アメリカで話題の日本人「ヤキトリガイ」って何者!?「焼鳥文化を広めたい」と来日イベント!
今、アメリカで話題の焼鳥インフルエンサー「ヤキトリガイ」。数多くの焼鳥イベントを手がけるほか、焼鳥のハウツー動画を配信するなど、ロサンゼルスを拠点に活躍の場を広げている。そんな彼がこの春来日し、懇意の焼鳥屋を間借り。ふだんアメリカで打ち、焼き上げているネタを日本の焼鳥好きに振る舞った。
日米にルーツをもつヤキトリガイ
ヤキトリガイは日本生まれ。ただ、幼少の頃に渡米したこともあり、国籍は日本ながら身に沁みついたカルチャーはアメリカそのものだ。そんな彼が焼鳥インフルエンサーになったきっかけは友人とのホームパーティーで自前の焼鳥を振る舞ったことだったそう。
「もっとおいしく!」と焼鳥にのめり込み、腕を磨いた。ついには勤めていたIT企業を辞め、毎週のようにイベントを手がける日々。さらに技術を高めるため、日本の焼鳥屋にも通い、職人との絆も深めていった。
そんな彼が今回初めて、日本で焼鳥イベントを開催した。親交のある「児玉」(東京・池尻)を間借り。日本人から日本在住の外国人まで焼鳥好きだけを集めた1日限りの焼鳥ショーだ。その思いを聞くと……
「焼鳥が好きで好きで、独学で学んだり、日本の焼鳥屋で学んだりもした。自分なりに研究して構築したカリフォルニアスタイルの焼鳥を、日本のみんなに食べてもらいたかったんだ。どういう反応が見られるのか、ずっと楽しみにしていたんだよ」
今回のイベントでは串の仕込みから日本の職人仲間が参加。その理由を「仕込みの時間も共有して、スキルやマインドを高めたかったんだよ」とヤキトリガイ。用意したのは、ふだんアメリカでさばいている鶏と似たやわらかな肉質の「錦爽どり」だ。
さらに一部のネタはほかの職人が焼くなど、日本だからできるコミュニケーションイベントをめざしたのだそう。なぁるほど。そういう発想も、ヤキトリガイらしいなぁ。
16品の焼鳥コースは、ささみから!
さて、1本目は定番のささみだ。トップからわさび、梅と大葉、わさびを交互に付けて。日本だと、わさびならわさび、梅なら梅と合わせないものだから、ちょっと新鮮。アメリカでの焼鳥を再現しているのか、火入れもややしっかりめだ。
せせりは、ふりそでと合わせて。ふりそではむね肉と手羽元の間に位置する部位で、やわらかな肉質。「錦爽どり」のような若い鶏だからこそ、せせりとも違和感なく合う。控え目に付けたからしがまたいいアクセント。
笑顔で「ヤキトリバカハツです」とヤキトリガイ。ハツは丸のままでもなく、開くでもなく。カットしてそれを折り重ねるようにして打った、やわらかさが際立つ一品だ。
六本木の人気店「YAKITORI燃es」の焼き手、ヤキトリバカこと沼能さんに影響を受けたというハツ。その個性的なフォルムもあってか、アメリカの焼鳥イベントでも人気のネタなんだとか。
ここで、焼き手をチェンジ。抱き身(むね肉)は新宿歌舞伎町の焼鳥屋「道しるべ」の焼き手、アキオさんがライブ感たっぷりに焼き上げた。たっぷりとボリュームをもたせたむね肉は「頬張る」という言葉がふさわしい。いいね。食欲がぐんと増してきた。
アメリカサイズのねぎまに衝撃!
焼き台にずらりと並ぶ肉塊……。定番のねぎまは手前の抱き身を越えるアメリカンサイズで、串を持つ指にズシッと重みがのしかかる。噛めばむちっとしてやわらかく、たれの香ばしさがまた食欲をそそるわけだ。
うーん。これはインパクト大。日本には何万軒もの焼鳥屋があるけれど、これほど大きなねぎまを食べられる店はそうそうないはず!
