Yahoo!ニュース

ストレスと皮膚の関係 - 脳・免疫・内分泌のつながりとは

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【ストレスが皮膚に与える影響 - 脳・免疫・内分泌のネットワーク】

近年、ストレスが様々な健康問題を引き起こすことが明らかになっています。皮膚疾患もその一つです。ストレスは、脳、免疫系、内分泌系の複雑なネットワークを介して皮膚に影響を与えます。

ストレスを感じると、脳の視床下部-下垂体-副腎皮質(HPA)軸が活性化され、コルチゾールなどのストレスホルモンが分泌されます。これらのホルモンは免疫系に作用し、炎症性サイトカインの産生を促進します。その結果、皮膚のバリア機能が低下し、炎症が起こりやすくなるのです。

また、ストレスは交感神経系も刺激します。すると、ノルアドレナリンやサブスタンスPといった神経伝達物質が放出され、皮膚の肥満細胞を活性化。炎症を引き起こす物質が放出されます。

【ストレスによって悪化する皮膚疾患】

ストレスは、アトピー性皮膚炎、乾癬、じんましんなど、様々な皮膚疾患の発症や悪化に関与しています。

アトピー性皮膚炎患者では、ストレスによってかゆみが増強することが知られています。ストレスで活性化された神経から放出される物質が、肥満細胞を刺激し、炎症を悪化させるためです。

乾癬も、ストレスによって症状が悪化します。ストレスホルモンや神経伝達物質が、免疫系のバランスを乱し、Th17細胞などの炎症性細胞を増やすことが原因と考えられています。

また、ストレスは円形脱毛症の発症リスクを高めることも明らかになっています。ストレスが引き金となって自己免疫反応が起こり、毛包が攻撃されるのです。

ストレスは現代社会において避けられないものですが、うまくコントロールすることが皮膚の健康維持につながるでしょう。

【ストレスによる皮膚トラブルへの対策】

ストレスによる皮膚トラブルを防ぐには、ストレス管理が重要です。以下のような方法が挙げられます。

1. 十分な睡眠をとる

2. 規則正しい生活リズムを心がける

3. バランスの取れた食事を摂る

4. 適度な運動を行う

5. リラックスする時間を作る

6. 瞑想やヨガなどのマインドフルネス技法を取り入れる

皮膚疾患を抱えている方は、ストレスへの反応が敏感な傾向にあります。症状が悪化した際は、皮膚科医への相談をおすすめします。薬物療法に加え、カウンセリングや行動療法といった心理的アプローチを併用することで、ストレスのコントロールにつながります。

日本でも、ストレス社会といわれて久しいですが、その影響は皮膚にも及んでいるのです。脳と皮膚の関係性を理解し、ストレス管理に努めることが、健やかな肌を保つ秘訣と言えるでしょう。

参考文献:

Alexopoulos, A., & Chrousos, G. P. (2016). Stress-related skin disorders. Rev Endocr Metab Disord, 17(3), 295-304.

Brain Behav Immun. 2024 Feb:116:286-302. doi: 10.1016/j.bbi.2023.12.005.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

大塚篤司の最近の記事