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『トイ・ストーリー』で描かれたウッディ&バズの「ロケット花火飛行」は実現可能? 計算結果に感動する!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
柳田理科雄『ピクサー空想科学読本』(講談社 青い鳥文庫)

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

7月26日の「金曜ロードショー」は、1996年にピクサー・アニメーション・スタジオが製作(日本公開は翌年)した『トイ・ストーリー』だ。

この映画、筆者も何度も見たけど、見るたびにとてもオモシロイ!

おもちゃにも心があり、自由に動くことができる。

でも、人間には決して知られてはならない。

そんな魅惑の設定が活かされたストーリーで、特にクライマックスの「ウッディとバズがロケット花火で飛ぶ」というシーンには、ハラハラどきどきしてしまう。

あのシーンについて、「実際にできるのだろうか?」と気になる人も多いだろう。

人間はムリでも、おもちゃなら実現可能? それとも……?

この問題については、拙著『ピクサー空想科学読本』(講談社 青い鳥文庫)のなかで計算してみたことがあるので、ここで紹介させてもらいたい。

ただでさえ面白い『トイ・ストーリー』が、ますます楽しく見られるようになると思います。

◆なぜロケット花火で飛んだのか?

そもそも、ウッディとバズがロケット花火で飛ぶことになってしまうのか?

主人公のウッディは古いカウボーイ人形で、アンディのおもちゃたちのリーダー。

だが、その年のアンディの誕生日プレゼントは、宇宙ヒーローのバズ・ライトイヤーだった。

最新式のおもちゃの登場に、ウッディはアンディの気持ちがバズに移るのではないかと心配で仕方がない。

バズが自分を本当の宇宙ヒーローと信じて「無限の彼方へ、さあ行くぞ」と繰り返すのも疎ましく、彼を窓から落とすという事故を起こしてしまう。

これで2人の仲は、決定的に悪くなった。

その後も繰り返し反発し合うウッディとバズ……。

が、あるとき、となりの家の少年シドに、2人そろって連れ去られてしまう。

シドは「おもちゃ殺し」と呼ばれる残酷な子どもで、バズにロケット花火をくくりつけて、爆発させようとした。

ウッディはシドのおもちゃたちの協力を得て、バズの救出に成功。

このできごとを経て、ギクシャクしていた2人が、ようやく握手を交わす。

だがその頃、アンディの家では、引っ越しの作業が進んでいた。

アンディたちが乗った乗用車と、他のおもちゃたちを乗せたトラックが出発し、ウッディとバズは置いていかれてしまった!

2人はあきらめず、ラジコンカーのRCに乗って、乗用車とトラックを追いかける。

本物の車を次々に抜いて、あともう少し……というところで、なんとバッテリー切れ。

万事休すかと思われたが、バズが言う。

「ウッディ、ロケットがある!」

そう、シドがバズを爆発させようとして体にくくりつけていたロケット花火が、そのままになっていたのだ。

こうして、2人はロケット花火で飛ぶことになる……!

◆1分18秒の空の旅

2人が取った方法について、まずはアニメの画面を詳細に観察してみよう。

ロケット花火が点火されると、RCはものすごいスピードで疾走し始める。

本物の車たちをグングン追い抜き、そのあまりのスピードに、ウッディは目も開けていられない。

もうすぐトラックに追いつくという頃、RCの車体が浮き始め、バズはRCをトラックの荷台に投げ込んだ。

画面で計測すると、点火からここまで29秒だ。

バズは、ウッディを抱えたまま、今度は垂直に上昇する。

でも背負っているのはロケット花火だから、もうすぐ爆発してしまう。

そこでバズは、背中から翼を出して、ロケットをくくりつけていたテープを切断、ロケットを分離した。

ロケットだけが上昇していき、上空で爆発!

