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アトピー性皮膚炎の治療薬デュピルマブ、うつ病や不安障害の改善効果と限界

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【アトピー性皮膚炎治療の革新的存在、デュピルマブの功績と課題】

アトピー性皮膚炎は、痒みを伴う慢性の炎症性皮膚疾患です。患者さんの多くが、うつ病や不安障害などの精神疾患を合併することが知られています。近年、アトピー性皮膚炎の革新的な治療薬として注目されているのが、デュピルマブです。

デュピルマブは、アトピー性皮膚炎の炎症の原因となる特定のタンパク質(インターロイキン4と13)の働きを阻害する抗体薬です。臨床試験では、中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者さんに対して高い有効性が示されました。また、従来の免疫抑制剤と比べて副作用が少ないことも利点の一つです。

イタリアの研究グループは、デュピルマブ治療を2年間受けた331人のアトピー性皮膚炎患者さんを対象に、皮膚症状だけでなく、うつ病や不安障害の症状がどの程度改善したかを調査しました。その結果、デュピルマブは皮膚症状のみならず、うつ病や不安障害の症状も有意に改善することが明らかになりました(p<0.001)。睡眠の質や生活の質(QOL)の改善も認められました。

一方で、2年間のデュピルマブ治療を受けても、17.5%の患者さんにうつ病の症状が、13%の患者さんに不安障害の症状が残存していたことも分かりました。デュピルマブは革新的な治療薬ですが、メンタルヘルス面での課題も残されていると言えるでしょう。私たち皮膚科医は、治療中の患者さんの精神面にも目を配る必要があります。

【デュピルマブ治療でもうつ病の症状が残りやすい患者さんの特徴】

研究チームは、デュピルマブ治療2年後もうつ病の症状が残存しやすい患者さんの特徴を統計学的に分析しました。その結果、以下の3つの因子が浮かび上がりました。

1. 治療開始時のBMI(体重÷身長の2乗)が高い

2. 皮膚疾患が生活の質(QOL)に与える影響が小さい

3. 治療開始時のうつ病の症状が重い

一般に、肥満とうつ病には密接な関係があると言われています。また、皮膚疾患によるQOLの低下を感じにくい患者さんは、うつ病がアトピー性皮膚炎とは独立して存在している可能性があります。症状が重いうつ病は、治療抵抗性であることが多いともされています。

【デュピルマブ治療でも不安症状が残りやすい患者さんの特徴】

同様に、デュピルマブ治療2年後に不安症状が残存しやすい患者さんの特徴も解析されました。その結果、女性であることが唯一の独立したリスク因子として同定されました。

女性は男性と比べて不安障害になりやすいことが疫学調査で示されています。この背景には、女性ホルモンの影響や、ストレスへの脆弱性の性差などが指摘されています。アトピー性皮膚炎の女性患者さんに対しては、治療中も不安症状への注意が必要と言えます。

以上をまとめると、デュピルマブはアトピー性皮膚炎だけでなく、うつ病や不安障害の症状改善にも効果が期待できる治療薬です。しかし、2年間の治療後もメンタルヘルスの問題が残る患者さんが一定数存在することが新たに分かりました。特に、肥満傾向があり、皮膚症状とは独立して重度のうつ病を抱えている患者さん、女性の患者さんは注意が必要です。

参考文献:

Ferrucci, S.M. et al. (2024) J. Clin. Med. 13, 1980. https://doi.org/10.3390/jcm13071980

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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