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レッツゴーよしまさの「素の志村けん」ものまねが注目された理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家
(写真:アフロ)

志村けんのものまねで知られるレッツゴーよしまさは、今では多くのバラエティ番組に出演する人気者になった。

彼が本格的にテレビに出始めた頃、多くの視聴者が彼の芸を目の当たりにして腰を抜かすほど驚いた。最初に注目されたのは、2022年9月19日に放送された『お笑いオムニバスGP』(フジテレビ)の「2億4千万のものまねメドレーGP」である。芸人が『2億4千万の瞳』を歌いながらメドレー形式でさまざまなものまねを披露していくこの企画の中で、レッツゴーよしまさはザ・ドリフターズのメンバー全員を次々に真似ていく「ドリフものまね」を披露した。

彼のドリフものまねが衝撃的だったのは、個々人のものまねが似ていたのに加えて、普通に話している「素」の志村けんの真似をしていたからだ。志村のものまねをする人の多くは、コントで演技をしているときの様子を真似するものだ。

だが、レッツゴーよしまさはあえて素の状態のものまねをした。着眼点が独特だった上に、ものまねのクオリティも高いことが衝撃的だったのだ。

進行役を務めていたアンタッチャブルの柴田英嗣は、志村のものまねについて「やめてくれ、涙出てきそうだよ」と感想を語った。また、別の番組で彼のものまねを見た磯山さやかは、生前の志村と何度も仕事をしていたこともあり、ラジオ番組で「本当に似すぎていて泣いちゃいました」と語っていた。レッツゴーよしまさのものまねのクオリティがあまりにも高かったために、本物の志村が蘇ったかのような鮮烈な印象を与えていたのだ。

ものまねの世界では、特徴的な話し方や歌い方を持っている芸能人の真似をするのは比較的やりやすいとされている。ただ、最近のトレンドとしては、あえて素の状態のときの真似をするという手法があり、それが話題になることが多い。

真っ先に浮かぶのは、Mr.シャチホコの和田アキ子のものまねである。和田と言えば、歌い方を真似する人が多い中で、Mr.シャチホコはあえてバラエティ番組に出ている素に近い状態の彼女のものまねをした。未知のタレントの素性を確認するために「何をされてる方なの?」と言ったり、カメラのことを「キャメラ」と表現したりするような、細かい特徴をよく捉えていた。

近年では、JPの松本人志ものまねが注目されたことがあった。2022年1月30日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ)では、新型コロナの濃厚接触者となったため出演できなかった松本の代役として、JPがオープニングに登場。東野幸治のものまねをする原口あきまさと共に、番組のオープニングトークを完全再現してみせた。

素の状態のものまねをするというのは、際立った特徴がない分だけ難しいものがある。さらに、その芸でバラエティ番組に出たときには、話を振られて即座にその人が言いそうなことを返す頭の回転の速さも求められる。しかし、高度な技であるからこそ、身につけたときには大きな武器になる。

2022年10月19日には、志村に続いてドリフのメンバーである仲本工事が亡くなった。前述の「2億4千万のものまねメドレーGP」の中でも、レッツゴーよしまさは仲本の顔真似を披露しており、仲本の訃報が流れたときにこのネタについてSNSで触れている人もいた。ドリフものまねを得意とするレッツゴーよしまさは、ザ・ドリフターズという「笑いの文化遺産」を後世に残す重要な役割を果たしているのかもしれない。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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