韓国の情報機関は北朝鮮内部情報をどうやって入手しているのか
北朝鮮では金正恩委員長のプライバシーや動静に関しては超極秘扱いとなっている。また権力内部に関する情報もそう簡単に外部に漏れることはない。ところが、10月19日に非公開で行われた北朝鮮の監視機関である韓国国家情報院(国情院=李ビョンギ院長)に対する国会情報委員会の国政監査では以下のような興味深い情報が明らかにされた。
情報委員会所属の与野党幹事らのブリーフィングをまとめると、李ビョンギ院長が報告した「北朝鮮最新情報」は以下のとおりである。
[体制不安]
▲この5年間、前代未聞の暴政と結束の弱体化、そして民心離反により不安定な金正恩政権は瀬戸際に追い込まれ、限界状況にある。
▲金正恩には生死を共にする腹心もいない、権力層は保身のため仕方なく忠誠を示しているだけである。
▲特にエリート層は暴政により忠誠心が弱まっている。今年だけで64名が公開処刑された。昨年の2倍である。
▲一般国民の不満は大きく、過酷な労役や収奪で民心離反が全国で拡散している。一部地域では電気も水道も止まり、住民らが市党委員会に押しかけ、集団示威する事例もあった。
▲その結果、韓国に入国した脱北者数は昨年(同期間)に比べ20%も増加している。
※2016年(1-9月)=1036人(昨年同期854名)
[資金難]
▲北朝鮮は資金難に陥っている。海外公館や代表部が閉鎖され、公館員が追放され、新規投資実績も皆無な状況で、外貨調達と統治資金を管理する党39号室の金庫は枯渇している
▲今年3月の国連制裁決議「2270号」以後、外貨が入らず、外貨収入が2億ドル減った。昨年の全体外貨収入33億ドルの6%に相当する金額である。
▲平壌は資金難に陥っており、消費と商取引が全般的に委縮し、消費市場が冷え込み、冷麺の値段を半額にしても客が減少している。
▲それでも制裁無用論を誇示するため核とミサイルで2億ドル、党大会開催で1億ドル、その他建設に1億6千万ドルもつぎ込んでいる。これにより昨年マイナス成長となった北朝鮮の今年の経済成長率はさらに下落するだろう。
▲資金難打開のため北朝鮮の水域を中国漁船に譲渡している。北朝鮮の水域で操業している中国の漁船は2200隻で、昨年の倍に上る。漁業権販売収入は50%増の5800万ドル。また、IT人力の海外輸出のほかに不法賭博サイトを数十か所で開設し、韓国国民の金を詐取する行為を行っている。サイバー攻撃は過去3年間で2倍も急増した。
[金正恩関連情報]
▲米韓の斬首作戦の具体的な内容を把握しろと指示していた。
▲金正恩は行事日程と場所を頻繁に変え、また爆破物や毒薬探知処理のため装備を海外から取り寄せるなど警備を強化している。公開活動は9月現在99回にとどまっており、例年の75%の水準である。
▲金正恩は9月に2億ウォン(2千万円)相当の高級外車やレジャー用ヘリコプター、乗馬など贅沢品を購入している。
▲金正恩は毎週3~4回、深夜まで飲酒パーティを開いており、飲み始めると止まらない。暴飲暴食で神経関係疾患は高危険群である。体重も2012年の90キロから130キロに増えている。
▲兄の正哲は権力から徹底的に疎外され、監視を受けながら生活している。精神不安な状態に置かれており、ホテルで酔っぱらって、酒便を割るなど醜態をさらけ出したこともあった。また、弟に「何の役にも立たない自分を包んでくれていることへの愛情に感謝する」手紙を送っている。正哲は時々、叔母の金慶姫(処刑された張成沢の妻)を訪れている。
▲妹の与正(党宣伝部副部長)は幹部の些細なミスも随時処罰するなど権力を乱用している。
※与正副部長については今年6月の最高人民会議以降公開活動をしていない。4カ月以上も姿を現してないことから妊娠説や病気説が取り沙汰されている。
(参考資料:「金正恩が出て来た!」――「今年最長失踪」の理由は?)
国情院はこの他にも▲咸鏡北道を襲った水害被害を北朝鮮は解放以来最大災害として国際社会に支援を要請しているが、10億ドル規模の被害をもたらした1995年のそれに比べると10分の1程度の被害に過ぎないこと▲核実験以後、北朝鮮が国際社会から受けた支援額が大幅に減少し、約1750万ドに過ぎないことなどを報告していた。
一連の情報で注目すべきは、金委員長のプライバシーに関する部分で、まるで誰かが金委員長の傍で見ていたかのように詳細にわたっている。
国情院はこうした秘密をヒュミント(HUMINT)、即ち海外駐在の北朝鮮外交官や貿易関係者らから、あるいは中朝国境ルートを通じて、さらには北朝鮮を渡航する在日朝鮮人や第三国の関係者から入手しているほか電話盗聴など技術的手段を用いているとも言われている。中でも国情院が重宝しているのが韓国に脱北した高官らの情報である。
韓国にはすでに9月末現在、1036人の脱北者が入国しているが、その中には諜報組織である国家安全保衛部の局長や軍総政治局の幹部、人民軍偵察局の大佐、統一戦線部の外貨獲得幹部、「39号室」の中国・香港担当官、駐英公使、さらには金委員長の薬を海外で調達する保健省北京駐在代表などが含まれているが、これ以外にも公開できない高位級脱北者が10人前後いると言われている。
国情院は彼らの証言を基に今回の現状報告にいたったようだが、それにしても今年だけで「公開処刑された数が64名」と言うのは驚きだ。というのも、国情院は一年前の昨年11月に「過去4年間で処刑された幹部が100人」と発表していたからだ。内訳は2012年17人、2013年10人、2014年41人、そして昨年2015年が30人余で併せて約100人。それが今年は一気に昨年の2倍に増えている。
北朝鮮の国家安全保衛部に匹敵する国情院は北朝鮮の情報を収集、分析するだけでなく、北朝鮮の体制を揺さぶる心理作戦も展開している最前線部署でもある。
心理作戦の一環として攪乱情報を流すこともしばしばある。未確認情報をそのまま発信することもある。最近の例としては、今年2月の李永吉軍参謀長(大将)の処刑情報である。李大将が5月の労働党大会に姿を現し、党政治局員候補に選出されたことで誤報であることが判明した。
こうした「過去」があることから韓国のメディアの中には国情院の発表を額面通り受け取らないところもあるが、この最新情報が正しいかどうかは、朴槿恵大統領の予言通り、金正恩政権が早晩崩壊するかどうかでわかるだろう。