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祈りとコロナ

南龍太記者
「2020年イースター 新型コロナ感染拡大の中祝福」より(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルス感染のピークを迎えつつある正念場のニューヨーク、今も医療現場では人手不足、資機材不足により厳しい状況が続いている。非常事態宣言から1カ月余りが過ぎた。

 この間、人が集まる、密集することが段階的に禁じられ、今では他者と2メートルほどのソーシャル・ディスタンス(社会的距離)を保つために近所のスーパーに入るのも数時間待ちという日常。面会や集会がことごとく制限され、影響は多方面、人々の信仰にも及ぶ。

 多種多様な国籍、宗教的バックグラウンドを持つ人々が行き交う街とあって、宗教施設もさまざまあるが、感染が広まって以降、押しなべて活動の縮小を余儀なくされている。キリスト教のミサは神父ら一部の聖職者のみで執り行い、がらんとした静謐なる聖堂には讃美歌が響き渡るも、聴衆はほぼ皆無。

 各教会はこうしたミサや日常の祭儀の様子をオンラインで伝え始めている。キリスト教に限らない。ユダヤ教、イスラム教、ヒンドゥー教、ジャイナ教、そして仏教、みな同様にオンライン化を進め、ネットを通じてスマートフォン・パソコンの先で待つ信者らに結束や堅忍を呼び掛ける。

 種々の宗教、教派や宗派を問わず、共通して捧げる祈りは、

コロナウイルスの犠牲者への哀悼

 感染者の治癒

  医療関係者やそれを支える人々への賛辞

忌まわしいパンデミックの一日も早い終息

だ。各宗教の取り組みを紹介する。

(※ 本記事は特定の宗教・宗派を推奨するものではありません)

希望を持たなければ

 4月12日日曜は、キリスト教徒にとって最も重要な祝祭日の1つ、「イースター」だった。磔刑に処されたイエス・キリストが死から3日目に復活したことを祝う復活祭だ。例年、各教会で特別な礼拝をするほか、卵の殻を装飾して「イースターエッグ」を作ったり、チョコやキャンディーの入ったおもちゃの卵を子どもたちが拾ったりして楽しむ。

卵を拾う「エッグハント」の様子(2019年4月)
卵を拾う「エッグハント」の様子(2019年4月)

 しかし今年はコロナウイルスの感染拡大を受け、一連の行事は中止されるか、別のやり方で祝われた。

 12日、カトリックの総本山・バチカンにあるサン・ピエトロ大聖堂では、イースターのミサが少人数で行われた。例年多くの人が詰め掛けるバチカン広場も閉鎖されたままだ。

クリスマスのバチカン広場(2010年12月)
クリスマスのバチカン広場(2010年12月)

 ローマ教皇は「世界が連帯する時、団結の時だ」と呼び掛ける。少数の関係者しかいない大聖堂から、世界に10億人以上いる目の前にいない信者に向かって――。その様子は中継され、アーカイブでいつでも見られる。

 教皇はその前日も人が数えるほどのみの大聖堂で、世界中の信者に語り掛けた。「私たちは希望を持つことができる。持たなければいけない」(We can and must hope)

(12日、イースターの日に語り掛けるローマ教皇)

オンライン礼拝が主流に

 ニューヨークでは3月1日にコロナウイルスの検査で初めて陽性反応が確認されて以降、感染は急拡大した。7日に州が、12日には市がそれぞれ非常事態宣言を出し、13日からは州内で500人以上の集会が禁止され、劇場や映画館も順次休館となるなど、規制が段階的に強まっていった。

 こうした措置を受け、市内にある教会でも定例の儀式や特別な祭事が中止、規模縮小を強いられている。

 マンハッタン南方のトリニティ教会は、17世紀末に建設された市内最古の教会の1つ。毎週日曜には数百人、千人規模のミサが行われていた。

トリニティ教会(2019年9月)
トリニティ教会(2019年9月)

 感染拡大に伴い、信者が参加できなくなった祭儀は多いが、礼拝や説教などの様子を可能な限りオンラインで伝え続けている。日々のイベントを事細かにネットで告知し、オンラインでの参加を促す。

 12日のイースターも讃美歌を歌ったり、司祭が話したりする1時間余りの動画が公開された。

トリニティ教会の行事日程(ウェブサイトより)
トリニティ教会の行事日程(ウェブサイトより)

 

 トリニティ教会に限らず、セント・パトリック大聖堂やセント・ジョン・ザ・ディバイン大聖堂など、市を代表する教会はみなオンラインによるミサなど教会行事の公開に乗り出している。厳かながらも優しい祈り、清澄なる聖歌が広やかな堂内に響き渡る――。動画を見た信者からは「主よ、私たちの祈りを聞いてください」といった声がコメント欄に多数寄せられる。

12日、イースターのセント・パトリック大聖堂の様子。ユーチューブより
12日、イースターのセント・パトリック大聖堂の様子。ユーチューブより
マンハッタン韓国長老派教会のフェイスブックより
マンハッタン韓国長老派教会のフェイスブックより

 マンハッタンにある韓国系の長老派教会も、説教をオンラインに切り替えている。12日にはイースターエッグの写真をフェイスブックに投稿していた。

 イースターを前に、信者の写真を一枚一枚、無人の椅子に並べている教会もあった。

 フェイスブックやツイッターで告知したり、ユーチューブで映像を流したり、やり方は教会ごとに流々だが、願いは同じ――。「コロナウイルスの一日も早い終息を」

ユダヤ教徒が2番目に多いNY

 米国に住む成人の信仰について尋ねたピュー・リサーチ・センターの調査によると、ニューヨーク市ではキリスト教徒が最も多く全体の59%、うち半数強はカトリックで、残りは主にプロテスタントだった。キリスト教徒に次いで多いのはユダヤ教徒で8%、イスラム教徒とヒンドゥー教徒がそれぞれ3%、仏教徒は1%という結果だった。「無宗教」も24%に上った。

 全米ではキリスト教徒が71%だった一方、ユダヤ教徒は2%、イスラム教徒とヒンドゥー教徒は1%未満などとなっており、ニューヨーク市はキリスト教徒以外の信者の割合が高い傾向にある。

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信仰されている宗教の割合、全米(上)とニューヨーク市(Pew Research Center,
信仰されている宗教の割合、全米(上)とニューヨーク市(Pew Research Center, "Religious Landscape Study" 2014)

 市内にあるキリスト教以外の教会、会堂、寺院も同様、オンライン化の取り組みを進める。スマホやモバイル端末を駆使し、結束を呼び掛けている。(続く)

(特に注記のない写真は筆者撮影)

記者

執筆テーマはAIやBMIのICT、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、今年度刊行予定『未来学の世界(仮)』、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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