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北の「日本メディア外し」は日本への歪んだ求愛

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
第3回南北首脳会談で 「板門店宣言」を発表する金正恩委員長(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 北朝鮮は非核化の証拠に坑道爆破の現場を「日本を外した」関係国に公開報道すると発表。この「日本外し」は日朝首脳会談に向けた条件闘争の一環で、日本への期待感の裏返しと見るべきだろう。

◆北朝鮮、非核化アピールのため報道公開――日本外し

 北朝鮮の朝鮮中央通信は、5月12日、豊渓里(プンゲリ)の核実験場を廃棄する式典を、23~25日の間に実施すると発表した。坑道の爆破と入口の閉鎖、および地上の設備や施設の撤去などの現場を、中米露英韓5ヵ国のメディアに公開するとのこと。ここに「日本」がないことが注目される。

 もし関係国というのであれば、六者会談のメンバー国である「中米露日韓と北朝鮮」の中の「中米露日韓」のメディアに対して公開すると考えるのが一般的だろうが、「日本」の代わりに「英国」が入った。

 英国は北朝鮮と国交があり、かつリビアにおける核放棄を実施させる際に、米英が調査して関連施設を国外に運び出して解体廃棄するという作業に当たった国である。その意味で英国が入るのは理解できないではない。

 しかし北朝鮮は、「日本が拉致問題を提起することによって朝鮮半島の平和的な対話路線を阻害しようとしている」と言ったり、「日本は1億年経っても北朝鮮の神聖なる土地を踏むことはできないだろう」といった趣旨のことを言ったりなど、日本を酷評する言動を繰り返している。

 その上での「日本メディアの除外」は、明らかに「日本外し」を意識していると見るのが妥当だろう。

◆日本外しは日本への「歪んだ求愛」

 この「日本外し」は、明らかに日本への「歪んだ求愛」とみなすことができる。

 なぜならこれまで何度も書いてきたように、北朝鮮は経済的に中国に呑みこまれたくないと思っているからだ。朝鮮半島はその長い歴史において、中国の清王朝時代まで中国に対する朝貢外交によって成立してきたような国だ。

 『史記』などによると「朝鮮」という名称は紀元前4世紀辺りからあったとされているが、中には「東方(=朝)の鮮卑」という言葉から「朝鮮」と呼ぶようになったという説もあるほど、朝鮮の中国への隷属性は長きにわたって続いてきたことだけは確かだ。

 日本による統治は1910年から1945年。いわゆる「日帝36年の恨み」はここから来ている。アメリカによる韓国の統治は、大韓民国誕生と朝鮮戦争休戦協定などの節目を大雑把に見ると、1948年から今日までとなり、概ね70年。日米同盟を考えると日本への恨みは「36年+70年=106年」となる。

 そこで金正恩政権では「日米は100年の宿敵、中国は1000年の宿敵」という言葉が出てきたものと考えられる。

 したがって、その中国には唯一の軍事同盟国として対米牽制の砦にはなっていてほしいが、決して経済的にまで中国に依存しきって中国の支配下に入りたくはない。

 韓国に対しても類似の気持ちがあるだろう。韓国が米国を背景に、もし朝鮮半島を牛耳るようなことがあれば、絶対に許さない。金王朝を脅かすような動きには一歩も引かないというのが金正恩委員長の考え方だろう。だから経済的に韓国に依存する訳にはいかない。

 アメリカには「支援欲しさに対話路線に転換したのだろう」と言われたくない。

 つまり中国にも韓国にも、そしてアメリカにも「お金、ちょうだい」とは言えないのである。

 それに比べて、日本からは躊躇なく経済的支援を引き出せるという「関係」にある。(北朝鮮が主張するところの)戦後賠償問題があるだけでなく、日本はいま北朝鮮に接近したがっている。そうであるなら、思いきり「日本外し」をしておいてから、「愛の実現」には「お金がかかる」ことを実感してもらおうという算段だ。

 北朝鮮のそのやり方は、5月7日のコラム<中国、対日微笑外交の裏――中国は早くから北の「中国外し」を知っていた>など、一連のコラムで書き尽くしてきたが、北朝鮮が最も取引したいと思っている国は「日本」なのである。同コラムで書いた2002年の小泉訪朝がそれを象徴している。

 いま、「拉致問題は解決済みだ」と豪語するその裏では、「これだけ脅しておけば、日朝首脳会談が実現した暁には、日本はきっと羽振りよく献金するだろう」ともくろんでいるにちがいない。

◆今度はアメリカへの「歪んだ求愛」か

 米韓が11日から合同軍事演習をしていることに対して、金正恩流の「恫喝と求愛」という一見矛盾する行動が始まった。本日(16日)の南北ハイレベル会談を中止しただけでなく、何なら「米朝首脳会談も考える必要がある」と言い出したのだ。

 すでに6月12日にシンガポールで開催すると公言してしまったトランプ大統領には、退路はないだろうと計算して主導権を握ろうと試みたものと推測される。

 米韓合同軍事演習は認めると言っていたし、必ずしも在韓米軍の撤退を要求するとは限らないようなことも言っていた金正恩だったはずだが、これも最初から計算し尽くされていたシナリオだろう。

◆日本こそは北の最終の求愛相手

 日本は「蚊帳の外」などではない。

 北朝鮮の最後の重要な「求愛の相手」だ。このことを見極めて、日本はあくまでも毅然と振舞うべきで、こちらから「どうか日朝首脳会談を」などと求愛してはならない。そのようなことをすれば、拉致問題解決は遠のく。むしろ最初から日本独自の接近を図るべきだったが、そうはしてこなかったのだから、今となってはなおさらのこと毅然としているべきである。

北朝鮮と中国の関係の真相を正視し、北の戦略に乗らないよう望むばかりだ。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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