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「失うものはない」松村雄基が語る今の思い

中西正男芸能記者
来年芸能活動40年を迎える松村雄基

 1980年代にドラマ「不良少女とよばれて」「スクール☆ウォーズ」「ポニーテールはふり向かない」などで強烈なインパクトを残した俳優・松村雄基さん(55)。現在は大阪・松竹座で上演中の舞台「笑う門には福来たる~女興行師 吉本せい~」(26日まで)に出演しています。来年でデビューから40年。「失うものは何もない。前に進むのみです」と今の思いを明かしました。

来年でデビューから40年

 1980年にデビューしたので、来年で40年になります。芸歴の長さで言うと、上の方になる現場も増えてきたんですけど、今回の作品では(主要キャストのうち)若手の部類に入るのが喜多村緑郎さん、西川忠志さん、僕の50代の3人(笑)。周りは大先輩ばかりで、重厚な皆様のパワーをひしひしと感じながら、毎日舞台をしています。

 特に、主演の藤山直美さんはご病気のこと(初期の乳がんから復帰)を微塵も感じさせないパワー。こちらもパワーをいただいていますし「本当に良かったなぁ」という思いがこみ上げてくる毎日です。先輩方がパワフルにやってらっしゃるので、僕なんかはまだまだもっと頑張らないとと思っています。

“大映ドラマ”での10年

 今こうやってお仕事を続けていられる契機となったのは、やっぱり、大映テレビのドラマ作品に出してもらったことだと思います。周りの方からもよく言われますし、実際、自分でもそう感じています。

 「不良少女とよばれて」とか「スクール☆ウォーズ」でツッパリというか、アウトロー的な役柄を20歳から約10年させてもらいました。今から思うと「10年も、あれだけ濃いキャラクターをやらせてもらっていたのか」と思いますけど(笑)、当時は、とにかく毎日が必死でした。セリフを覚えて、現場に行って、しこたま怒られて、の繰り返しでした。

 ただ、あそこまで情熱を注ぐものに出会えたのはとても幸せなことですし、作品は変わっても出ているメンバーは重なっていたりもしたので、親戚がどんどん増えていったような感じにもなりました。もちろんお仕事なんですけど、僕にとっての青春でもありましたね。

加賀まりことの出会い

 これまで、何人もの先輩方からいろいろな教えをいただいたんですけど、真っ先に思い浮かぶのが、19歳の頃に出演した「雨の慕情」という昼ドラで共演させていただいた加賀まりこさんからの言葉ですね。加賀さんが僕の母親役。まだ「スクール☆ウォーズ」もやる前で、キャリアも2~3年くらいで何も分からない頃でした。

 物語としては加賀さんと僕は親子だけど、若い時に別れているんです。というのも、母親は人を殺してしまって刑務所に入っている。母親はいないものだと思って生活していた息子と出所してきた母親が、ある日突然、互いのことは知らない状態で、バーンとぶつかってしまう。そこから物語が始まるんです。

 実際、収録もそのシーンから始まりました。冒頭、加賀さんと僕がぶつかる。倒れた加賀さんに駆け寄って「大丈夫ですか?」と起こすシーンでした。自分としては思い通りにやったつもりだったんですけど、僕が駆け寄って加賀さんの体を抱えようとすると「痛い!そんなに強く揺すらないで!」と加賀さんがお芝居ではなく、素の言葉でおっしゃったんです。

 当然、そこで収録はストップしますし、やり直しになる。またもう一回やるんですけど、そこでも同じようにこちらの力が入りすぎて、やり直し。それが何回も続いて、途中からは、もう何をやっても怒られるんじゃないかという気持ちになってきて、どんどん何もできなくなる。そんな連鎖になっていって、初日としては最悪の形になってしまいました。

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 ここからが若気の至りと言うか、若さって怖いなとも思うんですけど(笑)、そうやって言われたのが腑に落ちないところがあって、翌日、加賀さんの控室に言いに行ったんです。

