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ケイト・ブランシェットが再証明した、ウディ・アレンとオスカー女優賞の蜜月関係

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

ケイト・ブランシェットが、「ブルージャスミン」でオスカー主演女優賞を受賞した。ウディ・アレン作品の女優がオスカーを獲得したのは、これが6回目。「それでも恋するバルセロナ」でペネロペ・クルスが助演女優賞に輝いたのは記憶に新しいが、それ以前にはミラ・ソルヴィノ(『誘惑のアフロディーテ、』)ダイアン・ウィースト(『ブロードウェイと銃弾』『ハンナとその姉妹、』)ダイアン・キートン(『アニー・ホール』)の例がある。受賞に至らなかったもののノミネートされた女優は、今年、助演女優部門に候補入りしたサリー・ホーキンスを含め、これまでに7人。アレン映画の男優が受賞したのは「ハンナとその姉妹」のマイケル・ケインのみ。女優においしい役がない、と言われるハリウッドで、アレンは、女優たちがすばらしい力を発揮できる場所を与え続けてきている監督兼脚本家なのだ。

アレンが書く女性には、良い意味でかっとんだ女性が多い。「ブルージャスミン」のジャスミン(ブランシェット)もそのひとり。金融業界で成功した男性と結婚し、ニューヨークで裕福な暮らしをしていたジャスミンは、夫が違法行為で逮捕されたせいですべてを失い、サンフランシスコに住む妹(ホーキンス)のところへ転がり込んでくる。お金がないはずなのにファーストクラスに乗ってくるなど、見栄と贅沢な習慣を捨てられない嫌な女だが、奥には不幸な心を抱えている。「それでも恋するバルセロナ」でクルスが演じたのは、アメリカ人旅行者(スカーレット・ヨハンソン)がバルセロナで出会うスペイン人男性(ハビエル・バルデム)の元妻。スペイン語でどなりまくる勝ち気な女だが、自殺未遂をする脆さも持っている。「誘惑のアフロディーテ」のソルヴィーノの役は売春婦兼ポルノ女優。アレンが演じる主人公は、養子に取った息子の実の母を探す過程で、彼女に出会う。

長年、自ら資金を集め、誰からも何も注文されずに、自分の思うとおりの映画を作ってきたアレンは、俳優たちに俳優組合(SAG)が決めた最低賃金しか払わないことで有名。ロケ地に夫や恋人を同伴したい場合、それら“連れ”の交通費は自分もち。日頃、ミリオン単位のギャラをもらっては、ロケ地に家族を連れてきて、豪華ホテルの宿泊費をスタジオに払わせているハリウッドスターも、アレンの映画では新人の気持ちに逆戻りだ。

それでもビッグスターがこぞって彼の映画に出たがるのは、役がすばらしいことのほかに、彼のテイクはせいぜい2、3回で、1日の撮影は驚くほど早く終わり、肉体的にきつくないこともある。撮影が速い理由を、彼自身は「同じことを何度もやるのは自分が飽きる。僕にはそんな辛抱強さはない」と説明している。彼はまた、自分の作品が女優にオスカーを与えることも十分認識しており、「彼女らは僕の映画ではまったく稼げないが、僕の映画でオスカーを取れば、その後、ほかの人たちからごっそりお金をもらえるようになるよ」とも語っている。

他人にオスカーの恩恵を与え続けてきているものの、アレン自身は、オスカーをまるで信じない。「誰が一番速く走ったかを競うのと違って、映画に優越をつけるなんて不可能」と主張するアレンは、「アニー・ホール」で作品賞、監督賞、脚本賞を受賞した時も、ニューヨークでジャズを演奏していて、出席しなかった。「ブルージャスミン」で脚本部門にノミネートされた今回も、もちろん欠席。だが2002年の授賞式には、同時多発テロ事件の犠牲者への追悼企画で前ぶれなく舞台に上がり、世間を驚かせている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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