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「コーヒーで火傷」米人気チェーン店、約5億円の和解金で昨年解決するも別の客に再び訴えられる

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
ダンキンドーナツのイメージ写真。(写真:ロイター/アフロ)

アメリカの有名人気チェーン店が、“再び”コーヒーで火傷をしたとする客に訴えを起こされた。

地元メディアによると、コジモ・ニスティコさん(74)は今年4月27日、ニュージャージー州のドーナツチェーン大手、ダンキンドーナツのドライブスルーでコーヒーを購入した。店の従業員から手渡されたカップを手で持ち替える際、蓋が外れて熱いコーヒーがこぼれ左太もも内側に火傷を負ったとして、6月6日に州高等裁判所に訴状を提出した。求めている損害賠償額は明かされていない。

飲食店から航空会社まで企業を相手取ったこのような裁判は、訴訟大国アメリカで日常茶飯事というと語弊があるが、まぁよく耳に入る話である。

もっとも有名な裁判は、90年代の「マクドナルドのコーヒー訴訟」(Liebeck v. McDonald's Restaurants)だろう。ニスティコさんのケースもこの裁判を彷彿とさせるものだとして、ニューヨークポストなど主要メディアが訴えをニュースとして取り上げている。

コーヒーで火傷...マクドナルドを相手取った有名な訴訟

1992年、ステラ・リーベックさん(当時79歳。2004年に91歳で他界)は、ニューメキシコ州のマクドナルドのドライブスルーで、朝食と一緒にホットコーヒーを購入した。車内に置く場所がなかったためコーヒーカップを膝の間に挟んで蓋を開けたところ、カップが傾きコーヒーがこぼれ、太もも付近に大火傷を負った。火傷は体の16%以上に及び(うち6%は重度)、治療費は1万ドル(126万円相当)になったという。

  • 日本円は当時の為替相場で計算(以下同)

リーベックさんは治療費をマクドナルドに請求し、二度とこのようなことがないようにホット飲料の温度について留意するよう求めたところ、マクドナルドから提案されたのは800ドル(約10万円)の補償だけで、ホットコーヒーの温度を下げる意向がないという回答だった。これにより補償問題はこじれ、リーベックさんはマクドナルドを相手取り訴訟を起こした。

米マクドナルドのイメージ写真。Photo by Caroline Cagnin(https://www.pexels.com/ja-jp/photo/1858115/)
米マクドナルドのイメージ写真。Photo by Caroline Cagnin(https://www.pexels.com/ja-jp/photo/1858115/)

ニューヨークタイムズによると、当時のマクドナルドで提供していたホットコーヒーの温度はカ氏180~190度(セ氏約82~88度)で、これは家庭用のコーヒーメーカー(カ氏約160度、セ氏約77度)で作るより熱めの温度設定だった。しかし弁護団の調べでは、1983年から92年にかけてマクドナルドに対して同様の苦情が700件もあったこともわかった。

火傷から2年後、リーベックさんへの損害賠償額として、マクドナルドに対して総額約286万ドル(約3億6000万円)を支払う判決が下された。これに驚愕した世界中のメディアが表面的な部分だけをセンセーショナルに報じ、リーベックさんは「コーヒーをこぼして大金をせしめた人」というレッテルを貼られ、お笑い番組の恰好の的になった。リーベックさんは筋金入りのクレイマーだったのかと思いきや、実は彼女にとってこれが初めての訴訟で、彼女が求めていたのは、実際に受けた火傷の補償と、このようなことがほかの人にも起こってほしくないという願いだった。

最終的に和解が成立し、マクドナルドが支払った和解金は48万ドル(約6000万円)だとされている。また以降マクドナルドは、ホットコーヒーの温度をカ氏170~180度(セ氏約77~82度)に下げることを決定した。

ダンキンドーナツは約5億円の和解金で合意したばかりだったが...

冒頭のニスティコさんが相手取ったダンキンドーナツもこれまで、同様の訴訟問題を抱えてきた。

2014年には、ニュージャージー州の女性が、ホットのアップルサイダーによる重度の火傷を負ったとしてダンキンドーナツを訴え、240万ドル(約2億5000万円)の賠償金を勝ち取った。

ジョージア州の70歳の女性は2021年、ドライブスルーで買ったホットコーヒーの蓋がきちんと閉まっていなかったため重度の火傷を負い、医療費が20万ドル(約2900万円)に上ったとしてダンキンドーナツを訴え、2年後の23年に約300万ドル(約4億4700万円)の和解金で合意したとメディアは報じた。

同様の訴訟は枚挙にいとまがなく、米スターバックスでも起こっている。

昨年ダンキンドーナツとの和解金を勝ち取ったジョージア州の女性の弁護団は、これまでのアメリカの歴史でもっとも有名な訴訟の一つがこの重度の火傷をもたらすほど熱いドリンクに関するものだが、飲食業界は未だに教訓を学んでいないと苦言を呈した。また、この和解により飲食業界が従業員を適切に指導し、客の安全を優先しなければならないというメッセージが伝わるのを期待していると発表があったばかりだったのだが...。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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