アップル、iPhone向け通信半導体の自社開発難航
米半導体大手のクアルコムは今年9月、米アップルスマートフォン「iPhone」向け通信半導体の供給で、同社と3年間の契約を締結したと明らかにした。2024年、25年、26年に発売されるiPhone、つまりiPhone 16、同17、同18 (いずれも仮称)に5G(第5世代移動通信システム)対応モデムを供給するというもので、その内容や条件はこれまでと同様だという。
半導体内製化を進めるアップル
アップルはiPhone向け通信半導体の自社開発に力を入れている。同社はクアルコムとの調達契約を23年に終了し、24年発売のiPhoneから自社開発品に切り替えるとみられていた。米ウォール・ストリート・ジャーナルなどは、「このことは、アップルの取り組みがまだ実を結んでいないことを示している」と報じている。
この発表日当日、クアルコムの株価は米株式市場で3.9%上昇し、110.28ドルになった。アップルの株価は1.18ドル上昇し、179.36ドルになった。
アップルは自社電子機器向け半導体の内製化を進めている。10年には同社初の自社開発半導体を完成させ、タブレット端末「iPad」とiPhoneに搭載した。20年からはパソコン「Mac」向け半導体を開発し、米インテル製からの切り替えを開始した。これら自前品によってもたらされる処理速度の向上やバッテリー駆動時間の延長によって、アップルは不振だったMac事業を立て直したとウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。
米調査会社ガートナーの北川美佳子調査ディレクターによると、21年の世界パソコン市場におけるアップルのシェアは7.9%で、Windowsパソコンは81.8%だった。しかし26年にはアップルのシェアが10.7%に上昇し、Windowsは80.5%に低下すると同氏はみている。
通信半導体の開発は困難
一方、通信半導体は開発が非常に難しいとされており、世界には製造できる企業がほんのわずかしかないと、ウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。例えば、クアルコム、台湾聯発科技(メディアテック)、韓国サムスン電子などにとどまるという。
クアルコムとアップルは、特許使用料を巡り長期にわたる法的闘争を繰り広げ、19年に和解した経緯がある。このとき、両社は長期の特許ライセンス契約と供給契約を結んだ。しかし、この年アップルは、米インテルから通信半導体事業を10億ドル(約1500億円)で買収し、約2200人の従業員と特許資産を獲得した。アップルはそれ以降、クアルコム依存からの脱却を目指してきた。
米CNBCによると、クアルコムにとって、アップルとの契約延長は携帯電話向け事業の業績を後押しすることを意味する。その23年4〜6月期の売上高は52億6000万ドル(約7700億円)だった。
クアルコムの売上高、徐々に減少へ
スイス金融大手UBSの推計によると、クアルコムの22会計年度の売上高、442億ドル(約6兆4900億円)のうち、約21%がアップルからのものだった。ロイター通信によれば、クアルコムは今回、19年にアップルと締結した特許ライセンス契約も継続することを明らかにした。この契約は25年に満了となるが、両社には2年間延長するオプションがあるという。
ただし、今回の契約をもってしても、今後、クアルコムの売上は徐々に減少していくとみられている。アップルが自社通信半導体への取り組みを継続するからだ。クアルコムも、今回の契約の最終年に当たる26年には、iPhone全体に占めるクアルコム製通信半導体の比率が2割にまで低下すると予測している。
筆者からの補足コメント
ここでアップルの事業別売上高を確認しております。例えば23年4〜6月期では、アップルの全売上高の約半分を占めるiPhoneは、前年同期比2%減の396億6900万ドル(約5兆6700億円)でした。パソコン「Mac」は68億4000万ドルで同7%減、タブレット端末「iPad」は57億9100万ドルで同20%減少しました。一方、腕時計端末「Apple Watch」やスマートスピーカー「HomePod」などの「ウエアラブル、ホームおよびアクセサリー」は82億8400万ドル(約1兆1800億円)で同2%増加しました。また、アプリ・音楽・動画配信などのサービス事業の売上高は同8%増の212億1300万ドル(約3兆300億円)に達し、四半期ベースで過去最高を更新。サービス事業の売上高は3四半期連続で200億ドルを超え、アップルの全売上高の4分の1を占めるまでになりました。