PGAツアー選手18名が癌と闘う熟練ゴルフ記者を激励する動画を作成。呼び覚まされた「PGAツアー魂」
ローリー・マキロイを筆頭に、PGAツアー選手たち18名が次々に動画に登場。誰もが「スティーブ!」と呼びかけていた。「スティーブ」とは、61歳の米国人ゴルフ記者、スティーブ・ディメグリオのことだ。
彼がPGAツアーの試合会場にやってくるようになったのは2007年ごろからだった。最初はUSAトゥデイ紙、近年はゴルフウィーク誌の記者として、ディメグリオは、いつも精力的に記事を書いていた。
いや、その前に、彼はいつも試合会場の練習場や練習グリーン、クラブハウス周辺や駐車場を歩き回り、綿密な取材を重ねていた。「取材」と言っても、傍から見れば「談笑しているだけ」「ふざけ合っているだけ」のようでもあった。
だが、それは彼なりの取材の流儀で、ディメグリオはリッチなヒゲの合間から小さな口を覗かせながら、よくしゃべり、よく笑い、そして選手の心の声に上手に耳を傾けていた。
彼が書く記事は、わかりやすい単語やフレーズが巧みに組み合わされており、読みやすさとリズミカルなトーンが読者を引きつけていた。記事の締め括りでクスッと笑わされることが多く、独特のユーモアとウィットにディメグリオらしさが反映されていた。
彼はいつも猛スピードでパソコンのキーボードを叩いていたが、周囲の記者が何かに首を傾げると、必ず手を止めて、一緒に答えを探した。
私も何度も米国の現場で彼に助けられ、一緒に正解に辿り着くと、「ほら、やっぱりそうだろ?」と一緒に喜んでくれた。タイガー・ウッズが優勝した2019年ZOZOチャンピオンシップの際は、私は来日したディメグリオと習志野で再会した。
そんな彼が直腸癌のステージ4と診断され、闘病生活に突入したのは、今年7月の全英オープン取材を終えた後だった。
それでも彼はジャーナリスト魂を失うことなく、日々、発信することを続けている。
「これから戦いに入ります」
「これから3度目の48時間連続の化学療法です」
「味覚がまったく無くなっている」
「90分以上、連続して眠ることができないぞ」
「体重が125ポンド(約56キロ)を切り、高校時代の体重を下回っちゃった」
「いつも大きめだった僕のゴルフシャツが、今では、あまりにも大きすぎるゴルフシャツになっている」
彼がツイッターで何かを呟くたびに、ゴルフ記者仲間たちは「気持ちを強く持て」「頑張れ」「きっと乗り越えられる」と激励。「スティーブ、祈っているよ。フロム・ジャパン」。私自身も、そう書き込んだ。
PGAツアーの新シーズンが開幕した今、今度は選手たちがディメグリオを激励する5分30秒のビデオ・メッセージを自ら作成。
マキロイは「スティーブ、アナタと一緒に僕らも戦っているからね。僕らはみんなアナタのことを思っている。それを、どうか忘れないでね」と強く優しく呼びかけていた。
ジャスティン・トーマスはディメグリオから何度も受けた過去の取材を思い出しながら、「スティーブ、僕の家族のことまで気遣ってくれて、ありがとう。そんなことしなくてもいいのに、アナタはそうしてくれたよね」と感謝の言葉を投げかけた。
今季開幕戦を制したばかりのマックス・ホーマ、今年のマスターズ覇者スコッティ・シェフラー、そして、ジョーダン・スピース、トニー・フィナウ、ジョン・ラーム、ビクトル・ホブラン、アダム・スコット。18名の選手が次々に「スティーブ!」と呼びかけていた。
ビリー・ホーシェルは「スティーブ、僕らはみんな家族だ。PGAツアー・ファミリーだ。ビッグ・ブラザー(大兄)、スティーブ!必ずここへ戻ってきてほしい。みんなで待っているからね」
PGAツアーとリブゴルフの対立ばかりが取り沙汰される昨今、さまざまな喧騒の中で忘れかけていたものを、みんなが取り戻し、一致団結して動いた。ディメグリオの人柄と彼のジャーナリストとしての真摯な生きざまが、時代の流れに翻弄され気味だった選手たちのPGAツアー魂を呼び覚ましたようにも感じられる。
病床でこの動画を見た「大兄」は、きっと今ごろ、ツイッターで発信する粋なフレーズを、あれこれ思案しているのではないだろうか。