瀬戸大也の勝負強さに隠れる 記録への課題
同世代のライバル、萩野公介(東洋大学)には国内で敗れながら、『世界』と名のつく大会では絶対的な勝負強さを発揮する瀬戸大也(JSS毛呂山)。昨年より本格的に取り組みを始めたバタフライでも、世界チャンピオンのチャド・レクロー(南アフリカ)を上回り、2014年シーズンの世界ランキング1位を獲得した。
とはいえ、瀬戸のメインは個人メドレー。2014年12月のカタール・ドーハ世界短水路選手権の400m個人メドレーを3分56秒33の短水路日本新記録で泳ぎ切ったあと、瀬戸を指導する梅原孝之コーチもそう明言している。
記録から瀬戸の課題が浮き彫りに
目下、瀬戸の大きな課題は記録にある。2013年バルセロナ世界水泳選手権の400m個人メドレーで優勝したとはいえ、日本記録に1秒及ばない4分08秒69。2014年シーズンに至っては、4分10秒を切ることができなかった。
200mバタフライでは1分54秒08まで記録を伸ばしておきながら、メインとする個人メドレーの記録が停滞した昨シーズン。現状を打破すべく、瀬戸はこの冬、背泳ぎの強化に取り組んだ。
理由として考えられるのは、萩野と比較すると分かりやすい。バタフライまでのラップはほぼ同じだが、背泳ぎで身体2つ分ほど先に行かれ、平泳ぎで追いつけず、自由形もその差が変わらずにフィニッシュ、というレース展開が多い。400m個人メドレーにおける、2人のベストラップを比べてみよう。
萩野
100m 56秒32(バタフライ:56秒32)
200m 1分57秒31(背泳ぎ:1分00秒99)
300m 3分08秒84(平泳ぎ:1分11秒53)
400m 4分07秒61(自由形:58秒77) ※現日本記録
瀬戸
100m 56秒62(バタフライ:56秒62)
200m 2分00秒10(背泳ぎ:1分03秒48)
300m 3分09秒58(平泳ぎ:1分09秒48)
400m 4分08秒69(自由形:59秒11)
200mバタフライの強化によって、最初の100mを楽に入れるようになっているとはいえ、背泳ぎで2秒も差をつけられるのは大きい。加えて、ラストの自由形に萩野は絶対的な自信と実力を持っているため、瀬戸が萩野に勝つためには、平泳ぎの時点で前に出ている必要がある。
元々、瀬戸と萩野は得意とする種目が異なる。瀬戸はバタフライと平泳ぎ、萩野は背泳ぎと自由形。しかし、萩野はドーハ世界短水路選手権の100mバタフライで入賞したこともあり、最初の100mで差がつくとは考えにくい。残りの3種目を見ると、どうしても萩野のほうが有利な展開になってしまう。
マイケル・フェルプス(アメリカ)が持つ世界水泳選手権の大会記録である4分06秒22に迫るためには、200mのラップタイムをあと2秒は上げておきたいところ。その上で、ベストラップと同じ記録で平泳ぎ、自由形を泳ぐことが必要だ。こうして記録を並べてみれば、瀬戸にとって背泳ぎの強化が必須であることが明確に分かる。
勝負強さを生かすためにも、記録による自信をつけるシーズンに
瀬戸の魅力は、物怖じしない性格から発揮される勝負強さにある。2012年のロンドン五輪選考会前、インフルエンザによる体調不良から思うような練習ができずに涙をのんだ。
しかしその翌年、はじめて手にしたシニアの世界大会代表というプレッシャーをはね除けて、400m個人メドレーで金メダルを獲得。2014年の夏シーズンは不調だったが200mバタフライでは世界ランキング1位の記録を叩き出し、12月の世界短水路選手権では1年間の鬱憤を晴らすような泳ぎで金メダルを手にした。
『世界』という言葉がつくと、強さを発揮する瀬戸。その勝負強さは何よりも大きな武器である。
ある元日本代表選手との話のなかで、こんな言葉が出てきたことがある。
「たとえ自分が今までの世界記録を破ったとしても、そのレースで相手が0.01でも速ければ負け。記録はもちろん大切だけど、勝負はもっと大事」
その要素を瀬戸はすでに持ち合わせている。とはいえ、記録の速さと勝負強さのどちらかが大事なのではなく、本当の世界チャンピオンになるためには、どちらも必要不可欠な要素である。今シーズン、瀬戸には『記録』で私たちに強さを見せつけてもらうことを期待したい。