「とくし丸」を展開する兵庫・淡路島のスーパー 「地場のスーパーの強みがなくなる」中で生き残るには?
高齢化や人口減少が進む兵庫県の淡路島。大手スーパーも進出する中、地域に拠点を置くスーパーはどのようにして生き残りを図っていくのでしょうか。島内でスーパー8店舗を展開し、移動スーパー「とくし丸」5台を走らせるマイ・マート(兵庫県洲本市)の2代目社長、橋本琢万さんに話を聞きました。
「とくとくと~く、とくし丸~」
南あわじ市内の狭い上り坂を、野菜や魚、果物などがカラフルにペインティングされた「とくし丸」が走っていきます。足腰が痛い、運転がしづらくなってきた、公共交通機関が利用しにくい地域で気軽に買い物に行けない――そんな人たちに、マイ・マートから仕入れた品物を販売しに行くのです。
経済産業省が2016年度に行った調査によると、日常の買い物が難しい「買い物弱者(買い物難民)」は全国で推計約700万人。とくし丸は2012年、こうした人たちを支援するために、同名の企業が徳島県で始めました。高齢者を中心に、さまざまな理由でお店まで行けない人たちに、移動スーパーでの買い物を楽しんでもらいながら、顧客や地域の「見守り隊」としての役目も果たします。
サービスの仕組みとしては、とくし丸と提携する地域のスーパーから商品の販売を委託された個人事業主「販売パートナー」が、冷蔵庫付きの専用の軽トラックに商品を載せて、地域の顧客を回って販売します。商品の価格は、スーパーの店頭価格プラス10円ないし20円。スーパーは売上額の17%を手数料として販売パートナーに支払います。とくし丸のホームページによると2022年12月末現在、全国で1103台が稼働しています。
マイ・マートは2017年から、とくし丸の事業を始めました。現在は島内の3市(淡路市、洲本市、南あわじ市)で5台を走らせています。利用しているのは約1000世帯。2021年時点の3市の高齢化率はいずれも36%を超えており、全国平均の29.1%を大きく上回っています。
筆者が2017年、とくし丸の利用者を取材した際は、「なかなか買い物に行けないので(とくし丸が来てくれると)張り合いが出る」、「選ぶ楽しみがあっていい」、「忙しい子どもには頼めないので助かる」といった声を聞きました。買い物に行くのが難しいお年寄りにとって、自宅の近くまで来てくれて、自分の目で見て商品を選べるとくし丸はありがたい存在なのです。
橋本さんは「現在でも、利用者やご家族から感謝されることが多いです。メディアで紹介され、新規開拓の際にお買い物にご不便されていない方からも応援していただけることが増えました」と手ごたえを話します。「おばあちゃんは意外と柔らかい霜降り肉や揚げ物が好き」といった顧客の生の声は、スーパーの売場づくりにも生かしています。スーパーの店頭のように特売価格では提供することができなくても、ビジネスとして成立し、継続できるということも分かりました。
大手スーパーも参入、「安売りで対抗しても勝敗は明白」
しかし、続けるうちに課題も見えてきました。顧客と直に接する販売パートナーは「できるだけ安い価格で販売したい」という思いがあります。しかし、安く販売し過ぎて事業が成り立たなくなってしまっては元も子もありません。事業を続けるためにスーパーの店頭価格より10円、20円高く販売しているということを、販売パートナーにも理解してもらう必要があるのです。
また、この4年間で、大手スーパーも移動スーパー事業に参入してきました。マイ・マートよりも安い価格で販売している商品もあります。橋本さんは「採算度外視の体力勝負に持ち込まれると、正直しんどいです」と話しつつ、「そのような方法では事業は継続できませんので、お客様とのお付き合いの中で『あんたから物を買いたい』と思ってもらえるような信頼関係を作りたい」と気持ちを奮い立たせます。将来的には10台程度が必要と見込んでおり、需要を見極めながら台数を増やしていく予定です。
1998年に神戸市と淡路島を結ぶ明石海峡大橋が開通し、島内にも他の多くの地域と同じように、大手スーパーやドラッグストアが進出してきました。島の人口は、1947年の約22万7000人をピークに減少し、2022年12月末時点の兵庫県推計では約12万4000人です。今後も少子高齢化や人口減少が進む中で、地域のスーパーはどうなっていくのでしょうか。
橋本さんは「これまでは、生産者との近さや商品の鮮度の高さ、鮮魚や総菜の自店調理などが地場のスーパーの強みだと言えました。ですが、大手もこのような取り組みをするようになってきた今、強みはなくなってきています」と危機感を抱きます。「大手資本に安売りなどで対抗しようとしても、勝敗は明白です」
「この地域と最後まで一緒にやっていく」覚悟
そこで橋本さんが打ち出すのが「発想の転換」です。マイ・マートはこれまでも、「近隣のコンビニエンスストアの方が、品ぞろえが充実しているのなら、書籍の販売をやめる」、「コンビニが24時間営業するなら、営業時間を短くする」、「ドラッグストアが近くにできるなら、日用品をしぼりダイソーを導入する」、「冷凍食品に強い競合店が近くにできるなら、生鮮食品の売場を拡大する」というように、その時々の状況に柔軟に対応してきました。
「それぞれに、営業時間を短くしたら従業員の働き方改革ができた、100円均一ショップを導入したら便利になったと喜ばれた、競合店が集客したお客様が当店でも買い物をして売上が上がった、といういいこともありました。全部をネガティブに捉えるのではなくて、地場のスーパーとして、自分たちの新しい役割を探していきたいです」(橋本さん)
マイ・マートが地域の食の専門家として「地域の味を発信し、生産者の職を支える」などの役割を担うために、新たに始めた取り組みの1つが、ふるさと納税管理事業です。地域の食文化や歴史、魅力を知る企業として、2019年からグループ会社で淡路市のふるさと納税管理事業を受託しました。
2019年度の寄付金額は約2億3000万円でしたが、2022年度は、2023年2月1日時点で約23億8000万円と10倍以上に伸びています。それに伴い返礼品を提供する生産者の中で、農作物の生産拡大のために農地を広げる、子どもが家業を継ぐ、新しい機械を導入するといった、未来に対する投資も起こってきています。
「私はこの地域と最後まで一緒にやっていくという覚悟を決め(大手電機メーカーを退職して)、マイ・マートに入りました。ですから、真摯に地域の課題に向き合い、ビジネスを通じて解決していきたいです。どんな活動でも、微力ではあっても無力ではありません。自分たちがこの地域で何ができるのかを、スーパーにこだわらずやっていきたい。地域に必要とされる存在として、規模を追い求めることなく、環境の変化に柔軟に対応し、食のインフラとして年輪のような経営を続けていきたいです」(橋本さん)
人口が減っていっても、高齢化が進んでも、その時々の顧客が必要としている食のビジネスを成り立たせる。橋本さんの次なる一手に期待しています。
※写真はマイ・マート提供(一部筆者撮影)