BABYMETAL、スーパーボウル出演の噂に迫る
アメリカで最も人気があり、世界一のスポーツイベントとも呼ばれるNFL王者決定戦『スーパーボウル』。そのスーパーボウルのハーフタイムショーのシークレット・ゲストとしてBABYMEATLが参戦するのではとの噂が飛び交っている。
噂の出処はアメリカのチケット販売会社「AXS」の公式ツイッター。
「スーパーボウル歴代最高のハーフタイムショーを保証する唯一の方法がある。それはBABYMETALだ」とのツイートが反響を呼んで、BABYMETALファンを中心に期待の声が上がっている。
このツイートを発信したAXS社は、エンタメ系のチケット販売ではチケットマスターに次ぐ全米2位の規模を持つ。
親会社はロサンゼルスにある「ステイプルズ・センター」やロンドンの「O2アリーナ」など複数のスポーツ施設を運営するアンシュッツ・エンターテイメント・グループで、エンターテイメント界だけでなく、スポーツ界でも力を持っている。
NFLの担当者に連絡して、事の真相を直接尋ねてみたが、何も言えないとの返答があったのみ。近年のスーパーボウルはハーフタイムショーにシークレットゲストを呼ぶことが多く、ここで情報が流れると「シークレット」にならない。NFLから回答を得られなかったので、BABYMETALには詳しくはないが、過去に何度もスーパーボウルを現地取材している筆者なりに、この噂の現実味を探ってみたい。
ちなみに筆者が持つBABYMETALの知識は、メイン・ボーカルのSU-METALこと中元すず香は、人気アイドル・グループ「乃木坂46」の「ひめたん」こと中元日芽香の妹だと言うことだけである。
BABYMETALのゲスト出演が噂されるスーパーボウルは、来年2月5日(現地時間)にアメリカのテキサス州ヒューストンにあるNRGスタジアムで開催される第51回スーパーボウルだ。
スーパーボウルとは、アメリカン・フットボールの世界最高峰リーグであるNFLの年間王者決定戦で、そのイベントの注目度はスポーツの枠を超え、間違いなくアメリカ最大規模であり、1日の注目度ではオリンピックをも凌ぐと言われる。
米経済誌の「フォーブス」による試算ではスーパーボウルの収益は6億2000万ドル(約620億円)で、夏季五輪やサッカーのワールドカップも上回る「世界で最も価値のあるスポーツイベント」だ。
試合の模様は世界200ヶ国以上で生中継され、アメリカ国内では50%近い視聴率を誇り、1億人以上の視聴者が観る「米国版紅白歌合戦」とも言える。
ハーフタイムショーが試合同様の注目を集めるようになったのは、1993年にマイケル・ジャクソンが出演した第27回大会から。それまではハーフタイム・ショーは「トイレの時間」だったが、マイケル以降は試合と同じ規模の人気を誇る「世界最大」の音楽イベントとなり、ローリング・ストーンズ、マドンナ、ビヨンセなど超人気スーパースターが圧巻のパフォーマンスを披露する場となっている。
来年のスーパーボウルのハーフタイムショーで主演を務めるのはレディー・ガガ。彼女は今年の第50回スーパーボウルでは国歌斉唱を務め、2年連続でのスーパーボウル出演となるが、ハーフタイム・ショーに出るのは初めてだ。
過去5回のスーパーボウルでは、メイン・パフォーマーがゲストを伴うのが恒例となってきており、今年もシークレット・ゲストの登場が期待される。
過去6大会のスーパーボウル・ハーフタイムショーのメイン・パフォーマー(太字)とゲスト・パフォーマー
2012年 第46回大会:マドンナ; M.I.A.、ニッキー・ミナージュ、シーロー・グリーン、LMFAO
2013年 第47回大会:ビヨンセ; デスティニーズ・チャイルド
2014年 第48回大会:ブルーノ・マーズ; レッド・ホット・チリ・ペッパーズ
2015年 第49回大会:ケイティ・ペリー; レニー・クラヴィッツ、ミッシー・エリオット
2016年 第50回大会:コールドプレイ; ビヨンセ、ブルーノ・マーズ
2017年 第51回大会:レディー・ガガ; ???
