イニエスタの後継者が出現。バルサの米国遠征で8番を背負う!
FCバルセロナから移籍したアンドレス・イニエスタ(34才、ヴィッセル神戸)は、酷暑の日本で旋風を巻き起こしている。その技術の高さは、歴戦のJリーガーたちも舌を巻くほど。「一時帰国」だけでニュースとして扱われる外国人アスリートは、ほんの一握りだろう。
しかしイニエスタを生み、育てたバルサでは、すでに輝きを放つ新星が生まれている。
リキ・プッチ、18才。
8月下旬のリーグ開幕に向けたプレシーズン、アメリカツアーでは(限定的ながら)イニエスタが背負った8番をつけている。トッテナム、ローマ、ACミランという強豪相手でも物怖じしていない。
「バルサスタイルの希望の名はプッチ!」
スペイン大手スポーツ紙「マルカ」はそんな見出しを打つほどだ。
才気煥発な若手の正体とは―。
スポーツ一家で生まれる
プッチはスポーツ一家に生まれている。父は地元テラサで左サイドバックとしてプレー。3部リーグながら、立派なプロ選手だった。兄はグラスホッケーの選手だ。
幼少期のプッチはテニスにはまっている。しかし父の影響を受け、8歳の時にサッカーにのめり込むようになる。
「シャビ・エルナンデスがアイドルだった」
プッチはそう明かしているが、13才のときにバルサの下部組織であるマシアに入団している。
スカウトしたのは、ギジェルモ・アモールだった。ヨハン・クライフが、(ジョゼップ・グアルディオラの前に)初めてマシア育ちの選手としてプレーメーカーに指名した人物である。
「ラインの間でプレーするセンスがあり、そこで生きる技術もある」
それがスカウティングの評価だったという。
小さいという利点
もっとも、入団当初のプッチはリオネル・メッシと同じファルソ9(偽9番という意味で、トップの選手だが自由に動き、得点もラストパスも)というポジションを任されている。一回り大きな相手も苦にせず、絶好のラストパスを出せたし、流麗なプレーメイクもできた。そしてゴールも多く決め、小さな大会では何度もMVPを獲得している。
同年代の選手とプレーしても、その体は小さく、細かった(今も身長は169cmしかない)。年上の選手に混ざると、一人だけ子どものように映る。しかし、バルサ関係者はそれをむしろアドバンテージとして見た。
「小さい選手がプレーできているなら、それはすでに良い選手である証明だ。相応の技術があることを意味し(なければ潰される)、小さい利点を生かすことに慣れ、カテゴリーが上がっても問題ない。むしろ、フィジカルで勝っている選手は通じなくなって苦しむ。小さい選手に注目すべきだ」
クライフが残した言葉は金言と言える。
小さなプッチは、ボールプレーによって巨大な宇宙を創り出せるのだ。
イニエスタと似た謙虚さ
18歳で初めてトップの試合に帯同したプッチだが、屈強な男の当たりも、まったく意に介していない。
「とても満足しているよ」
アメリカツアーに関して聞かれたプッジは、そう話している。
「自分は忘れがたい経験をしていると思う。公式戦であろうとなかろうと、トップチームでプレーできたのは喜びだよ。それはすべて、マシアで学んだことのおかげだろう。素晴らしい指導者たちがいたからだ」
リップサービスに聞こえなくもないが、プッチは謙虚な性格なのだという。仲間を気遣い、恩義を感じる。その点も、イニエスタに通じる。感謝の気持ちを忘れず、スポーツマンとしてフェアな精神を持ち合わせている。
昨シーズンは、UEFAユースリーグ(ユース年代の欧州チャンピオンズリーグ)で優勝しているが、当時もプッチは色気を見せず、ユースでのプレーに専念した(2部のバルサBでもデビューするも)。そして、仲間と優勝という最高の瞬間を分かち合った。目の前のことを疎かにしない。小さい選手だが、誰よりも尊敬されている。
「偉大なるイニエスタの足跡はずっと心に残るはずだよ」
プッチは、「自分とは比較できない」と言うが、ピッチに立った彼のプレーに気負いは不思議と見えない。はにかむ姿にはさすがに幼さを感じさせるが、これから成熟したら――。イニエスタを伝説にする後継者が、バルサに出現した。