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育児としての道路上の子どもの見守り:Safe HavenとSecure Base

大谷亮心理学博士・日本交通心理学会/主幹総合交通心理士
(写真:tokyoimages/イメージマート)

 2021年度が始まり1ヵ月が経ちました。新一年生もそろそろ学校生活に慣れてくる時期ではないかと思います。

 以前にも記しましたが、人口10万人あたりの歩行中の交通事故死傷者数が最も多いのは、新一年生の7歳児であり、5月以降に増加する傾向にあります。この原因はいくつか考えられますが、保護者、地域のボランティア、さらには学校が協力して行っていた見守り活動が5月以降に減少し、歩行者として未熟な子どもが一人で通学しなければならないこともその一因と考えられます。

 このことから、小学校入学直後の4月だけではなく、5月以降も継続的に見守り活動が実施されることが望まれます

◆保護者が考える見守り必要年齢

 3歳から10歳の子どもをもつ保護者663名を対象にしたアンケート調査の結果、6・7歳の子どもは見守りを必要としないと回答した保護者は約2%、また、8歳前の子どもに見守りは必要ないと回答した保護者は約10%みられました(図1)。また、接近する車が存在する歩車分離のない道路や駐車場を子どもと歩いている場合に、手をつながないと回答した新一年生の保護者が7%程度みられました(図2)。

注)(一社)日本損害保険協会自賠責運用益拠出事業(2020)による助成で得られたデータ

図1. 保護者が見守りが必要と考える子どもの年齢

注)(一社)日本損害保険協会自賠責運用益拠出事業(2020)による助成で得られたデータ

図2. 保護者の手つなぎに対する意識

 子どもの特性や生活している環境は様々であり、見守りが必要な年齢を一概に特定することはできませんが、子どもの能力を調べた結果、12歳くらいまでは複雑な交通環境に対応できないと指摘した研究者もいます。また、保護者は自身の子どもの道路の横断能力を過大評価するといった研究もあります。

 子どもの交通事故低減のためには、上記の研究結果を踏まえ、自身の子どもの能力を正しく評価して、適切な見守りを保護者が行うことが重要になります。

◆見守りの方法

 道路上での子どもの見守りの種類にはどのようなものがあるのでしょうか。英国の研究者がまとめたところによると、①道路上で手をつなぐなどの「身体的コントロール」と、②車が近づいていることなどを子どもに伝える「非身体的コントロール」があります。見守りの状態でみると、①子どもと手をつないでいるなどの完全な状態、②横断先などで子どもを見守り、子どもと会話ができるような状態、③子どもをみているものの、会話が成立しない状態、さらに、④見守りなしがあります。

 さらに、道路上の見守りは、保護者が自身の子どもに対して行う場合と、集団登下校などのように多くの子どもが一緒に移動する際に、保護者、地域のボランティア、さらには学校の教員が付き添って見守る場合があります。道路上で多くの子どもを見守る際のポイントは、滋賀県警察本部が作成した園外活動時の交通安全マニュアルなどが参考になります。

<園外活動時の交通安全マニュアル:滋賀県警察本部>

https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5131344.pdf

◆見守りのポイント

 道路上での子どもの安全確保のために、保護者や周囲の大人は適切な見守りを行う必要があります。子どもを見守る際に配慮すべきポイントとして、以下の点があります。

●比較的安全な場所を歩く

 学校までの登下校は、各学校などが中心となって比較的安全なルートが定められていると思います。この他に、保護者が子どもと一緒に歩くときには、交通量の少ない道路や、道路幅の広い道路、信号機や横断歩道のある道路など、より安全なルートを選択し、常時見守りが必要な危険な道路を歩行しないようにすることが、子どもの安全確保にとって重要となります。

●子どもの特性や状態を知る

 例えば、新一年生は右と左を理解できるかなどの子どもの一般的な発達を保護者が理解して、道路上で注意を喚起するなどの対応を選ぶことが重要になります(「右から車がくるよ」の注意喚起を子どもは理解できるか、など)。また、子ども一人一人の好きなものや嫌いなものなどを理解し、飛び出しなどの不安全な行動を遂行しないかを随時チェックすることも大事になります(動物が嫌いな子どもの前から、動物が接近した場合に道路に飛び出さないか、など)。

 さらに、その時々の子どもの状態(怒りなどの感情や、疲れ、眠気など)を保護者が察知し、適切な見守りの手段を選定することも求められます。

●事故の原因を作らない

 過去の事例をみると、保護者などが先に道路を横断し、追いつこうとした子どもが道路を急いで横断することで発生した事故がみられます。日本および諸外国の研究では、保護者と子どもが一緒に歩くことによって、子どもの不安全行動が誘発された例も多く報告されています。例えば、大人の歩行速度が速いために、追いつこうとして走る子どもが約2人に1人の割合で存在したという研究結果もあります。

 この点から、保護者が単に付き添うだけではなく、意識的にまた積極的に子どもを見守ることが、子どもの安全確保にとって重要となります。

●教育の場にする

 適切な道路の横断行動を子どもが習得するには、具体的な場面で繰り返し訓練することが大切になります。道路の横断方法の教え方については、以下の記事をご参照下さい。

<道路の横断方法の教え方>

https://news.yahoo.co.jp/byline/ohtaniakira/20200324-00167485/

 具体的な場面で繰り返し教育を行うことを考えると、保護者と子どもが一緒に道路を歩いている状況は、教育の場として最適と考えられます。周囲の安全を確保しつつ、子どもが適切な道路の歩き方をしているかをチェックし、もし問題があれば子どもと話し合い、適切な道路の横断方法を実践できるように訓練してみましょう。

◆育児という意味での見守り

 発達心理学の中では、保護者に対する子どもの愛着に関する様々な研究が行われています。育児の中で保護者は子どもに対して、2つの機能を果たすことが求められます。その2つの機能とは、安全な避難場所(Safe Haven)安全基地(Secure Base)です。安全な避難場所とは、例えば、見知らぬ人が接近してきた際に、子どもの避難場所として保護者が機能することであり、安全基地とは、子どもが自由に様々なことやものを探索できるために保護者が基地の役割を果たすといった機能です。避難場所と安全基地により、子どもの安全確保と健やかな自立が実現されます。

道路上での子どもの安全確保のための見守りは、安全な避難場所としての機能を果たすものです。ただし、育児という意味での見守りには、子どもの安全確保だけではなく、安全を確保した中で、子どもが自由に様々なことやものを探索できるといった場を保護者が提供するといった機能をもつことが、子どもの自立のために大切になります。

 子どもの安全確保と健やかな自立を促進するため、保護者が温かい目で子どもを見守るのに必要な知識や技能をもっておくこと、また、そのための支援が求められます。

心理学博士・日本交通心理学会/主幹総合交通心理士

心理学の観点から、交通事故防止に関する研究に従事。特に、交通社会における子どもの発達や、交通参加者(ドライバーや歩行者など)に対する安全教育プログラムの開発と評価に関する研究が専門。最近では、道路上の保護者の監視や見守りを対象にした研究に勤しんでいる。共著に「子どものための交通安全教育入門:心理学からのアプローチ」等がある。小さい頃からの愛読書は、「星の王子様」。

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