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南アフリカのホロコースト博物館 生存者がホログラムでリアルタイムでインタラクティブに当時の経験伝える

佐藤仁学術研究員・著述家
(ヨハネスブルグホロコースト&ジェノサイドセンター)

南アフリカのヨハネスブルグにあるヨハネスブルグホロコースト&ジェノサイドセンターで、ホロコースト生存者がホログラムで登場して学生とリアルタイムに対話した。

第二次大戦時にナチスドイツが600万人以上のユダヤ人を大量に虐殺したホロコーストだが、そのホロコーストを生き延びることができた生存者たちも高齢化が進んでいき、その数も年々減少している。彼らの多くが現在でも博物館などで若い学生らにホロコースト時代の思い出や経験を語っているが、だんだん体力も記憶も衰えてきている。

現在、欧米ではそのようなホロコーストの記憶を語り継ぐために、ホロコースト生存者のインタビューと動く姿を撮影し、それらを3Dやホログラムで表現。博物館を訪れた人たちと対話して、ホログラムが質問者の音声を認識して、音声で回答できる3Dの制作が進んでいる。

あたかも、目の前にホロコーストの生存者がいるようで、質問に対してリアルタイムに答えられる。ホロコーストの生存者らが高齢化しても、亡くなってからでも、ホログラムで登場して未来の世代にホロコーストを語り継いでいくことができる。

映画「シンドラーのリスト」の映画監督スティーブン・スピルバーグが寄付して創設された南カリフォルニア大学(USC)のショア財団ではホロコースト時代の生存者の証言のデジタル化やメディア化などの取組みを行っている。南カリフォルニア大学ではホログラムでの生存者とのインタラクティブな対話の技術開発にも積極的で、同大学ではこの取組みを「Dimensions in Testimony」プロジェクトと呼んでいる。ホロコースト生存者がホログラムや3Dで目の前に現れて、AIによってインタラクティブにホロコースト時代の体験について質問に答える仕組みだ。あたかも、目の前にホロコーストの生存者がいるように、質問に対してリアルタイムに答えられる。「ホロコースト時代をどう過ごしていたの?」などといった学生や見学者からの質問にホログラム化された生存者がリアルタイムに回答してくれる。アメリカや欧州のホロコースト博物館で導入されている。

ヨハネスブルグホロコースト&ジェノサイドセンターでホログラムで登場したのは、ピンチャス・グッター氏。同氏のホログラムは2012年に撮影して、世界中のホロコースト博物館などに登場して、リアルタイムにホロコースト時代の経験を学生らとやり取りしている。グッター氏はポーランドにあったマイダネク絶滅収容所の生存者。11歳でマイダネク絶滅収容所に収容され、両親と双子の姉妹は他の78000人のユダヤ人、ポーランド人、ソ連人らとともに、そこで殺害された。

ホロコースト生存者らをホログラムで表現し、永遠にホロコーストの経験を語っていってもらおうという取組みは欧米のホロコースト博物館で積極的に進んでいるが、製作コストも相当にかかる。1人の人を撮影して3Dとホログラムで表現するために250万ドル(約2億7000万円)かかる。南カリフォルニア大学のショア財団の財政面と技術面での支援があるから実現できている。

ロサンゼルスにあるスタジオで18台のカメラであらゆる角度からホロコースト生存者らを撮影する。撮影も1週間以上で1000問以上の質問が繰り返される。そのためホロコーストの生存者の誰でもがホログラムで記憶をデジタル化することができるわけではなく、撮影にも相当な体力を要する。それでも、ホロコースト経験者の記憶と体験を未来に語り継いでいくために、欧米のユダヤ人らは積極的にホロコーストの記憶のデジタル化を進めようとしている。

(ヨハネスブルグホロコースト&ジェノサイドセンター)
(ヨハネスブルグホロコースト&ジェノサイドセンター)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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