アッツアツのミニトマトは、噛めば甘みとコクがじゅわっと膨らむよう。ほのかに感じるさわやかな香りは……ゆかりだ。日本でのイベントだからそうしているわけではなく、アメリカでも使っているのだそう。
「だって、日本の食材を知ってもらえる機会になるからね」
そして、ソリとあか(うちもも)、ぼんじりをひとまとめに打ったネタ。ソリはももの付け根にあるピンポン玉のような部位。ソリとあかを一緒に打った串は食べたことがあるけれど、ぼんじりは初めてだ。
ヤキトリガイが「tenderって呼んでいるネタだよ」と言うとおり、やわらかく食べやすい。これも若い鶏だからこそ、違和感なく合うんだろうなぁ。
膝まわりの肉と膝なんこつとねぎをひとまとめに。おお。これも個性的だなぁ。日本の焼鳥屋だと、膝なんこつだけでネタにすることが多いのだけに、この視点も新鮮。
このネタに「lollipop」と名付けているようだけど、それは「一口キャンディー」の意味。確かに、その言葉にふさわしく愛らしいフォルム。こういうセンスもなんだか、ヤキトリガイらしい。
繊細なレバーは児玉さんの出番
ここで、児玉さんの出番だ。レバーはしっとりとして、ほどよくねっとり。焼きもネガティブな風味が表に出る手前のいい塩梅。
焼鳥好きにとってレバーは欠かせないネタだけど、海外では敬遠される部位と聞く。それはレバーの質が悪いというよりも「うまく料理する」というのが壁になるんだろうなぁ。
砂肝は個性的な串打ち。あえてトリミングし過ぎないのも、アメリカンスタイル?
焼鳥に合わせたのは、食べるラー油?
そして「ズッキーニと手羽元」。見るからにインパクトがあるなぁ。ズッキーニで手羽元を挟むことで楕円のような特徴的なフォルムを作り上げている。ひと口噛めば、サクッとしたズッキーニの食感とともに感じるクリスピーな食感とピリ辛の風味。
「ズッキーニに食べるラー油をかけるのが好きなんだよね。食べてみると合うでしょう?」とヤキトリガイ。焼鳥は流れで食べるものだから、激辛の味付けは合わないのだけど、このほどよいピリ辛風味とズッキーニのみずみずしさ、手羽元のむっちりとした食感が合わさって……うまい。いやぁ、面白いネタを考えるなぁ。
すね肉はシンプルにししとうと合わせて。先ほどのズッキーニ&手羽元に比べればインパクトは劣るものの、王道をゆくネタはやっぱり食べやすい。
王道といえば皮も外せないのだけど、このネタはところどころ黒っぽく見える。その焦げとも異なる色合いは、なんといか墨塩によるものだという。ただ、いか墨といってもそれ自体に風味はなく、色みだけ。ちょっとしたことではあるけれど、意外と目を引くもんだ。
しそ巻は文字通り大葉を巻き付けているのだけど、意外なのが上に散らしたちりめん。ヤキトリガイによると、こういうネタにキャビアを乗せた途端に退屈になってしまうのだとか。
「日本にはキャビア以外にもうまみを加えられるトッピングがある。そういうこともみんなに知ってもらいたいと思うんだよね」
ここで再びロリポップ(一口キャンディー)のようなネタ。なす全体に皮を巻かないことで、色みにコントラストを付けているのも特徴的。おろししょうがに糸唐辛子を添えて、後味爽やかに。なすが主役ではあるのだけど、見映えも意識した一品だ。
16品目、最後のネタを飾るのは〆の定番、手羽先だ。塩で味付けし、レモンを添えて。16品のなかには変化球もいくつかあったものの、こうしてシンプルに締めるのがいい。
そういえば、定番といえばつくねは出なかったなぁ。ヤキトリガイが作るつくねは直球でいくのか、それとも変化球でいくのか……。気にはなったけれど、それはまたの機会にとっておこうか。
海を越えて広がり続ける焼鳥の輪
ヤキトリガイと会うのは初めてではないけれど、彼がどんな焼鳥を焼くのかは今回、初めて知ることになった。実際に食べてみて感じたのは「見た目も味もはっきりしている」ということだ。日本の焼鳥が塩やたれでシンプルに仕上げるのは素材の持ち味を生かすため。それに対して、アメリカではダイナミックな味わいの焼鳥が求められているのだとか。
「アメリカだと流行っているラーメンも、やっぱり醤油じゃなくて豚骨なんだよ。だから日本の食材を使いつつ、目を引く串打ちやはっきりした味付けを意識しているんだ。その方が、みんな喜ぶからね」
地元ロサンゼルスの新聞紙に一面で取り上げられるほどの活躍を見せるヤキトリガイだけど、アメリカ全土で焼鳥が流行っているかといえば、まだまだその段階ではないのだそう。
「アメリカ人にとって日本食といったら、やっぱり鮨とラーメン。ステーキやタコス、ハンバーガー、ピザといったアメリカのグルメカルチャーも根強いしね」とヤキトリガイ。だからこそ、焼鳥にまだまだ可能性を感じているのだという。
「6年前に〝ヤキトリガイ〟を名乗り始めた時から『日本の誇る焼鳥を広めたい』という思いは変わらないし、もっと焼鳥のスゴさを感じ取ってもらいたい。鮨、ラーメンと並んで『焼鳥が食べたい』と思ってもらえるよう、がんばるだけさ!」