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日航機墜落事故は我々になにを残したのか?

田代真人編集執筆者
All photographs by naonori kohira(C)

先日NHKで放送されたNHKスペシャル『日航ジャンボ機事故 空白の16時間〜"墜落の夜"30年目の真実〜』を観た。思い起こせば30年前のこの日は就活で上京し、企業訪問をしている真っ最中だった。日本経済は、いままさにバブル景気へと突入しようとしている。いわゆる企業戦士がお盆の休息を取ろうと帰郷のために、また夏休みの観光のために多数の乗客が搭乗していたJAL123便が、8月12日月曜日の夕方、レーダーから忽然と姿を消した。当時、東京の友人宅でニュースを観ていた僕は、前日生まれて初めて飛行機に乗った、その興奮をすっかり忘れテレビに見入っていた。

今回のNHKスペシャルは、当日の夜、姿を消してから翌日、そのJAL123便が御巣鷹山で発見されるまでの「ほとんど顧みられてこなかった」16時間の「群馬県御巣鷹山の墜落現場を発見するまで関係機関の動き」を検証したものだ。

これまでの30年間、日本の夏といえば「戦後」と「日航機の事故」を検証するのが通例になっている。それにもかかわらず、いままで明かされなかった“16時間の真実”は興味深いものがあった。ただしかし、結局我々は、明かされた16時間からなにを学べたのであろうか。

闇夜の深さに太刀打ちできない人間の限界? それとも……。ただただ残された犠牲者の親族たちの辛い想いを伝えるだけの番組になっていたようで心が痛かった。当時の混乱したなかでの自衛隊や警察の判断をだれも責めることはできないだろう。またGPSがまだなかった時代、当時の航空機位置情報を測定するTACAN(タカン)と呼ばれる戦術航法装置によって3箇所でデータが測定されていたにもかかわらず、JAL123便の精細な位置測定をおこなわなかった。結果として、早い段階で墜落場所を特定できなかった。

もし正確な位置が特定できていてもヘリコプターも近づけない真っ暗闇の森林ではなにもできなかったかもしれない。としても、夜のうちに近くまで行き、もっと早い時間に現場に行けた。そうすれば生存者の数はもっと増えたのかもしれない。番組ではこのことを暗に示していたようにも思えた。

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個人的には、30年経った現在であれば、なにができたのかが知りたいと感じた。一人ひとりがGPS付き携帯電話を持つ21世紀の現代技術は、このような大事故が起こったとき、どれだけのことができるのであろうか。いまだに飛行機の墜落事故は起こっている。

いざとなったとき人は冷静に動けないものだ。技術さえ使いこなせないことを番組は示していた。そう考えると、これらの大事故に立ち向かえるほど我々は進化したのであろうか。いくら技術が進歩してもまだまだ足りないのかもしれない。人間の心の乱れをカバーするほどの技術の進化が必要なのだろう。

当時もっとも早い時間に現場に到着し、その惨状を写真で伝えたフォトグラファーの小平尚典氏は今回この番組にも資料提供しているが、その小平氏は、番組を観た感想として「もっと愛と生と死を感じたかった」と伝えている。

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つまりは僕らは、過去を顧みることは大事だが、しかしそこに留まることなく、前を向いて生きていかなければならない。そのためになにが必要なのか。それは一人ひとりが常に考えていかなければならないのだろう。何年経ったとしても、そのことを思い起こさせてくれる“日本の夏”であれば、犠牲者の命も決して無駄にはなっていない。

編集執筆者

1963年福岡県出身。86年九州大学工学部卒業後、朝日新聞社入社。その後、学習研究社にてファッション女性誌編集者、ダイヤモンド社にて初代Webマスター、雑誌編集長、書籍編集などを経て、2007年メディア・ナレッジ設立。代表に就任。出版&電子出版、Webプロデューサー、PRコンサルタントとして活動。現在は、駒沢女子大学教授、桜美林大学非常勤講師を務める。専門は「コミュニケーション」「編集論」。

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