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WWN設立1周年記念イベントで見た「女性経営者のロールモデル」

小川たまかライター

12月3日、霞ヶ関イイノホール&カンファレンスセンターで、「Winning Women Network 設立1周年記念イベント」が行われました。「Winning Women Network」とは、新日本有限責任監査法人(EY Japan)が起ち上げた女性起業家を支援するためのプロジェクト。1周年に迎えるにあたってのこのイベントでは、6人の女性経営者がビジネスプランを発表したほか、5名の女性ゲストによるパネルディスカッションが行われました。

女性経営者たちによる発表は、それぞれとても興味深いものでした。少し長くなりますが、それぞれの方の経歴などをまとめました。

maojian works代表取締役の毛見純子氏は、2008年にコンサルティング業務を行う同社を立ち上げ。その後2011年に社内で「kay me(ケイミー)」事業を開始します。この事業は、働く女性のために動きやすさや華やかさのある「仕事服」を開発・製造・販売するもの。毛見さん自身「自分の着たいものがなかなか見つからない」という思いを持っており、事業を始めるにあたって試しに有楽町で426アイテムを見て回ったものの、やはり希望にぴったりと合うものはひとつも見つからなかったのだそう。このことから、「洗える(3時間で乾く/シワができない)」「made in Tokyo」「ひとつひとつのシーンに見合うワンピ」などにこだわって製品を開発。忙しい女性の元に商品を届ける試着便サービスなどで差別化を図り、2011年から毎年400%弱の成長を遂げているといいます。

つ・い・つ・い代表取締役、遠藤貴子氏は2008年に28歳で起業。もともとあられが好きで、あられ工場が売上げに悩んでいることを知り、「工場を助けたい」と思ったことが起業のきっかけ。10代のころから運営していたウェブショップのノウハウを起こし、ウェブであられを売り始めて1日に10万円以上の売上げに成功。その後、六本木でのリアル店舗をスタート、スカイツリーやヒカリエでも期間限定店舗を出店。今後は、シャンパンなどと合わせて食べるシーンを想定してアルコールに合う製品を開発し、世界進出を目指すといいます。1番人気は「リッチカマンベール」味のあられ。ゲストからは「デジタル時代の中、伝統文化に目を向けたのが素晴らしい」「日持ちのするあられは輸出しやすいのでは」といった講評が聞かれました。

1989年創業のサイファで取締役を務めるのは永島かおり氏。同社は女性向けクーポン情報誌の「Coupon Land」をメイン事業に、ウェディング、体験ギフト事業も展開。1万7000人の会員と定期的に座談会の場を設けて女性が「今ほしいもの」のヒアリングを行っているといい、ゲストからの「世界で強い日本の商品は?」という問いに、「日本製のつけまつげやカラーコンタクトは海外の女性が日本を旅行したときに必ずお土産で買って行く」と答えていたのが印象的でした。

異色だったのは携帯電話などの第三者検証を行うヴェスの久田真紀子氏。最終学歴は足立区立第十六区中学校、「恐らくこの会場の中で一番学歴がないと思います」ときっぱり。14歳で家を出たことや、アメリカで働く姉と再会したことを転機に20代半ばでIT起業に転職といった自身のストーリーで会場の興味を引きつつ、ざっくばらんな語り口で笑いを誘っていました。「人のためになることをする」「難しく考えない経営」「第三者検証として独自のメソッドを確立する」といった理念・ビジョンを元に11年間赤字なしの経営を続けているそう。

Rouge Asiaの前田知映氏。大手ブランドでも苦戦するアジアのコスメ市場で、日本の中小ブランドが勝ち残るためのサポートを行いたいと起業。品質は良くても価格競争では勝てない日本のブランドに勝機を見いだすべく、インフルエンサーとなる女性たちを使い、情報発信していきたいといいます。

2009年にHASUNAを起業した白木夏子氏が手がけるのはエシカルジュエリーの企画・製造・販売。エシカルジュエリーとは倫理的に自然環境、人に配慮して製造されるジュエリーのこと。白木氏は鉱山で働かされる子どもや、その親たちの暗い表情を見て、そこでできあがるジュエリーの美しさと働く人の環境のギャップに衝撃を受けたことが、エシカルジュエリーに携わるきっかけだったと語りました。日本で売られている宝石でも原産国や鉱山がどこだか分かるものは少なく、4年間かけて少しずつ鉱山と直接やり取りする糸口を見つけていったのだそう。自らデザインも手がけています。

ゲストからの講評では、「それぞれタイプのまったく違った女性経営者で、どれも興味深かった」という感想がありました。いろいろなタイプの女性経営者がいて当たり前ですが、「女性経営者」と聞くとつい型にはまったキャリアウーマン像を想像してしまいがちです。6人のまったく違うタイプの経営者が気負いなくそれぞれのビジネスプランを語る姿は、参加した女性たちに、「自分の信念に基づいて進むことの楽しさ」を見せたように思います。

イベントの冒頭では、「上場企業における女性社長は、3552社中29社(0.82%)」「女性役員割合の国際比較では38位(日本より下位はバーレーン・アラブ首長国連邦・カタール・サウジアラビア)」といった、「日本の女性の働き方」が論じられる際によく挙げられる調査結果が用いられ、改めて日本で女性の進出が遅れている実態が指摘されました。「女性管理職比率が低いのは、男が悪いか、女が悪いか」(PRESIDENT/2013年2月4日・荻野進介氏)では、女性の管理職が少ない理由について女性にとってのロールモデルの不在(現在活躍している一部の管理職女性は男性型女性リーダーであること)が指摘されていましたが、今回のイベントでも改めてロールモデルとなり得る存在の女性たちが語る必要性が論じられました。

自分とまったく同じ境遇・性格・目的の人はいないという意味から、ロールモデルの活躍がどれほど参考になるのか疑問視する声もあります。確かに登壇した6人の方たちは、ロールモデルがいようがいまいが、自分の信念を貫く強さを持った女性たちに見えました。ただ、個人的な印象としては、6人の方の発表はどれも非常に引き込まれるものであり、彼女たちから「女性だから起業した」「女性として〜〜を訴えていきたい」といったような肩肘はったものが感じられず、その発表を通して、起業は彼女たちにとってごく自然な流れのことだったと感じさせられたことに非常に感動を覚えました。数は少ないかもしれませんが、日本でもいろいろな環境で育った女性がそれぞれのきっかけで起業を志し、当たり前のようにそれを成し遂げた事実こそが、多くの女性の背中を少しだけでも押すことになるのではないかと感じています。

ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

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これまで、性犯罪の無罪判決、伊藤詩織さんの民事裁判、その他の性暴力事件、ジェンダー問題での炎上案件などを取材してきました。性暴力の被害者視点での問題提起や、最新の裁判傍聴情報など、無料公開では発信しづらい内容も更新していきます。

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