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子供のアトピーが大人になっても尾を引く?偏見とストレスの関係性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

アトピー性皮膚炎は、子供の頃から発症することが多い慢性の皮膚疾患です。痒みや湿疹に悩まされる一方で、周囲からの差別的な扱いに傷つく経験をする人も少なくありません。では、そうした幼少期のアトピーが成人してからの生活にどのような影響を及ぼすのでしょうか。フランスで行われた興味深い研究をもとに探ってみましょう。

【子供の頃のアトピーとスティグマ体験】

今回の研究は、フランスのアトピー性皮膚炎患者協会に所属する18歳以上の会員1250人を対象に行われました。そのうち、小児期または青年期(以下、幼少期)に発症した人は563人。実に67.1%が幼少期に差別(スティグマ)を感じたと回答しています。

具体的には、61.6%が皮肉や"からかい"を、52.2%がいじめや脅しを、52.4%が差別的な行動を経験。容姿を理由に仲間はずれにされたり、恋愛で振られたりするなど、アトピーゆえに傷つけられた子供時代を過ごした人が多いことが浮き彫りになりました。

【偏見体験が及ぼす成人期への影響】

では、そうした偏見体験は、成人期の生活にどのように影響するのでしょうか。研究によると、幼少期にスティグマを感じていた群は、感じていなかった群に比べ、成人期の病気への負担感が約2倍、ストレス度が高く、現在もスティグマを感じやすい傾向があることが分かりました。

また、メンタルヘルスのサポートを受けている割合も、幼少期にスティグマを感じていた群で24.3%と、感じていなかった群の5.9%を大きく上回っています。子供の頃に受けた心の傷が、大人になっても尾を引いているのです。

【日本でも無縁ではない課題】

今回の研究結果は、一見、遠い外国の話と思うかもしれません。しかし、日本でも、アトピーの子供が差別的なまなざしに苦しむ例は数多く報告されています。学校での不登校やいじめなど、本人の意思とは関係なく疎外される経験は、容易に想像がつくのではないでしょうか。

幼少期のアトピーへの偏見は、その子の人生に長期的な影響を及ぼしかねない重大な問題だと感じます。近年は重症のアトピー性皮膚炎のお子さんにも有効な治療が使えるようになりました。加えて、私たち医療者は、患者さんやご家族に対し、適切な心理的・社会的ケアを提供することが重要な役割となっています。一人ひとりが正しい知識を持ち、アトピーの人を思いやる心を持つことが何より大切です。私たち皆が理解者となることで、当事者の心身の負担は大きく軽減されるはずです。

参考文献:

Halioua B et al., Long-term consequences on stigmatization and disease burden during adulthood among patients with childhood or adolescence-onset atopic dermatitis, BJD, 2024. doi:10.1093/bjd/ljae176

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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