ここまで計42秒。

そしてウッディを抱えたバズは、背中の翼で飛行を続ける。

ゆっくりと降下していって、トラックを追い越す。

そして、アンディが乗っている乗用車のなかに、サンルーフから落ちた。

こうして2人は、見事に追いついたのだった。

ここまで、計1分18秒であった。

この「ロケット花火を使った追走」は、科学的にどうなのか?

話をシンプルにするため、ここでは路面との摩擦や空気抵抗は考えないことにするが、いずれにしてもオドロキ満載だ。

まずすごいのは、点火からわずか4秒で、他の車の1.5倍ほどのスピードに達したこと。

他の車もかなり飛ばしていたから、それらの速度が時速60kmだったとすると、4秒後の速度は時速90kmということになる。

ウッディの身長を40cm、バズを30cmと仮定し、体重はどちらも250gだと考えよう。

また、RCとロケット花火を、どっちも500gと仮定する。

するとこのロケットは「合計1.5kgの物体を、4秒で時速90kmに加速した」ことになる。

必要な推進力は0.96kgだ。

驚異的である。

このロケットの火薬が「黒色火薬」だったとしよう(実際のロケット花火にも使われている)。

これで0.96kgの推進力が出ているとなると、火薬を1秒に4.7gを燃焼させていることになる。

つまり、火薬を含めたロケット全体の重量が1秒ごとに4.7gずつ軽くなっていき、その結果スピードも高度もどんどん上がっていく。

ロケット花火は、点火から42秒間噴射して爆発した。

それだけの火薬が積まれているロケットなら、単独で打ち上げれば、爆発の直前に高度9.7kmに達し、そのときの速度は時速2100km=マッハ1.7!

このロケット花火には「この製品は、たいへん危険ですので、お子さまの手に触れないようにしてください」という注意書きがあったが、本当にたいへん危険な製品だったのだ!

◆バズは飛べるのだろうか?

では、劇中のウッディとバズはいったいどんな高さまで飛んだのか?

前述のとおり、上昇を始めたとき、ロケットはすでに29秒間噴射していた。

これによって136gの火薬が燃焼済みだから、ロケットとウッディとバズを合わせた重さは864gになっていたはずだ。

それが上昇を開始してから、爆発するまで13秒間。

ロケットは0.96kgの推進力でそれだけの時間、上昇を続けたわけである。

注意したいのは、上昇を始める前、2人はすでに時速90kmに達していたこと。

それだけに、上昇の勢いがすごい。

たった1秒で高度26mに達した計算になる。2秒後は高度52m、3秒後は80m。

アニメの画面でも、確かにそんな感じだ。

さらに5秒後は139m、10秒後は296m、そして13秒後は399m!

なんと東京タワーより高く上がったことになる……!

その後、ロケットを分離したバズは、翼による飛行に移る。

「飛んでるぜ」と大はしゃぎするウッディに、バズは「飛んでいるんじゃない。落ちているだけだ、カッコつけてな」と言っていたが、かなり自由に飛んでいたから、それは謙遜というものだろう。

しかし、バズの翼は小さい。

実際のところ、あれで2人の体重を支えて飛べるのだろうか?

翼が重さを支える力(揚力)は、「翼の面積」と「速度×速度」に比例する。

バズの身長を30cmとして画面の描写などで測ると、翼の幅は36cm、前後の幅はつけ根の広い部分が7.1cm、両端のせまい部分が6cm。

この翼なら、時速43kmを出せば、2人の合計体重500gを支えて飛べるはずだ。

バズがウッディを抱えて高空から落ちるときの速度は、時速104kmにもなるから、おおっ、飛べる、2人は飛べるということだ!

つまり、2人の作戦は科学的にも大成功であった。

おもちゃの世界を描いたファンタジーとはいえ、あの友情の飛行シーンが実現可能と思うと、やっぱり嬉しくなってくる。

皆さんもどうかニコニコしながら、『トイ・ストーリー』の世界をたっぷり味わってください。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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