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堀江貴文氏に期待することは?(1)「速報重視の既存メディアに良い刺激になってほしい」

小林恭子ジャーナリスト
「欧州ジャーナリズム・センター」の記事(ウェブサイトより)

3月27日、元ライブドア社長堀江貴文氏が刑務所から仮出所した。今後、新しいメディアを作るとさまざまなところで話しており、米ハフィントン・ポストの日本上陸ともあわせ、ネット界の今後がさらに面白くなってきた感じがする。

仮出所直後の熱狂振りと堀江氏に期待するものについて、非営利組織「欧州ジャーナリズム・センター」に原稿を書いた(4月26日掲載)。

記事内では一部しか紹介できなかったので、コメントをいただいた複数の方から了解をとって、以下にその内容を掲載してみる。コメントをいただいたのは4月上旬であった。それ以降、追加情報が出てきたわけだが(堀江氏がグノシーと協力するなど)、あくまで当時の情報を基にしたものとご了解願いたい。

***

(1)

*メディアストラテジスト集団「Qbranch」代表、新田哲史さん

―堀江さんをどう評価しますか?(ビジネスマン、メディア運営者、起業家、政治的動きなど)

美辞麗句ではなく、「天才」「革命家」的な気質だけはある人だとは思います。

時代の先行きを読む感覚は人並み外れているのは確か。日本でSNSが普及する前から、ミクシィをいち早く使っていた辺りは典型的ですね。

著書名「稼ぐが勝ち」など、その言動が物議を醸したことは、「偽悪者」という評価もありましたが、「天才」であるが故に、凡人の違和感や警戒心を読み取れず、出る杭は打たれる日本社会の暗部を甘く見ていたのではないでしょうか。織田信長が、他人の空気を読めないアスペルガー症候群だったとする説がありますが、そういうことを彷彿とさせますね。ただし、「革命家」は、既成概念や常識にとらわれていてはイノベーションを起こせないので、ある種の代償で得た才能でしょう。

しかし、元部下(塩野誠氏)の本を見ていると、経営者(リーダー)としてガバナンスが優れていたかは疑問ですね。当時のライブドアは、部下が取引先ともめて訴えられてもすべてが「自己責任」。訴訟対応も自分でやるというものだったそうで、社員を守る普通の企業であれば考えられない感覚です。あの頃の堀江礼賛的な視点で言えば、資本主義、市場原理にかなった対応で「社員は会社で食わせてもらうのではなく、稼ぐものだ」となるんでしょうが、「その他大勢」に与え続けた違和感を拭いきれませんでした。

ー堀江さんの受刑をどのように受け止められましたか。

事件の事実認定に関する法的な解説が出来ないので、なんとも言えないのですが、仮に本人が粉飾決算の事実を知っていたとしても50数億。日本では、ライブドアより遥かにケタが2つも違う粉飾事件があった中で、実刑が出たケースは少ない。国家権力による恣意的な判断があったと勘ぐりたくもなりますね。これは知人の受け売りですが、「革命家」としては実刑は留学みたいなもので、宿命なのかもしれません。獄中からもツイッターやメルマガで発信し続けたあたり、タダでも転ばないと感じました。

―仮出所中ですが、現時点での経営者としての責任他、何かお感じになることがおありでしたら、教えてください。

判決の事実認定についての評価は、私もなんとも言えないです。

ただし、事件当時、当時の幹部が不可解な死を遂げましたし、ご遺族は、相変わらずメディアに出てきている堀江氏をどう思っているんだろうかと考えます。出所後の記者会見で、再犯防止の支援といった社会事業にも意欲を見せていますが、その言葉が本気なのかどうか、まだ見極めるべき段階かなと思います。

―今後に期待されることなど(メディア、事業家、若者へのインスピレーションなど)

「革命家」として、獄中体験をどう生かすのか。特に新しいメディア事業への意欲を示しているので、どんなものか注目したいです。ただ、かつての彼は「インターネットで誰かが情報を拾って発信すればプロの記者なんかいらなくなる」的な極論を振りかざしていたので、どこまで変わったのか。

ただし、もし自身の“えん罪”体験を踏まえ、調査報道主体の新しいメディアを立ち上げるような動きを見せると速報重視の既存メディアに良い刺激になってほしいと思います。

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(2)

メディア・プロデューサー 石山城さん

先ず、ボクが堀江さんに抱いている感想なのですが(彼はボクより7つ下)、彼はバブルが崩壊してから社会人になった人で、その後失われた20年といわれる超氷河期の日本に現れた超新星だったんだと思うわけです。

出口の見えない闇雲の中を日本中の人が彷徨っている最中、「こうすれば明るく生きられるんだよ」「こうすればお金は儲かるんだ」というアクションとメッセージは、IT時代・金融時代という時代背景とマッチして華々しく輝かせたのだと思います。

しかしながら、彼は、いわば「大人語」を使うことができなかったことで、目上の人たちから総スカンをくらった結果が、叩きつぶされた…という結果を招いたのだとボクは思っています。

一方、同じように注目された人物として、まるで反対の表現をして成功したのが楽天の三木谷さんだったんだとボクは思っています。

これは、例え二人が似たような才能を持ち合わせていても、大人たちの協力が得られたか、得られなかったか…という、人生の成功するステップには欠かせない要素を得られたか、得られなかったか…という大きな違いだったような気がします。ボクは二人のことはよくわかりませんが、端から見ている限りは、経営手腕はそんなに違わなかったのではなかったかと思います。

さて、しかしながら、その話も今や昔。今、仮出所で出てきたこの時代は、当時とはかなり状況は変わっていて、今は、いかに新しいことにチャレンジするか? 世代や国籍などいっさい無関係に、いかに賛同者・共感者を集められるか?という「評価経済社会」になっているので、今となっては、堀江さんの今後のアクションは、せまい日本のなかでの、更にはオトナの世界だけに賛同者を得られている三木谷さんよりも、より大きな影響力を持っていて、実は、堀江貴文の人生はこれからが本番なのかも知れません。

というのも、今、時代を動かしているムーブメントを牽引している人たちは、堀江さんの後ろ姿を追いかけてきた後輩たちであり、それらはGMOの熊谷社長をはじめ、mixiの笠原社長、元ペパボの家入一真くんなどなど、数え上げたらキリが無いぐらいにその影響力は高い状態となっています。

余談までに、仮出所で出てきてからの彼の言動についての、ボクの感想をつらつらと書きます。

彼の出所後のインタビューは、ネットのあちこちで全文が掲載されるほどの人気ぶりとなっていますが、それを見る限り、表現はとてもマイルドになったという印象を受けました。

以前は、ケンカ上等のような子どものような印象を受けましたが、彼も、この逮捕経験により、自分がしたいことだけに特化する(それ以外は金持ちケンカせず)ことを学んだように思えます。

更に、以前の彼と今の彼の違いは、時代の変化に敏感に感じ取っていることもあってか、 より本質的にーーーこれは言わば、ビジネスでも、ダイレクトに個別の商売よりも、サービス(システム)全体を売るという方向にシフトしているのかな、(見え方としてはよりビジネスビジネスに見えづらいけど、でも今の時代はそれが一番儲かる)ーーー変化してるという印象を受けました。それは今のIT成功者たちに共通する思想だともボクは感じています。(その2に続く)

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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