あいつムカつく!! 客がホテルの自粛警察!? GoToホテルで客同士の一触即発現場を見た
混乱した現場
GoToトラベル(以下GoToとする)についてはスタート前から様々な懸念が指摘されてきた。決定的だったのは7月22日に前倒しスタートされたことで、事務局が開催した事業者向け説明会はなんと前日の7月21日であった。宿泊事業者の現場は相当な混乱に陥ったが、登録や制度の運用についても複雑で不明瞭な点が多く、そもそも事業者の登録もすすまなかった。
そうした見切り発車のGoTo制度だったが、その活用のために現場では様々な努力がなされた。検温や宿泊証明書、身分証明の確認作業などへの気遣い、感染防止策の徹底をしながらの運営という前代未聞の対応もあいまってさらなる混乱も惹起させた。筆者は8月に入ってから東京近郊、東海・信越地方、関西地区において細心の注意を払いながら多く宿泊施設でホテルガイド的な取材をしてきたが、同時にGoTo下の実態についても目の当たりにすることになった。
東京除外によるトラブル現場(宿泊証明書編)
GoToのトラブル関連でいえば東京除外のインパクトは大きい。とあるリゾートホテルでのチェックアウトでのこと。ホテルではGoTo対象のゲストへ事前に宿泊証明書を用意しており部屋番号の書かれた封筒に入れられ準備されていた。フロントスペースが狭いからだろうか、フロント向かいのテーブルに封筒が高く積まれ、まだ仕事に慣れない新米だろう外国人スタッフがゲストへ渡す担当をしていた。
問題なのは、チェックアウトに来たゲスト全員に「GoToトラベルの宿泊証明書必要ですか?」と片言の日本語で聞いていたことだ。フロントで個々に対応すればいい話ではあるが、百歩譲って別のテーブルで対応するならば個別に部屋番号を確認し個々に手渡しすればいい。東京から来たと思われるゲストが「東京から来たけど貰えるんですか!!」と弱冠キレ気味で吠えていた。
懸命に頑張っているスタッフではあったが、殺伐とした決して爽やかではないリゾートホテルの朝であったが、チェックインにしろ宿泊証明書にしろ、特に身分証明等による住所確認にしても「忘れた」と言われればなかなか強い態度には出にくいという声もあるし、東京在住者が他県の家族や友人に予約してもらう(偽名利用?)ともなればお手上げだろう。
東京除外によるトラブル現場(車のナンバー編)
ところで、筆者はコロナ禍以前から取材旅にはなるべく自家用車を利用してきた。同行者もいるので交通費の経費節減や現地での機動力、一週間に及ぶこともあるため荷物の運搬に資するということもある。東京~関西などは平均で月に2回ほど往復してきたが、こうした日常的な車旅はコロナ禍において結果として感染症対策に役立つことになったのは意外な効用だった。一方で、GoTo旅においても車移動が推奨される中、東京ナンバーの車で肩身の狭い思いをするのもまた“GoTo東京除外”によるものだ。
東京から新幹線で90分ほどの某駅前ホテルでのこと。ロビーから駐車場へ向かう通路を歩きつつ見た光景は、高齢女性の4~5人のグループが東京ナンバーの車を指さして「ちょっと注意した方がいいんじゃないの?」と話している姿だった。同日、ホテルのバンケットルームでは女性向けの美肌セミナーのようなイベントが催されていたが、イベントの袋を下げた高齢女性のグループは参加した帰りの様子だった。
気になって注視していると、東京ナンバーの車から降りてきた若いカップルに対し「あなたたち旅行?東京から来たの?ダメじゃない」と叱責している。集団で大きな声で話すのはやめてほしいと応酬する男性。自粛警察&コロナ感染リスクということから相当恐怖を感じている様子だった。
このホテルには、東京からの新幹線から下車したゲストも多数来館しているわけであるが、一見で東京から来たとはわかりにくい。東京ナンバーの車はある種の記号として標的にされる。東京除外=東京からのゲストは危険という思考になるのは必然的でもあるが、とにもかくにもホテル側は何かと苦労が絶えないようだ。
