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ヴィッセル神戸が初のオフィシャル雑誌を創刊!    ヴィッセルスマイル!

高村美砂フリーランス・スポーツライター

■田代の声が発端に。

昨年、鹿島アントラーズからヴィッセル神戸に移籍したFW田代有三は、常々、疑問に思っていたと言う。

「神戸は決して小さな都市ではないのに、どうしてホームスタジアムは満員にならないんだろう?」

「どうしてこれだけたくさんの商業施設があるのに、ヴィッセルのポスターをあまり見掛けないんだろう?」

「どうして神戸の街におけるヴィッセルの認知度が低いのだろう?」

そんなことを考えているうちに、過去、大学時代に特別指定選手として在籍したチームやプロサッカー選手として最初の所属先となった鹿島アントラーズ、期限付き移籍をしたモンテディオ山形などに思いをめぐらせ、更にある疑問が頭に浮かぶ。

「それなら、クラブをあげて、もっとヴィッセルのことを知ってもらう努力をすればいい。そのためには…ん? 神戸には他のチームにあったようなオフィシャル情報誌がどうしてないんだろう?」

その思いを、今年の鹿児島キャンプが始まる直前に、チーム広報の桑畑美紀氏に伝えたことが、本日、4月28日に創刊されたクラブ初のオフィシャル雑誌『ヴィッセルスマイル』の始まりだ。

「ヴィッセルのことをもっと知ってもらうには、チームとファン、サポーター、街の人々を繋ぐ媒体が必要だと思ったんです。これを通して、神戸の人たちにヴィッセルの情報をたくさん届けたいし、雑誌をきっかけにヴィッセルを応援する人が増えたり、スタジアムに足を運ぶきっかけになったら嬉しい。更に言えば、それが神戸という街全体の盛り上がりに繋がったら最高だな、と。それを桑畑さんに伝えたら、クラブ関係者の方も含めてびっくりするくらいの早さで事が動いていただいて(笑)。そのことに感動しつつ、僕は選手に声を掛けて協力をあおいだら、みんなもすごく乗り気になってくれた。そうしたみんなの熱があるからこそ、きっといい雑誌になると思います。いや、ヴィッセルならではの、いい雑誌にします!(田代)」

■雑誌を通してヴィッセルを好きになって欲しい。

FW田代の言葉にあるように、新雑誌創刊は驚くくらいのスピードで事が運んだ。もちろん、そこには経費的なことも含めた、いろんな懸念事項があったのは事実だが、クラブ関係者にも田代をはじめとする選手の熱が伝わったのだろう。雑誌発行に関わるそれぞれの部署の人たちの尽力もあり、創刊が確定すると、3月6日には言い出しっぺであり、編集長にも名乗りをあげたFW田代を筆頭に、副編集長に就任したMF田中英雄、FW都倉賢が選手を代表して第一回の編集会議に参加。「選手からも積極的にアイデアを出し、選手も全面的に雑誌づくりに関わっていく!」との宣言通り、創刊号の発売に向けての準備がスタートする。そこでは選手たちのオフィシャル雑誌に対する想いも語られた。

「まずはこの雑誌を通してヴィッセルを一人でも多くの人たちに知ってもらいたい。僕らのクラブはまだ、放っておいても周りの人が応援してくれる、スタジアムに来てくれるというようなビッククラブではない。自分たちから働きかけて、知ってもらう努力をすること。それによってヴィッセルも、神戸の街も盛り上がれば嬉しい。(田代)」

「今はまだ、ヴィッセルが神戸の人たちにとって身近な存在になっていない。その距離感を縮めるためにもこの雑誌がいい仲介役になっていけばいいと思う。サッカー選手としてだけではなく、一人間としてもこの雑誌を通していろんな人、場所とのいいふれあいができれたらいいなと思います(田中)」

「この雑誌で、ピッチでは伺い知れない選手たちの素顔をどんどん発信していくことによって、選手個々への興味はもちろん、それを通してヴィッセルへの愛着を抱いてもらえたら嬉しい。僕たち自身もこの雑誌を通して、成長させてもらうつもりでいる。やるからにはありきたりではない、サッカーを全く知らない人が見てもヴィッセルを好きになってしまうような、愛情溢れる雑誌になればいいなと思います(都倉)」。

■雑誌名は一般公募約400通の中から決定。

その会議でのキーワードになったのが、FW都倉の言葉にもあった『選手たちの素顔』の部分だ。普段から、ファンの方たちとの交流は練習場や試合を通して行われているものの、それだけではなかなか選手それぞれのユニークで温かな『人間性』が伝わり切らない。もちろん、プロサッカー選手である彼らの本業はサッカーあり、プレーを通して魅力を伝えて行くということが大前提にあるのは百も承知だが、ヴィッセル神戸に『親近感』を覚えてもらうためには「ただ、試合に来て下さい、では誰も興味を持ってくれない」とFW田代は言う。「だからこそ、選手の素顔や人間性を前面に押し出すことで、選手個々に親しみを覚え、ひいてはそれがチーム、クラブへの愛着に繋がっていけば嬉しい」と。それについては副編集長の二人も同感のようだ。

「座禅や茶道といった文化的なことを選手とファンが一緒に経験するというのもありかも。そこに一緒に訪れることによって、単なる交流に留まらず、みんなが同じ思いを共有できるのはいい。(都倉)」

「大学などのサークル的に○○部みたいなのを作って、選手とファンがみんなで1つのことに取り組むというのも、ヴィッセルファミリーとして気持ちを揃えていくためにはいいのかも(田中)」

雑誌名をファンに公募し、その中から選手が選ぶ、という方法をとったのも、田中が言う思いの『共有』の第一歩だ。実際、『ヴィッセルスマイル』は、約400通の応募の中から選手たちが3つに絞り、最終的にクラブと協議して決定した。

「まずは『ヴィッセル』の名前が入っていることを前提に、聞き取りやすく、覚えやすい名前…あとは爽やかさを重視しました(笑)。Vスマ(ブイスマ)という風に短縮して呼べるのも耳に残りやすいという考えもありました(田代)」

そうした選手たちの意見も取り入れながら作った創刊号の中味は…彼らの思いがどんな風に雑誌に落とし込まれたのかは、ホームゲーム時のスタジアム売店やコンビニ等(*注1)で手に取って確認してもらいたいところだが、結論から言うと、選手たちの声が存分に反映された、かつ「ヴィッセル神戸を知ってもらいたい」という思いがぎっしり詰まった充実の一冊が出来上がった。これには、田代編集長も「納得の仕上がりです。これからもっともっと充実させていきたい」と笑顔。「あとは、自分たちがピッチでも結果を残すことで、この雑誌を後押ししていきたい」と言葉を続けた。

そのピッチでは、現時点でJ2リーグ10試合を戦って、8勝1分1敗の首位。雑誌創刊の勢いと同じく、『1年でのJ1昇格』を合言葉に、結果に拘った熱い戦いが繰り広げられている。

(*注1)発売予定場所/ホームゲーム時のスタジアム売店、神戸市内のセブンイレブン(全125店舗/5月1日〜販売)、ヴィッセル神戸オフィシャルショップ楽天市場店、等で発売予定。詳しくは、ヴィッセル神戸のオフィシャルHPを参照。尚、神戸市内を走るMKタクシー内には車内閲覧用に常時、同雑誌が車載されることも決定している。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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