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セクハラ告発を「報道しない」も二次被害では? テレ朝記者会見でわからなかったこと

小川たまかライター
(写真:アフロ)

 財務省の福田淳一財務次官が辞意表明を行った4月18日。その深夜に、テレビ朝日が「被害に遭ったのは当社社員」とする緊急会見を行った。

 会見で同社の篠塚報道局長は、「当該社員は当社の聞き取りに対しまして、福田氏によるセクハラ被害を申し出、当社として録音内容の吟味、関係者からの事情聴取を含めた調査をした結果、セクハラ被害があったと判断しました」とコメントを読み上げた。

■女性社員「すべての女性が働きやすい世の中に」

 会見で篠塚報道局長は次のような内容を語った。

・女性社員は一年半ほど前から取材目的で福田氏と一対一で会食。そのつどセクハラ発言があったことから、自分の身を守るために録音を始めた。

・今月4日の会食の際にも録音。後日、上司にセクハラを報じるべきではと相談したが、「二次被害」が心配されることなどを理由に、上司は「報道は難しい」と判断。

・その後、女性社員が、「社会的に責任の重い立場にある人物の不適切な行為が表に出なければ今後もセクハラ被害が黙認されてしまうのではないかという強い思いから」週刊新潮に連絡、取材を受けた。その際に録音の一部を週刊新潮に提供した。

・女性社員は福田氏の辞任については、「認めないまま辞意を表明したのはとても残念」「財務省は調査を続けて事実を明らかにするべき」「すべての女性が働きやすい世の中になってほしいと心から思っている」と語ったという。

■「報道しない」も二次被害では?

 一方で、会見からはわからなかったことも多い。会見を見て、主に「被害者対応」の観点から個人的な疑問点を以下にまとめる。

・テレビ朝日にセクハラの相談窓口はあったのか。

……女性社員は、1人の上司に相談し、その上司が「報道は難しい」と判断したとされる。企業にセクハラの相談窓口が設けられる場合、調査や対応が社内での上下関係に左右されないことなどが前提とされる。社内外からのセクハラについて、これまでテレビ朝日はどのように対処していたのだろうか。

・上司が想定した「二次被害」とは何か。

……相談を受けた上司は、報道することによって女性社員が「二次被害」を受けることを心配したという。しかし、被害者が相談した相手から「あなたがもっと傷つくことになるから黙っておきなさい」と言われることも、典型的な「二次被害」だ。

 現に、女性社員は納得できずに週刊新潮に連絡している。会見では記者のひとりが、「(上司から報道できないと言われた)その段階で被害者が傷ついた可能性が充分に考えられる」と指摘した。冒頭で「適切な対応が出来なかったことに関しては、深く反省」と述べられ、記者からの「御社の中でセクハラに対する意識が低かったからそうなったのでは」という質問に篠塚報道局長は「批判は甘んじて受けなければならない」と答えた。セクハラ、性的被害の対応について、基本的な知識の不足があったのではないか。

・これまで同様のことはあったのか。またその際にどのような対応が取られていたのか。

……福田氏については、「テレ朝の女性記者がセクハラ被害 新潮に情報提供 嘘バレた福田事務次官に「#MeToo」続々〈dot.〉」などの中で、他にも被害者がいると報じられている。

また、「財務次官疑惑で女性記者座談会」、「「#MeToo」発信側のメディアで働く人たちは」などの内容からは、メディアで働く女性へのセクハラは決してレアケースではないことが読み取れる。テレビ朝日でこれまで、セクハラに関する問題がまったくなかったとは考えづらいのだが、これまでのケースでは、どのような対応が取られていたのか。

・なぜ上司は、録音テープを聞かなかったのか。

……相談を受けた上司は、その時点では録音テープを聞いていなかったという。女性社員がその時点では録音テープの存在を明かさなかったのかもしれないが、聞き取りが不充分だったのではないか。

■ノウハウは社内にあるのか

・女性記者はいつから相談していたのか。

……会見の中では、相談の時期や回数についての回答は行われなかった。仮に長期間相談が行われていたのであれば、その期間、セクハラが放置されていたことになる。この点については、いずれ明らかにしてもらいたい。

・どのように女性記者の人権を守るのか。

……会見では「被害者である社員の人権を徹底的に守っていく」と述べられた。この言葉自体は力強く希望を感じるが、非常に注目度の高いニュースであり、テレビ朝日が「セクハラ被害があったと判断した」と発表したことについて、どのような理由で被害を認定したのか、今後追及が始まると考えられる。

 しかし、調査が複数回行われたり、被害者が被害を繰り返し証言したりしなければならないことは、それが社内の関係者に対してであっても被害者にとって負担となる。どのように調査を行い、どのように記者を守るのか。ノウハウは社内にあるのだろうか。

・女性記者に謝罪は行うのか。

……会見では「適切な対応が出来なかったことに関しては深く反省」とあった。確かに不適切な対応だと感じる。女性記者に社として謝罪は行うのだろうか。

・なぜ「日頃からお付き合いのあるところだけ」

……記者会見について、ハフィントンポストの記者たちが下記のようなツイートをしている。

テレ朝の会見、ハフポストはじめネットメディアや雑誌は門前払い。何度も広報に食い下がったが「日頃からお付き合いあるところだけ」「場所の都合」で取材拒否。財研、放送記者クラブ加盟社のみ。そもそも週刊新潮が書いたことで明るみになった問題なのに。テレビ局の意識低すぎるのでは。

出典:https://twitter.com/dong_po_rou/status/986643038226141184

最悪。テレ朝の会見、ハフポや週刊誌などは入室拒否。財研とか放送の記者クラブ加盟社でないと入れないんだと。これだけの事態でどういう対応だよ。週刊誌が書かないと問題が明らかにならなかったというのに。馬鹿にすんな。

出典:https://twitter.com/masakotoroji/status/986623321843359744

 「週刊誌が書かないと問題が明らかにならなかった」というのは、完全にその通りだし、ハフィントンポストやバズフィードなどのネットメディアは「#metoo」や性暴力の報道に力を入れている。テレビや新聞を見ない層も増えている中、締め出しは残念です。

ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

トナカイさんへ伝える話

税込550円/月初月無料投稿頻度:月4回程度(不定期)

これまで、性犯罪の無罪判決、伊藤詩織さんの民事裁判、その他の性暴力事件、ジェンダー問題での炎上案件などを取材してきました。性暴力の被害者視点での問題提起や、最新の裁判傍聴情報など、無料公開では発信しづらい内容も更新していきます。

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