施設内のトラブル現場(マスク警察編)
取材先施設の館内では、ゲスト同士のちょっとしたトラブルも目することがあった。「マスクしろ!」と言い放ち立ち去る“マスク警察”がテレビ番組で話題になったが、某リゾートホテルでも同様の光景を見かけた。そのホテルは高級で知られる施設であるが、GoToはその制度から高額な施設で利用される傾向があり、その日はお盆時とあって子連れの3人~4人というファミリーが多く見られた。ロビーのソファでお茶をしていると、久々の外出で楽しいのだろう、小学校低学年くらいの男の子がマスクをせずロビーを走り回っていた。
スタッフはチェックイン対応で気がついていない様子だった。ロビーのソファからすっと立ち上がった高齢夫婦の男性が「マスクしないで走りまわっちゃダメだろう!」と大きな声で注意した。それを見ていた父母が「申し訳ありません」と謝り子どもにも注意していた。通常ならばそこで終わる話なのであうが男性は続けた。「我々はここの常連だがGoToを使わなければ(割引でないと)来られないような子連れ客は甚だ迷惑だ」と言い放った。
父母はただただすみませんと平身低頭であったが、子どもは自分が原因で険悪な空気になってしまったことを察したのだろうか、高齢夫婦が立ち去ると母親へ「あいつムカつく!!」と訴えていた。険しい空気に周りにいたゲストは固まってしまったが、思わずヒヤっとするようなシーンであった。街中の自粛警察やマスク警察は一瞬の出来事かもしれないが、旅でステイする宿にあっては、大浴場で夕食で再び顔を合わせることになるかもしれない。ついつい心配になってしまう。折角の旅が台無しにならないことを祈るばかりだった。
施設内のトラブル現場(夕食大騒ぎ編)
ホテルは基本的に個室であるが、リゾートホテルなどでは夕食会場でゲストが一堂に会することがある。別の施設で見たのは、若いファミリーグループのテーブルでの“大人同士のどんちゃん騒ぎ”といった光景だ。子どもはつまらないからかレストラン内をきゃっきゃっと徘徊している。ステイホームのストレス発散という気持ちはわからなくもないしコロナ禍でなければ見過ごされるシーンであると思われるが、ついつい気が緩みがちになるのは旅行ゆえの開放感だろう。周囲のゲストの中には早々に引き上げる人たちもいた。GoToと言われるも行った先では悲喜交々の体験があるようだ。
その宿はハーフビュッフェでその他料理を個別提供していた。GoTo参画事業者の感染症対策(参加条件)として「ビュッフェ方式において、食事の個別提供、従業員による取り分け、もしくは個別のお客様専用トングや箸等を用意することで共用を避ける等、料理の提供方法に工夫を凝らし、座席の間隔を離す等、食事の際の3密対策を徹底すること。」と示されている。その宿は厳守して対応していたようであるが、終局的にはゲストにかかっている、そんなことを思わせる対策も台無しの光景であった。
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GoToをはじめ自治体等の施策について、こうした制度がなければいまどうなっていたかわからないという事業者の声は強い。そもそもこうした旅行喚起キャンペーンは、観光事業者の救済を目的とするものであり、利用者がお得に旅行できることを何ら保証するものではないが、普段体験できないようなステイが実現できるという側面もある。経済活動を広げつつ政府は旅行者と事業者双方に感染防止策の徹底も呼びかけている。
制度設計や運用から当初“GoToトラブル”と揶揄されてきたが、事業者と利用者がWin-Winになるためにも旅先で無用なトラブルに巻き込まれないためにも、もとより感染症対策という点においてもついつい気が緩みがちなコロナ禍の旅行において、旅行者は再度の対策を徹底したいものだ。