合で「イールドカーブ・コントロール」の修正もしくは撤廃を決める可能性もある。

 こればかりは非常にタイミングが難しい。

 日銀としては投機筋に追い込まれての修正はしたくないというのが本音であろう。そうであれば、10日に指値オペをオファーせず、28日の決定会合でイールドカーブ・コントロールの撤廃を決めるというのが、市場にもそれほどの影響を与えないとは思う。

 しかし、新執行部の顔ぶれをみると、黒田体制の余韻が残りすぎ、簡単にはブレーキは掛けられないようにもみえてしまう。市場参加者の読みとしては6月の決定会合から修正を始めるとの見方が多いようだ(QUICK月次調査より)。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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