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藤井聡太王将、居飛車穴熊でダイヤモンド美濃を粉砕! 菅井竜也挑戦者を下して王将戦七番勝負2連勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月20日・21日。佐賀県上峰町・大幸園において、第73期ALSOK杯王将戦七番勝負第2局▲藤井聡太王将(21歳)-△菅井竜也八段(31歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 20日9時に始まった対局は21日15時26分に終局。結果は113手で藤井王将の勝ちとなりました。藤井王将はこれで七番勝負2連勝です。

 第3局は1月27、28日島根県大田市・国民宿舎さんべ荘でおこなわれます。

 藤井王将の今年度成績は38勝6敗となりました。

 藤井王将は依然、史上最高勝率を上回るペースで勝ち続けています。

居飛車穴熊VSダイヤモンド美濃

 第1局と先後は替わって、第2局は藤井王将が先手です。

 後手の菅井八段は第1局に続き、三間飛車を採用しました。第1局では互いに組み合う相穴熊で、藤井王将が勝っています。

 本局、藤井王将はまたも居飛車穴熊に組んでいきます。

藤井「(25手目)▲6六銀と上がると玉を固めることはできるんですけど。ただ、一方で、攻め駒が少なくなってしまう懸念もあったので。そうですね。うまく手を作っていけるかどうかがポイントかなと思っていました」

 菅井八段は穴熊ではなく、金銀4枚をひし形状に組み上げる美濃囲い、「ダイヤモンド美濃」を選びました。菅井八段にとっては普段あまり指さない形であり、考えに考えた末の選択だったのでしょう。

菅井「(1日目の駒組は)一局の将棋かなと思っていました」

 42手目。菅井八段が7筋の歩を突いたところで、藤井王将は次の手を指さず、1日目昼食休憩に入りました。

 タイトル戦では、ご当地の名物をよく頼む藤井王将。しかし、うなぎは注文したことがありません。前期王将戦では初防衛を果たしたあと、撮影でうなぎのつかみどりにチャレンジしていたのは記憶に新しいところです。

 1時間の休憩が終わり、13時30分に対局再開。その後も藤井王将は考え続けます。消費時間は実に1時間40分。そこまで考えて、43手目、7筋の歩を突っかけて動いていきました。早くも中盤の勝負どころを迎えたようです。

 菅井八段も1時間25分考えて8筋に角を上がれば、藤井王将はまた1時間2分を使って、7筋の歩を取り込む。持ち時間8時間のタイトル戦らしいスローペースです。

藤井「こちらの駒がちょっと片寄った陣形なので。どういうふうに動きを見せるか、難しいところかなと思っていました」

魔が差したか、菅井八段

 2日制の王将戦では1日目18時の時点で手番の側が次の手を封じ、指し掛けとなります。

 そろそろ封じ手を意識しはじめる17時20分少し前、菅井八段の手が動きます。長考の応酬のあとの46手目。菅井八段は4分の考慮で飛車側の桂を跳ねました。軽快な攻めの一手。しかし、この桂跳ねで、菅井八段は形勢を損ねることになりました。

 局後、菅井八段は次のように語っていました。

菅井「ちょっともう、封じ手の少し前に、敗着を指してしまったので(苦笑)。もう、ちょっとそうですね。ちょっとお話にならないですね。△8四角▲7四歩に△同銀と取る手しか考えてなかったんですけど。ちょっとなんか、自分でもなんで△4五桂と指したのか、ちょっとよく・・・。はい。(目を閉じて、小さな声で)びっくりしました」

 さんざん考えた末に、ふっと魔が差したかのように、ほとんど考えていなかった手を指してしまう。不思議なことに、タイトルを争うクラスの棋士でもそうしたことはあり、それを正直に語った先人の言葉も残されています。

 指した手が疑問であっても、相手がとがめなければ、疑問手とされずに通ります。しかし藤井王将は相手のミスを見逃しません。47手目、9分の考慮で角を上がったのが好手。菅井八段の攻めを間接的に封じる一方、藤井王将の側からは気持ちよく角を使う順を見せています。

藤井「流れは速くなりましたけれども、その辺りが一手一手、難しいところかなと思っていました。実戦は後手の8四の角を押さえ込めるかどうかがポイントになったかなと思っていました」

 藤井王将が気持ちよく角を飛び出して初王手をかけたのに対して、菅井八段は50手目、合駒で7筋に歩を打ちます。藤井王将が51手目を封じて、ここで1日目が終了しました。

 1日目にして、藤井王将の作戦勝ちは明らか。菅井八段にとっては、つらい一夜を過ごしたかもしれません。

振り飛車党、受難の日

 明けて2日目朝、藤井王将の封じ手が開封されます。大方の予想通り、51手目は好位置に角を引く自然な手でした。

藤井「(相手の)8四の角がどうなるかというのがポイントで。一歩渡すと(銀取りの)△6五歩がけっこう厳しい手になるケースが多いんですけど。うまくプレッシャーをかけていくことができれば、ペースを握れる可能性もあるのかなと思っていました。(53手目)▲8六歩と突いていくか、▲7七銀上がるとするかちょっと、迷っていたんですけど。一応本譜はどこかで▲7七銀を引く余地を作って指そうというふうに思っていました」

 形勢がよくても、絶対に楽観をしないのが藤井流です。飛車を成り込み、自陣のキズを消し、歩を垂らしてと金づくりを見せる。時間を使って慎重に考え、的確にポイントを重ね、優位を拡大していきました。

藤井「(73手目)▲4二歩と垂らして、と金を作って攻めがつながる形にできたのかなとは思っていました。こちらの玉が安定した形で戦いを起こすことができたので、そのあたりから少し、ペースをつかめたかな、というふうに感じていました」

 この日午前には、事前に収録されたNHK杯3回戦▲久保利明九段-△藤井NHK杯(前期優勝者)戦も放映されていました。久保九段が三間飛車から早めに動いたのに対して、藤井NHK杯は的確に応接。激しい戦いを制して、勝利をあげていました。

 久保九段、菅井八段は振り飛車党にとって希望の星です。しかしこの日は、両者を応援するファンにとっては、つらい一日になってしまったかもしれません。それもこれも、一人の棋士があまりに強すぎるから、と言えそうです。

藤井王将、ノーミスで完勝

 2日目午後。菅井八段は懸命に指し続けます。しかし藤井王将は粘る余地を与えません。と金を作って攻めが切れる心配はなくなり、自陣は鉄壁。典型的な居飛車穴熊の勝ちパターンに持ち込みました。

 107手目。藤井王将は菅井陣の歩頭に金を打ち捨てます。以下、菅井玉を上下はさみうちの形に追い込んで、きれいに仕上げました。

 113手目。藤井王将が玉の上部を金で押さえた手を見て、菅井八段は投了しました。終了時刻は15時26分。王将戦七番勝負にしては、やや早めの時間での終局となりました。

 本局のように、菅井八段がこれだけ一方的に負かされた例は、あまりないと思われます。要するに、藤井王将があまりに強すぎる、と言う他はありません。

藤井「第3局は本当にすぐ来週にあるので、しっかり状態を整えて臨みたいと思います」

菅井「(出身の岡山県から近い)島根県は本当、昔から行ってる場所なので。少しでもいい将棋指せるようにがんばりたいと思います」

 両者の対戦成績はこれで藤井11勝、菅井4勝、千日手4局となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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