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【北朝鮮ミサイル】Jアラートが鳴ったらどうする? 〜生存のために 医師の視点〜

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
今朝発令されたJアラートは、このように個人の携帯電話に送られてきた

本日午前6時ごろ、北朝鮮がミサイルを発射し日本の上空を通過しました。それに伴い東北や北海道、関東の一部の県でJアラート(ジェイアラート)が発令されました。この記事では、Jアラートとはなにか、そしてJアラートが発令されたらどうすべきかを解説します。

今朝、東北などで鳴り響いたJアラート

本日(8月29日)北朝鮮から発射されたミサイルは北海道上空を通過し、襟裳岬から東に約1000kmのところに落下しました。それに伴い、Jアラートが政府から発せられました。まず、Jアラートについて簡単に解説します。

Jアラートとは、政府から私たち住民に向けて、災害や武力攻撃の際に「とんでもないことが起きますよ」と伝えるシステムのことです。

本日のミサイルは、日本に向けて発射されたという情報を政府がつかんですぐに、瞬時にJアラートで日本国中に知らせたのです。電話やインターネットではなく、無線を使って情報は送られています。

知らせ方はどんなものかというと、町中にサイレンが鳴り響き、個人の携帯電話にも通知が来るというシステムです。真夜中でもいつでも、大きな音で鳴り響きます。

街中で鳴るサイレン音はこちら(内閣官房国民保護ポータルサイトより)で聞くことが出来ます。クリックするとサイレンが流れます。ぜひ一度は聞いてみて下さい。そして、Jアラートは基本的に日本全国ほぼすべての市町村で整備されています。

また、個人の携帯電話には例えばこのような通知が来ます。

Jアラートで個人のスマホに送られてきたもの 写真は福島県立医科大学腫瘍内科学講座主任教授 佐治 重衡氏提供
Jアラートで個人のスマホに送られてきたもの 写真は福島県立医科大学腫瘍内科学講座主任教授 佐治 重衡氏提供

これは実際に福島県在住の方の携帯電話に送られてきたJアラートです。音はこのような音(クリックで音が出ますので注意してください)が流れます。

Jアラートからミサイルが来るまで10分以内

さて、このJアラートはわかったとして、この警報に気付いたら私たちは何をすれば良いのでしょうか。ミサイルが到着するまで、どれくらいの時間の余裕があるのでしょう。残念ながら、答えは「10分もない」です。

本日のミサイルは発射が5時58分と推定され、Jアラートは6時02分に発表されました。そして6時14分には再びJアラートで「さきほど日本上空を通過」と流れました。そのすぐ後には、北海道沖の太平洋に落下したと報じられました。

単純計算で1回目のJアラートから12分後に2回目のJアラートでしたが、おそらく通過したのはその数分前です。もし日本本土の着弾を狙ったらもっと時間は短いでしょう。つまり10分もないということになります。

10分で出来ることは?

その間、私たちは何ができるのでしょうか。

内閣官房国民保護ポータルサイトの資料には、こう書かれています。

【屋外にいる場合】

○近くのできるだけ頑丈な建物や地下街などに避難する。

○近くに適当な建物がない場合は、物陰に身を隠すか地面に伏せ頭部を守る。

【屋内にいる場合】

○できるだけ窓から離れ、できれば窓のない部屋へ移動する。

屋外・屋内のどちらにいる場合も、ミサイルが着弾すると凄まじい衝撃波と爆風が吹きます。それによりガラスなどが割れ、破片がまるで銃弾のようにとてつもない速さで飛び散ります。まずはこれを避けなければ、生命の危険があります。そんな理由で、窓のない部屋へ移動したり、建物の中へ入る必要があるのです。ですから、もし建物の中にすぐ入れなければ、硬い大きな物の陰に隠れて下さい。とにかく時間がないのです。

そこでオススメしたいのは、まず地下に行くことです。ビルの地下でも、地下鉄の駅でも、です。もちろん崩落して潰されるリスクはありますが。

地下をオススメする根拠として、少し専門的ですが、ミサイル着弾の時の被害について解説します。

まず、爆発物による人体へのダメージのことを「爆傷(ばくしょう)」といい、これは一次〜四次爆傷の4つに分類されます。細かいことは置いておいて、ざっくり説明しますと、次のようになります。

一次爆傷:爆発した瞬間の衝撃波により鼓膜や肺、眼球が破れます

二次爆傷:爆発物の破片やガラスなどが銃弾より速いスピードで飛んできます。これは致命傷になることも

三次爆傷:爆風で吹っ飛ばされた後に頭を打つなどして負うダメージです

四次爆傷:その他です。やけどや落ちてきた瓦礫のダメージ、煙や粉塵を吸い込むことで起きるダメージ、有毒ガスなどが含まれます

(「MCLS-CBRNEテキスト」一般社団法人日本集団災害医学会監修 ぱーそん書房から著者が一部編集)

これを見てみると、一次・二次・三次爆傷を防ぐためには、地下がベストで次は「頑丈な建物の中」に避難することが必要です。ただし地下では四次爆傷を防げない可能性はあります。

今やっておくべきこと

今日のミサイル報道で「怖い」と思った方へ。政府や国際社会にはなんらかの対応を期待するとして、私たちが出来ることもあります。

それは、水、食料の備蓄です。最低3日分の食料や水を家に人数分置いておきましょう。もしミサイルが数十発着弾し、住むエリアが破壊された場合にこれらがあなたの生存を延長させてくれます。さらにこれらは、大地震などミサイル以外の災害への備えにもなります。

さらには、食べられるものをつねにカバンの中に携帯しておきましょう。例えばカバンの中には常に500mlの水のペットボトルを予備として持ち歩き、例えばブロックタイプのカロリーメイトを2箱入れておく。どちらもコンビニで売っていますし、かさばらないので現実的に可能ですよね。他のものでも良いですが、カロリーメイトはカロリーが高くビタミンなども含まれるため、おすすめです。特にカロリーメイトロングライフというものは、賞味期限が3年と、備蓄用食品として優れています。現に企業や自治体の備蓄用食品として使われているようです。

私は普段家で寝る時、枕元に水や食料、ラジオなどを入れたリュックサックを置いています。

以上、解説しました。本記事で不安をあおる意図はありませんが、我が国の上空をミサイルが飛んだのは事実です。

備えは平常時にしかできないもの。いざという時あなたの命を救うのは、正しい知識と備蓄です。

※文中にカロリーメイトについて書きましたが、筆者は販売元の大塚製薬と何ら利害関係にはありません。

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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