自動車会社社員から映画プロデューサーを経て監督に。親と子が同じ目線に立つ「天才バカボン」をイメージ?
ご存知の方も多いと思うが、手間もかかればお金もかかるということでいま時代劇は作りづらい状況になっている。
そういった厳しい現状がある中で、本作「クモとサルの家族」は、自主制作で果敢に時代劇に取り組んだ1作だ。
ある意味、無謀にも思えるチャレンジ。さらに自主制作となると「スケールが保たれているのか?」と危惧されるかもしれない。
ただ、そこはアイデアと創意工夫でカバー。35mmフィルムの質感を活かして撮影された作品は、忍術やアクションの見せ場をきっちりと盛り込んだ娯楽性溢れる時代劇に仕上がった。
また、忍者の夫婦が実子と連れ子と孤児の4人の子どもたちと力を合わせて「悪」と戦う設定は、どこか戦隊ヒーローものとつながる世界があって、子どもも喜んで楽しめる内容になっている。
手掛けたのは、プロデューサーとして長年、日本映画に携わってきた長澤佳也。
なぜ、いまプロデューサーから監督へチャレンジし、オリジナル脚本で、しかも自主制作で時代劇を作ろうと考えたのか?
長澤監督に訊く。全六回。
親と子が同じ目線に立ちながら、互いを尊重して、
たまにちょっとケンカもしたりしながらも支え合うような物語を
前回(第二回はこちら)、「忍者アクション、スナイパー、ファミリーというアイデアを3本柱にして、脚本を書き進めていった」と語った長澤監督。
そこからどのようにして脚本はできていったのだろう。
「まず、忍者が登場するとなると現代劇は考えづらい。だから、必然的に時代劇かなと。
それから、ファミリーということに関して言うと、完全にわたくしごとになってしまうんですけど、うちは子どもが4人いるんです。
みんな性格も違えば、その子が興味を持つこともまったく違う。当たり前といえば当たり前なんですけど、ひとりとして同じではなくて、それぞれにカラーが違う。
だから、育ててきた身としては、どの子も違ってその都度、悩むことがあったし、うまくいかないこともあったりで。子育てってほんとうに正解がないよなぁと思ったんですけど(苦笑)。
でも振り返ると、そうやってわからないことをわからないから考えて、なんかいい方へ向かうようにすることがけっこう楽しかった。
そういう日常のひとこまがいい思い出になっていたりする。
なので、そういうことが感じられる家族物語にしたい気持ちがありました。なにか親と子どもがいい具合に混じり合うというか。
親と子が同じ目線に立ちながら、互いを尊重して、たまにちょっとケンカもしたりしながらも支え合うような物語を作りたいなと。
そういうことを考えていたら、自然といまのようなストーリーにまとまっていったんですよね。
だから、時代劇ではあるんですけど、自分の中では意外と現代の日常にもつながる親子の身近なことを描いた感触があります」
まずイメージしたのが『天才バカボン』でした
このようにして出来上がっていった脚本は、元忍者でいまは主に「主夫」として一家を守るサルと、サルにはちょっともったいないよくできた妻で凄腕の忍者として外でバリバリ働くクモ、そして実子と連れ子と孤児の4人の子どもたちという一家の物語。
キャスティングの話からすると、サル役は宇野祥平が演じている。
「キャスティングに関してお話ししますと、まず宇野さんありきでスタートしました。
ファミリーの物語としたとき、まずイメージしたのが『天才バカボン』でした。お父さんは外で稼ぎ、お母さんは家庭を守る、みたいな少し昔の考えをまずは外しました。
それから、忍びの世界ではあるけれども、もっと庶民的というか。スーパーヒーロー的なものにはしたくなかった。
憧れよりも、等身大で自分の身に寄せて考えられる普通の家族であり、普通の父親や母親や子どもにしたかった。
なので、『天才バカボン』のように、パパはかっこいいとはいえないけど思いやりがあって、子どもといっしょになって泣き笑いしてくれる人物、ママは良妻賢母ですごくできた人、そこに天才児のハジメちゃんのような大人顔負けの才能をもった子どもたちがいる。
そういった家族ができないかなと考えました。
で、まずお父さん役を考えたんですけど、イメージはそのまんまでバカボンのパパ。
そう考えたとき、僕の中では宇野さんしか考えられなかった」
宇野さんを主役に映画を作りたいと思ったんです
宇野とはそれまでプロデュース作で一緒になったことはあったのだろうか?
「いや、実はなかったんです。ご一緒したことがなかった。
ただ、宇野さんから言われたんですけど、実はずいぶん前に会ってたそうなんです。
宇野さんが役者をやりながらあるスタジオでアルバイトをしていた時期があるんですけど、そのときに会ったらしくて挨拶をしたそうなんです。
宇野さんには申し訳ないんですけど、僕はまったく覚えていないんです(苦笑)。
でも、宇野さんは覚えているとおっしゃってて。
ただ、お仕事をご一緒したことはなかったんですけど、僕の中ではずっと気になる俳優さんで『いつかご一緒したい』と思っていました。
心をグイっとつかまれたのは、2016年の映画『俳優 亀岡拓次』。
ここでもう宇野さんに魅了されて、それから名前がインプットされていろいろと遡ったり、現在進行形で公開される作品をみていきました。
で、どれをみても味があるし、どんな役をやってもその作品に確かに存在している。
そこで、宇野さんを主役に映画を作りたいと思ったんです。
だから、今回、僕のひとつの夢が叶いました」
(※第四回に続く)
【「クモとサルの家族」長澤佳也監督インタビュー第一回はこちら】
【「クモとサルの家族」長澤佳也監督インタビュー第二回はこちら】
「クモとサルの家族」
プロデューサー・脚本・編集・監督:長澤佳也
出演:宇野祥平 徳永えり
田畑志真 リー・ファンハン チャオ・イーイー ニエ・ズーハン
江口直人 黒羽麻璃央 緒川たまき 仲村トオル 白石加代子 奥田瑛二
撮影:芦澤明子 御木茂則
照明:永田英則 美術:松永一太
録音・整音:山本タカアキ
衣裳:宮本まさ江 ヘアメイク:佐藤光栄 田仁見
殺陣:森聖二 助監督:足立公良 制作担当:大西裕
音響効果:北田雅也 切り絵:福井利佐
グレーダー:廣瀬亮一 音楽:ノグチリョウ
主題歌:どぶろっく
全国順次公開中
筆者撮影の写真以外はすべて提供:「クモとサルの家族」