 「昨日のことなんですけど、必死に人を助け起こそうとしたら、力も入っちゃうと思うんです。それはダメなんでしょうか」

 よく19歳のガキが言ったなぁとは思いますけど、19歳だったから言ったんでしょうね。それに対して、加賀さんがおっしゃったんです。

 「あなたの言うことは分かる。ただ、その“力が入ってしまう”ということを芝居で表すのが役者というものよ」

 衝撃を受けました。返す言葉がないというか。そこから3カ月、なんとかして頑張ろうという思いはあるものの、それができなくて、加賀さんにいろいろと言っていただく日が続きました。

「いい役者になんなさいよ」

 そして、迎えた最終回の収録。最後に互いに親子だということが分かり、それぞれの思いを吐露する長いシーンがありました。母がいなかった寂しさ、怒り、愛情がほしかったという思い…。いろいろな感情が渦巻くシーンで、後半は僕もボロボロ泣いて、収録は終わりました。

 監督さんやディレクターさんもほめてくださったんですけど、ただ、あまりにも本気で泣きすぎたので、顔がずっと下を向いていて、ほとんど映っていないと。これではさすがにつらい部分もあるので、もう一回撮りなおそうとなったんです。

 泣きすぎて、目も腫れているような状態でしたけど、加賀さんにもお付き合いいただいて、二回目、何とか無事に撮り終えることができた。撮り終えた瞬間、加賀さんが監督の方に行って「一回目と二回目のいいところを、何とかつないであげてくれない?」と加賀さんが言ってくださったそうなんです。

 その時、僕は言ってくださっているのを知らなかったんですけど、後から監督から聞いて、それこそ、心が震えました。僕の芝居を少しでも生かすために、加賀さんがわざわざ直談判をしにいってくださった。それだけでもたまらないですけど、監督のところから戻ってきた加賀さんが「あんた、最後に初めていい芝居したわね。いい役者になんなさいよ」と言ってくださったんです。もう35年以上、ずっとその言葉が心に残っています。

 今から思うと、加賀さんが毎日のように僕を怒る必要なんて何もないんです。「分かってないな」と思っても、別にそこを注意してあげる義理もないし、義務もない。もし何かやるにしてもディレクターさんに言わせる形でもいいのに、その場で、自ら言ってくださった。この有難みは、歳を追うごとに強く感じるようになっていますね。そんなこと、普通はできません。

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失うものはない

 何とか、ここまでやってきましたけど、それは当然ながら、支えてくださるファンの皆さんがあってのこと。最近で言うと、SNSも少しずつやるようになりました。機械に疎いもので、なかなか更新ができなかったりして申し訳ないんですけど、それでもやろうと思ったのは、一番はファンの皆さんへの恩返しです。

 最近はテレビへの露出が少なくて、舞台の仕事が多くなっているのもあって、皆さんに近況やなんかをお伝えする方法として、少しでも役立ったらなと。

 動画アプリの「TikTok」なんかも初めてやったんですけど、なかなか難しいですし、ちょっとした動きを覚えるのにも1時間くらいかかるんですけど(笑)、それでも、少しでも楽しんでもらえたらなと思いまして。

 ここまで来て思うのは、ま、何をやっても、失うものは何もないんだなと。進むしかないんだなと。これはウチの社長がいつも言っていることでもあるんですけど、その思いがこのところ、より大きくなってきました。

 少し前から、新たにシャンソンも始めまして。「やらなくてもいいかな」「どちらかというと、やりたくないな」と思うことでもやってみようと。失うものはないんだから。40年を前に、今はそんなことを思うようになりました。

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(撮影・中西正男)

■松村雄基(まつむら・ゆうき)

1963年11月7日生まれ。東京都出身。本名・松村憲幸。オールスターズ・カンパニー所属。 高校在学中にテレビ朝日系ドラマ「生徒諸君!」でデビュー。84年にTBS系「少女が大人になる時 その細き道」で大映テレビドラマに初めてレギュラー出演して以来、TBS系「不良少女とよばれて」「スクール☆ウォーズ」「ポニーテールはふり向かない」などに立て続けに出演し、強烈なインパクトを残す。書家としての顔も持ち、第17回東京書作展で内閣総理大臣賞受賞。 大阪・松竹座で上演中の舞台「笑う門には福来たる~女興行師 吉本せい~」(主演・藤山直美、26日まで、7月には東京・新橋演舞場で上演)に出演している。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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