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パンチで地球を割った『Dr.スランプ』のアラレちゃん。いったいどれほどオソロシイ行為なのか!?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の研究レポートは……。

マンガやアニメには「すごい行為」をさらりとやってのけるヒトがいるけど、筆者が思うにその筆頭は、パンチで地球を割ってしまった『Dr.スランプ』のアラレちゃんだ!

アラレちゃんは則巻千兵衛博士が作ったロボットで、天真爛漫に遊んでいるだけなのだが、パワーがすごすぎて、やることなすことが超スケールになる。

その事件が起こったのは、自称「正義の味方」スッパマンが、アラレちゃんに挑戦したとき。

彼が瓦を3枚割って「びびったか!! カワラ3枚わり!」と胸を張ると、アラレちゃんはしゃがんで「ほいっ!」と地面を殴る。

すると地球が「ばかッ」とスイカのように割れた! アラレちゃんは「地球わり!」と大喜び。

スッパマンの両目は驚いて飛び出していたが、いやもう、これはどれほど驚いても足りない驚愕の行為である。

◆地球を割るパンチとは!?

46億年の歴史を持つ地球は、赤道半径6378km。上空500kmにも達する大気圏で覆われ、13億8900万km³もの水を湛え、150万種の動物や90万種の植物など豊富な生命を育み、われわれ78億の人類もその一員として暮らしている。宇宙の宝石とも称えられる美しい星だ。

そんな奇跡の天体を、パンチ一発で「ばかッ」ですと!?

そもそも、パンチを打ち込んで、地球がスイカみたいに割れるのが不思議である。6600万年前に地球に衝突して、恐竜を絶滅させたとされる小惑星は、直径160kmのクレーターを作ったが、地球の一点に莫大なエネルギーが加わると、ああなるはずだ。

あるいは、エネルギーがもっと大きかったら、地球はコナゴナに砕けるかもしれない。

「地球割り」に似た現象を自然界に探すなら、「断層」だろうか。

断層は、マントルの運動で地表の岩盤がゆがみ、限界を超えて割れ、互いにずれることで生じる。強引だけど、ここではアラレちゃんに殴られた地球も、パンチの衝撃でゆがみ、限界を超えて割れた、と考えよう。

断層が発生すると地震が起こり、断層の面積が大きいほど、地震のマグニチュードは大きくなる。地球の断面積(1億2800万km²)を断層の面積に置き換えるなら、そこから生まれる地震とは、なんとマグニチュード15だ。 

つまり、アラレちゃんが地球を「ばかっ」と殴ったことにより、地球全土が激震に見舞われたはずなのだ。マグニチュード15とは、過去100年に起こった最大の地震(マグニチュード9.5)の1億8千万倍ものエネルギーである。

◆たちまち遠距離恋愛に!

だが、地球割りの恐ろしさは、こんなものではない。

アラレちゃんのパンチによって、地球には大きな割れ目が走っている。マンガのコマで、割れ目のいちばん広い部分を測ると、地球の直径の10分の1ほども離れている。するとその距離、1276km!

これはモノスゴイことだ。アラレちゃんのパンチのエネルギーが、地球を割ったうえに、2つの半球を互いの重力に逆らって1276kmも引き離したということだから。これに必要なエネルギーは26000000000000000000000000000000J。

こんなことをされた日には、地球はどうなってしまうのか?

ある日の昼下がり。ペンギン村でデートしていたカップルが手をつなごうとした瞬間、2人のあいだに幅1276kmの地割れが走る! 1276kmとは盛岡~鹿児島ほどの距離だから、哀れ2人は突然の遠距離恋愛に……。

などと若い2人の恋を心配している場合ではない。1276kmというのが、半球同士が離れた最大距離とすれば、地割れが開く速度はマッハ32。この猛スピードには何物もついていけず、このカップルをはじめ人も車も建物も、ダルマ落としのように空中に取り残される。

その下は、深さが地球の直径に等しい1万2756kmの奈落! 皆こぞって落ちてゆくほかはない。海水も滝のように流れ落ちるが、地球内部の高熱でたちまち蒸発する。空気も飲み込まれ、地表は真空になる。地球中心部の温度は6千度で、これは太陽の表面温度と同じだから、太陽のように眩しい光が大地の裂け目から宇宙へ伸びていく……。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

◆地球はイチからやり直し

もうムチャクチャだが、惨事はまだ終わらない。

やがて、二つに割れた半球は、お互いの重力で近づき始める。元に戻ってよかったね、などと喜んではいられない。くっつく速度もマッハ32なのだ!

ぶつかった衝撃で、マグニチュード17.7の地震が起こる。地球がコナゴナになるのは当然で、さらにエネルギーが熱に変わってマグマの塊となる。地球磁場を作り出す外核の運動もぐちゃぐちゃになり、磁石はもはや北を指さないが、そんなことを気にする人はどこにもいない。人類は1人も生き残っていないのだから。

われらの地球は、これから46億年の歴史を繰り返すことになる。

マグマから発生した水蒸気が雲を作り、1000年も豪雨が降り続き、地表は冷えて、低いところに水がたまって海となる。運がよければ、パンチの6億年後くらいに海で生命が誕生するかもしれないけど、うまく行くかなあ。

――その行く末を見ているのは、たぶんアラレちゃんだけだ。なんとオソロシイ光景か。

彼女に悪気がないのは承知しているが、パンチで地球を割ったりするのだけは、どうかやめてほしいと切にお願いする。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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