半世紀以上にわたる映画観覧料の変遷をさぐる
映画観覧料は1970年代から上昇、そして横ばいへ
家庭用テレビの大型化やスマートフォンの普及、インターネット上の動画配信の高性能化に伴い、映画館の存在意義が大きく問われる時代が到来している。その過程で映画観覧料に関する論議も繰り返され、多種多様な実証実験も行われている。それでは過去における映画観覧料はどのような推移を示していたのだろうか。総務省統計局の「小売物価統計調査」の公開データを基に、その動向を確認していく。
具体的には東京都区部の小売価格を参考に、1950年以降直近の2016年分までの年次値を随時取得していく。また月次に限れば東京都区部に限れば2017年4月まですでに公開済みであることから、2017年分は1月から4月分までの月次値から平均を算出し、適用する。
金額そのものとしては1950年~1970年は緩やかな上昇、1980年~1985年、1995年以降はほぼ横ばいを示している。一方で1970年~1980年と1985年~1995年の2期間において、大きく値上げをしているのが確認できる。特に1970年からの10年間で、3倍以上の値上がりを見せている。
これは単純に物価が上昇したことに加え、映画館での映画観覧に対する需要が減り、映画館の数が減少したことによるものと考えられる(カラーテレビの普及が1964年の東京オリンピック開催をきっかけとし、1960年代後半から始まっており、その影響が大きいものと考えられる)。需要が減ったことを受け、売上を維持するために単価を高める必要性が生じたわけである。
また1950年に「65円」とあるが、これはグラフ生成時に小数点以下を切り捨てたため。元の値は64円60銭となっている。単純計算だが2017年はその27.9倍である。
なお2014年4月からの消費税率改定に伴い、観覧料の引き上げは行われなかったため、1800円の値が継続している。このタイミングでは代わりに、各種割引料金の引き上げが実施されている(一例としてTOHOシネマズの場合、「鑑賞料金全体での適正な転化になるよう、基本鑑賞料金は現行のままとし、各種割引料金を改定いたします」とし、基本観賞料金に変更は無いが、各種割引料金に100円(税込)が追加されている)。
消費者物価の動向を考慮すると
モノの値段の高い・安いを判断する場合、単純に金額の移り変わりだけでなく、当時の物価を考慮して考えた場合が賢明である。昔の100円と今の100円では、金額は同じでも買えるものには大きな違いがあり、価値は当然違いがあるからだ。
そこで各年の観覧料に、それぞれの年の消費者物価指数を考慮した値を算出することにした。消費者物価指数の各年における値を用い、直近の2017年の値を基準値として、他の年の映画観覧料を再計算する。その計算の結果を基にしたのが次のグラフ。
やはり1970年からの10年間における値上げは物価を考慮しても大きなものであったことが確認できる。一方で1985年~1995年の値上げは物価に連動したものであり、それを鑑みると横ばい、あるいはむしろ実質的な値下げであったことが分かる。そしてそれ以降は物価そのものが安定しているため、料金は1800円でほぼ変わらないから、結果として実質的な料金も横ばいを維持している計算になる。
なお消費者物価指数動向を考慮した上で、1950年の映画観覧料を計算すると529.3円。現在はその3.4倍ほどに相当することになる。
この消費者物価の動向を反映したグラフの限りでは、1970年代以降は映画の観覧料は実質的にほぼ変わらない。にもかかわらず昨今において「映画の観覧料が高い」との意見が多々聞かれるのは、絶対額の問題ではなく、「映画を映画館で観ることへの個人個人の価値感」が減少していると考えれば道理は通る。昔は「1800円出しても観る価値はある」と考えていた人が多数派だったが、今は「1800円ほどの価値は無い」との意見が大勢を占めている。
これが単純に映画の質の低下を意味するのか、それともそれ以外の娯楽(テレビ、ビデオ、インターネット、携帯電話など)の普及で相対的に「映画館で映画を観る」ことへの価値が下げられたのかは、今件の値からのみでは分からない。しかし周囲を見渡す限り、後者の要因がメインであることは間違いない。時代の変化に伴った変革・進化を、映画館も求められているに違いない。
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