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ハリウッドのスト:デモをする組合員への嫌がらせ?猛暑の中、日陰を与えた木が突然切られる

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
猛暑の中でも俳優と脚本家はスタジオや配信会社の前でデモ行進を続ける(筆者撮影)

 全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)がストライキを始めた今月14日以降、ロサンゼルスでは猛暑が続いている。俳優たちは、5月2日からストをしている脚本家組合(WGA)の仲間たちと一緒に、メジャースタジオや配信会社の前に集まり、プラカードを持って連日デモをしているが、最高気温は30度超えで、楽ではない。ディズニー、ユニバーサル、ワーナー・ブラザースのスタジオがあるバレー地区は、ロサンゼルス中心部よりもさらに暑い。

 そんな中、ユニバーサルのゲート前の通りにあるイチジク属の木々は、ありがたい存在だった。長い枝に多くの葉が茂るこれらの木は、日陰を作ってくれる。ロサンゼルスは湿気がないので、陰に入ると全然違うのだ。

 しかし、今週月曜、再びユニバーサルの前に戻った組合員らは、ショックを受けた。週末の休みの間に木々が剪定され、枝は短く、葉はほとんどなくなっていたのである。しかも、手が入れられたのはこれらの木だけで、道の反対側の、行進が通らない場所にある木は、そのままだ。市がやるならば、通りの反対側もやるのが普通ではないか?ここでのデモに参加してきた脚本家のクリス・スティーブンスは、ユニバーサルをタグ付けし、先週とまるで違う姿になった並木の写真をツイッターに投稿した。

 これに対し、ユニバーサルは、並木のトリミングは毎年この時期にやっていることだとし、ストライキは関係ないと主張。「俳優組合、脚本家組合がデモを行う権利を支持します」と声明を発表した。だが、そんなことが起きていると知ったロサンゼルス市の監査役は、すぐさま調査を開始。その結果、問題となっている場所には、この3年間、木の剪定の許可申請が一度もなされていないことが判明したのだ。つまり、「この時期に恒例で毎年行っている」というのは、嘘だったということ。許可なしで公共の道にある並木の剪定を行ったことに対して、今後、召喚状が出されることになる可能性もある。

 まるで違う姿になってしまった木の写真を見た人たちから、ソーシャルメディアには、「ここまで切ってしまうのは木にとってひどいのではないか」、「枝が死んでいるとかでなければ真夏に剪定なんて普通はやらない」、「カリフォルニアでイチジク属の木の剪定、とグーグルしたら、『冬』と出てくる」などといったコメントが寄せられている。「木がどうのこうのじゃないんだ」、「嘘つき」など、堂々とユニバーサルを非難する書き込みも見られる。

組合と、スタジオや配信会社の対立は険悪

 この出来事は、ストライキをする俳優と脚本家に対するスタジオの苛立ちを象徴するものだと言える。

 今回のストは、俳優組合、脚本家組合が、スタジオ、テレビ局、配信会社らを代表する全米映画テレビ製作者団体(AMPTP)と結ぶ労働契約の更新に当たり、内容に合意が得られなかったことから起きたものだが、どちらの組合も交渉期限の締め切りに先立ち、投票を行って、交渉がまとまらなかった場合はストライキをする許可を組合員から得ていた。AMPTPは、そんな彼らを、ストをちらつかせて交渉をしてくるのかと不快に捉えたようで、交渉期限がギリギリに迫った時、「もっと礼儀正しいやり方をしてくれるといいんだけどね」と言ってきたと、俳優組合の交渉リーダーであるダンカン・クラブツリー=アイルランドは、スト開始を発表する記者会見で述べている。彼は「ストをするのは労働者として当然の権利なのに」とも言い、強い不満を見せた。

 また、俳優組合がストに入る直前には、2ヶ月以上前からストを続けている脚本家について、スタジオのエグゼクティブが「破産して、家賃が払えなくなって、泣きつくまで待つ」、「残酷だが必要悪だ」と考えているという事実が、「Deadline.com」によって報道されている。この報道は、強いショックを与えた。AMPTPは、彼らがどうなってもかまわないのだ。

 組合側とAMPTPの開きはとても大きい。組合側は、配信の台頭でビジネスモデルが崩れ、組合員の多くが収入減に苦しんでいる今の状況をなんとかしたい。それで、最低賃金のアップ、配信からも視聴数にもとづくレジデュアル(再使用料、あるいは印税)の支払いを求めているのだ。AIも懸念事項である。しかし、AMPTPは、配信ビジネスはどこもまだ利益が出るに至っておらず、社員のレイオフもしているところで、それらの要求を満たせというのは非現実的だと反論。たとえば最低賃金に関しては、俳優組合は最初15%アップを求めていたのに対し、AMPTPは5%アップで十分寛大だと思っている。また、脚本家組合が、ひとつの作品に最低これだけの人数の脚本家を最低これだけの期間雇うことをルールにするよう求めていることについて、AMPTPはまるで取り合わない。

 ストが長引けば長引くほど、収入が途絶えた俳優や脚本家は苦しくなる。家賃を払えなくなって泣きつくようになったら、まさに相手の思うつぼだ。そこまでに両者が合意に至ることは非常に重要である。そのためにはまず話し合いを再開させることが第一歩。その日はいつ来るのだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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