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「バックナーのトンネル」は「バートマンの妨害」と同様に熱狂的なファンの感傷による過大解釈

豊浦彰太郎Baseball Writer
2008年に始球式を行った時のバックナー(写真:ロイター/アフロ)

ビル・バックナーが亡くなった。69歳の若さだった。

彼は、通算2715安打の好打者で1980年には首位打者に輝いているが、それよりもレッドソックスに所属していた1986年のメッツとのワールドシリーズでの痛恨のエラーで有名だ。

この件に関しては、J SPORTSのコラムにも書いたが、個人的には過大解釈されていると思う。彼のサヨナラトンネルは、レッドソックスのシリーズ敗退の理由の一つではあったが、決定要因ではなかったからだ。

延長10回「あと1人抑えれば世界一」の場面で、彼のサヨナラエラーより先に継投の失敗やワイルドピッチがあり、メッツに追いつかれている。仮にバックナーがエラーをしでかさなくても、11回表にゲームは進んだだけだ。そして、何よりも第7戦が残っていた。レッドソックスはその試合を取れば良かったのだ。

それでも、「バックナーのエラーで世界一が逃げ去った」というふうに語り継がれているのは、その失策がトンネルというまるで草野球のような失態であったこと、そして悲劇を語るのが好きなレッドソックスファン特有の自虐性ゆえだろう。

似たような例は、他球団でもある。「バートマン事件」で知られる2003年リーグチャンピオンシップシリーズでのカブスの敗退だ。

この時同球団は、1945年以来のワールドシリーズ進出にあと5アウトに迫っていた。王手を掛けた第6戦、この年18勝の先発マーク・プライアーが期待通りの好投で、8回1死まで3対0でリードしていた。しかし、ルイス・カスティーヨのレフトフェンス際へのファウルフライに、観客のスティーブ・バートマンがモイゼス・アルーより先にグラブを差し出しファウルとなったのだ。

ここから流れが変わり、この回一気に8点を失って敗れたカブスは翌日の第7戦も落とした。この一件も、カブスファンの間で感傷的に語られることが多い。しかし、審判は「ファンによる守備妨害」を適用していなかった。問題のプレー直後にアルーが地団駄踏んで悔しがったため、周囲はみな「観客のせい」と解釈してしまったのだ。したがって、長年の夢を摘んだ責はバートマンより、むしろ失策や継投ミスで自滅したカブス自身にあったと言える。

この件も、栄光が遠い球団に忠誠を誓うカブスファン特有の心理もあって、現実以上の悲劇に祭り上げられてしまった例だ。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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