米石油リグ稼働数は10週連続で急減中、マイナス価格のショックが継続中
原油価格の急落は中東産油国やロシア経済に大きなダメージをもたらしたが、それは国内にシェールオイル産業を抱えている米国も例外ではない。今年の原油価格急落に対して最も衝撃を受けた国の一つが米国であり、サウジアラビアとロシアとの対立で石油輸出国機構(OPEC)プラスの協調減産体制が崩壊した際に、仲介役を買って出たのがトランプ米大統領だったのは偶然ではない。
トランプ大統領は、僅か数か月前までは原油価格(ガソリン価格)が高過ぎるとしてOPECやロシアの生産調整に対する消極姿勢を批判していた。このため、当初は原油価格の急落を静観する姿勢を見せていたが、国内シェール産業で経営破たんの動きが広がり始めると、一転して経済制裁カード、サウジアラビアに対しては軍事協力の縮小カードもちらつかせ、かなり強引に政策対応を迫った。
それでもNY原油先物価格が1バレル=50ドル台をコアとした取引から、4月に一時マイナス40.32ドルまで急落したショックは大きく、米シェールオイル産業では大規模な生産調整の動きが報告されている。
最も分かり易いデータの一つが、石油リグ(石油プラットフォーム)の稼働数が急激に落ち込んでいることだ。米エネルギーサービス会社ベーカー・ヒューズが毎週金曜日に発表している石油リグ稼働数は、3月13日の683基をピークに、直近の5月22日時点では237基まで、10週連続で減少を続けている。
過去10週で446基(65.3%)の減少であり、新型コロナウイルスの影響で石油リグは一気に3分の2が稼働を停止した計算になる。前年同期の797基と比較すると560基(70.3%)の減少になっている。これは2009年7月10日以来の低水準である。
2014年に原油価格が急落した当時は、原油価格の急落とリグ稼働数の減少との間に、概ね3か月程度のタイムラグが認められていた。しかし、今回は主要石油会社が瞬時に石油リグの稼働を抑制する動きを見せており、新型コロナウイルスの需要ショック、そして史上初のマイナス原油価格に対する危機感の強さが窺える状況になっている。
石油メジャー各社は、今年の設備投資計画を概ね3割程度縮小する見通しだが、経営体力の乏しい中小の採掘・生産会社の場合だと5割程度縮小するとの見通しもある。足元では、NY原油先物価格は30ドル台を回復する値動きになっているが、石油リグ稼働数は過去6週連続で前週比1割以上の減少が続いており、未だ底が見えてこない状況にある。
米エネルギー情報(EIA)によると、米産油量は3月13日終了週の日量1,310万バレルが、直近の5月15日終了週だと1,150万バレルまで減少している。2カ月で160万バレルの減産は、中規模産油国の産油量に匹敵する規模だが、10~12月期には1,093万バレルまで更に減産が進むというのがEIAの最新予想になっている。原油需給・価格の安定化を実現するためには、OPECプラスの政策調整のみでは不十分であり、こうした意図せざる減産対応が求められている。