そこで名前が浮上してきたのが日本のBABYMETALだ。
「アイドルとメタルの融合」をテーマに2010年に結成されたBABYMETALは、SU-METAL、YUIMETAL、MOAMETALの3人の少女からなるヘビーメタル・バンド。
BABYMETALは2012年に初の海外公演となるシンガポールでのアニメ・フェスティバルに参加したのを皮切りに、2014年にはフランス、ドイツ、イギリス、アメリカ、カナダを巡るワールドツアーを敢行。
この年には、レディー・ガガの北米ツアーの前座を務めた縁で、来年のスーパーボウルのメイン・パフォーマーであるガガ様との密接な繋がりもある。
日本では芸能プロダクションの「アミューズ」に所属するBABYMETALだが、海外公演用としてアメリカの大手プロダクション「ウィリアム・モリス・エンデヴァー・エンターテイメント」(以下、WME)にも所属している。
このWMEはアメリカ芸能界の4大エージェントの1つであり、俳優のクリント・イーストウッド、リチャード・ギア、デンゼル・ワシントンなどの超大物俳優が多数所属している。音楽部門でもローリング・ストーンズ、バックストリート・ボーイズらを抱えており、日本のミュージシャンでは坂本龍一、X JAPAN、そして過去には松田聖子のマネージメントも務めた実績を持つ。
BABYMETALがレディー・ガガの前座を務めたときは、ガガ様もWME所属であり、同じ事務所所属という「政治力」もサポートアクトに大抜擢を受けた理由の一つだった。
このMWE、今年7月には世界一の総合格闘技団体「UFC」を40億ドル(約4000億円)で買収しており、選手だけでなく、いくつかのプロ・スポーツリーグとも代理店契約も結んでいる。NFLも大事な顧客である。
2013年には24億ドル(約2400億円)でIMGを買収。傘下企業に収めたIMGは、昨季のNFLのMVP受賞選手であるキャム・ニュートン(カロライナ・パンサーズ)や男子テニスの世界ランク1位選手のノバク・ジャコビッチ、錦織圭や浅田真央というスポーツ界のスター選手を多数抱える大手スポーツ・エージェンシー。
レディー・ガガは今年1月に「クリエーティブ・アーチスト・エージェンシー」(以下CAA)に移籍するまではWMEに所属。移籍先のCAAは元WMEの社員数人が独立して作り上げた世界最大規模の芸能/スポーツ代理人事務所で、職員は1800人以上、契約タレントは5000人以上というマンモス事務所だ。
CAAのスポーツ部門にはデレック・ジーター、ペイトン・マニング、デビッド・ベッカムと野球、アメフト、サッカー界から最近引退したスーパースターが所属。音楽部門にも故マイケル・ジャクソン、ボン・ジョビ、ブリトニー・スピアーズなど一流のエンターテイナーが名前を連ねる。
このようにアメリカ4大芸能事務所のWMEもCAAも、芸能界だけでなくスポーツ界にも強い影響力を持っており、そういった意味ではWMEに所属しているBABYMETALは力強い後ろ盾に支えられている。
スーパーボウルのハーフタイムショーはNFLから出演料が全く払われない「名誉職」だが、全世界の人たちにパフォーマンスを届けられるメリットは出演料以上に大きい。
日本の芸能界では紅白歌合戦に出場すると、その後の仕事の出演料が上がるそうだが、アメリカでもスーパーボウルのハーフタイムショーに出演したアーティストは大きな箔が付き、その後の仕事の影響も大きい。
例えば、全米生中継されるスーパーボウルの30秒CM枠は500万ドル(約5億円)。約12分間のハーフタイムショーをCM枠で単純換算すると約120億円の広告価値がある。
もし、BABYMETALがシークレット・ゲストとしてスーパーボウルでレディー・ガガと共演でき、2分間でもステージに立てたらそれだけで20億円分の宣伝効果になり、世界中の人たちに存在とパフォーマンスを知らせることができる。
では、本当にBABYMETALがスーパーボウルのシークレット・ゲストに選ばれる可能性はどうなろだろう?
ネットの書き込みを見ると、「アメリカの国民的イベントなのだから、外国人歌手は選ばれない」との声が上がっていたが、過去にもフィル・コリンズ、U2、ポール・マッカートニー、ローリング・ストーンズ、コールドプレイなど多数のアメリカ以外のミュージシャンがメイン・パフォーマーとしてスーパーボウルに華を添えてきた。
しかも、今回のメイン・パフォーマーはアメリカ人のレディー・ガガなのだから、外国のアーティストである点は気にしなくてもよい。
それよりも懸念される問題は、これまでにスーパーボウルに出演したアーティストは、イギリスなど英語が母国で、英語の歌を披露してきたが、BABYMETALは海外に出ても英語ではなく、日本語で貫き通している点だ。
今年2月にリリースされた「KARATE」も日本語で歌い上げるが、メタルのリズムの中に「和」を感じさせる音が散りばめられ、振り付けも空手をモチーフにしており、日本語を理解できない外国人でも、日本語で歌われても気にならない曲に仕上がっている。また、どうしても英語が気になる際には、新アルバムに収録された英語歌詞の曲を歌うというオプションも残されている。
個人的にはBABYMETALのスーパーボウルのハーフタイムショー出演に際する最大の壁は、アメリカでの人気と知名度だろう。
ゲスト・パフォーマーとは言え、今年はビヨンセとブルーノ・マーズ、2年前はレッド・ホット・チリ・ペッパーズ、3年前もデスティニーズ・チャイルドと大物ゲストがずらりと並んでいる。
それらのゲストと比べると、BABYMETALは圧倒的にアメリカでの知名度が低過ぎる。
今年4月に発売したアルバム「METAL RESISTANCE」は、iTunesストアで総合アルバムチャートで最高3位と大健闘を見せたが、ビルボード200では39位が最高位。1963年の坂本九以来となる日本人2組目のトップ40入りこそ果たしたが、ビヨンセなどと比べると足元にも及ばない。
過去4年間のゲスト・パフォーマーが全員大物過ぎて、彼らと比べてしまうと、出演の可能性が消されてしまうので、5年前にマドンナがゲスト・パフォーマーに呼んだ4組と比べたい。
イギリス出身の女性ラッパー、M.I.A.がゲスト出演する直近に出したアルバムはアメリカ国内でのチャート最高位が9位で、99,000枚の売り上げを記録。シーロー・グリーンはランク最高25位で、225,000枚。BABY METALの39位、12,240枚は、この2人と比べても低いと言わざるを得ない。
結論を言うと、BABYMETALがスーパーボウルのシークレット・ゲストに選ばれる可能性は非常に低いがゼロではない。もし、彼女たちが選ばれるとしたら、レディー・ガガが複数の(できるだけ多くの)歌手、グループを招待して、その中の1組になることだろう。
奇抜なアイデアで世界中を驚かしてきたレディー・ガガだけに、来年のスーパーボウルでも世界中のファンの期待を大きく上回るサプライズを用意しても不思議ではない。
そう、スーパーボウルの大舞台に乃木坂46も選ばれて、中元姉妹が所属するアイドルグループが共演すると言うファンにとっての夢物語さえ、ガガ様プロデュースならば絶対にないとは言い切れないのだ。