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【英ロイヤル・ベビー】初めての子供の誕生を待つヘンリー王子とメーガン妃 英王室の出産の歴史とは

小林恭子ジャーナリスト
初めての子供の誕生が間近に迫るメーガン妃とヘンリー王子(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 エリザベス英女王の孫にあたるヘンリー(通称「ハリー」)王子とメーガン妃の間に、初めての子供がもうすぐ生まれると言われている。

 近年、英国でロイヤル・ベビーとして注目されたのは、ハリー王子の兄にあたるウィリアム王子とキャサリン妃の間に次々と生まれた3人の子供たちだった。

 キャサリン妃はロンドンのセント・メアリー病院で子供たちを産んできた。出産間近になると、世界中から駆け付けた報道陣が病院前に殺到する。いよいよとなると、ウィリアム王子が子供たちを連れてやってくる。そして、出産から数時間後には、いつものようにヘアスタイルもメイクも完璧なキャサリン妃が赤ん坊を抱えて報道陣の前に姿を現し、カメラのフラッシュを浴びるー。これが「お決まり」のパターンである。

 しかし、今回は、少々事情が異なりそうだ。

「出産はプライベートにしたい」

 というのも、ハリー・メーガン妃側は今回、出産を「プライベートなものにしたい」ということで、どこで産むかを明確にしていないからだ。病院での出産は「プライバシーが十分に守られない」と述べたという報道もあり、自宅での出産の可能性がある。

 「自宅」とは、ウィンザー城の領地内にある、改装を終えたばかりのフログモア・コテージだ。

 エリザベス女王自身が4人の子供全員を自宅で出産しており、前例がある。

 出産予定日は4月末から5月上旬ごろ。しかし、出産後すぐに情報を出すかどうかは不明で、ソーシャルメディアで情報発信をするとしても、出産日当日に赤ん坊を抱えて、カメラの前に出るかどうかも不明だ。

 筆者は、この「プライベートにしたい」という話を聞いて、実はほっとした。「良かったなあ」とも思った。

 というのは、キャサリン妃が出産から数時間後に完璧な装いで病院の前に出て、「産みました!」宣言を体で示す様子を見て、「なんだか、つらいなあ」と常々、思ってきたからだ。

 

 キャサリン妃の場合、子供は将来の国王あるいは女王になるため、出産直後に国民の前に姿を見せるのは「公務」と解釈できなくもないが、それにしても、一人の人間として「ここまでする必要はないのではないか」と思っていた。この先、ほかの王室の女性メンバーも同様のことを強いられるのでは、とも。

 ハリー王子がメーガンさんと結婚したとき、「将来的に子供を産むことがあれば、キャサリン妃と比較されるだろう」という予感があった。「私だって、一糸乱れず、完璧な出産ができるのよ」と言わざるを得ないような、変な競争にならなければいいと思っていた。

 以前に、キャサリン妃の出産(と、数時間後に報道陣の前でポーズを取ること)についての疑問を書いた時に、「あら、出産後、数時間でシャンとするのは、簡単よ」、「将来の国王・女王の母親なんだから、それぐらいして当たり前」、「あれが彼女の『お仕事』だから(ああやるのが当然だろう)」などの反応がソーシャルメディアであった。

 しかし、それと同時に「出産直後は、本当はすごく、疲れている」、「あそこまでしなくていいと思う」という声もあった。

 当初は前者が多かったが、時間が経つうちに、後者が増えていった。

 筆者は、子供を産んだことがない。だから、「疲労度」は想像するだけだ。きっと、すごく疲労する人もいれば、それほどではない人もいるに違いない。

 それでも、出産体験がある・なしに限らず、誰しも、「ここまでは外に出せるけど、ここから中はちょっと、一人でいたい」という精神的・肉体的境界というのは、あるものだ。プライバシーを維持する権利は、誰にでもある。

 出産自体を公に報告する必要がある人でも、出産直後に夫やごく親しい家族の間で生の誕生を喜び、しばらく休息する時間があってもいいはずだ。ソーシャルメディアの時代だから、少し落ち着いた段階で母子が安全であることを示す情報をインスタグラムなどで出す、という形で十分ではないかと思う。髪をセットし、メークして、大勢の報道陣の前に立たなくてもいいのではないか。

 …と書いたけれど、意外と、メーガン妃も出産後数時間でカメラの前に立つ「かも」しれないのだけれども。

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「自宅で出産」は大幅に減少中

 イングランド・ウェールズ地方(スコットランドや北アイルランド地方を抜いた地域)では自宅で出産する割合は、2017年で2・4%のみ(国家統計局調べ)。スコットランド地方では2%、北アイルランドでは0・4%と極端に低い。

 

 エリザベス女王は4人の子供をバッキンガム宮殿かクラレンス・ハウス(セント・ジェームズ宮殿に隣接する邸宅。現在はチャールズ王太子とカミラ夫人の公邸)で産んできた。

王室の出産の歴史

 実は、英王室は宮殿(「自宅」とも言える)で出産するのが、長い間、伝統だった。

 エリザベス女王は長男のチャールズ皇太子をバッキンガム宮殿で産んだが、長女のアン王女はロンドン市内の病院で子供たちを産み、ダイアナ妃もこれに続いた(ウィリアム王子とハリー王子)。

 

 王室の歴史家サラ・ブラッドフォード氏のガーディアン紙の記事(2013年7月23日付)によると、英国の王室で世継ぎが生まれる出産の場合、「目撃者」が必要とされてきたという。女官たち、助産婦、召使い、医師などが妊婦の周りに集まり、部屋の後ろの方には男性の廷臣らが控えていた。死産だった場合、別の赤ん坊と入れ替えるといった「ごまかし」を防ぐためだった。

 英国(イングランド王国)は16世紀、宗教改革(教会がローマ・カトリックから分離して英国国教会=プロテスタント系=を形成)に揺れたが、その後、支配層はカトリック系勢力が国を乗っ取るのではないかと常に危機感を持っていた。出産時の混乱を悪用されて、赤ん坊がすり替えられることを防ぐ必要があった。「本当に産んだ」ことを「目撃」する必要があったのである。

 こうして、19世紀末まで、女官たちともに閣僚や枢密院のメンバーなども出産に立ち会ってきた。しかし、1894年、後のエドワード8世が生まれる時、ビクトリア女王が政治家は内務大臣のみの出席で良いと決めた。

 ブラッドフォード氏によると、最後に内相が出産に立ち会ったのは、1948年、チャールズ皇太子が生まれた時だ。

「あなたに何の関係があるの?」と叫んだダイアナ妃

 ウィリアム王子とハリー王子の母親であるダイアナ妃ほど、メディアに執拗に追われた王室のメンバーはいないだろう。

 1997年、交通事故によって36歳で命を落としたダイアナ妃は、ウィリアム王子の出産をロンドン・パディントンにあるセント・メアリー病院で行うことにした。キャサリン妃が近年、出産に選択した病院である。

 

 ダイアナ妃の自伝を書いたアンドリュー・モートン氏によると、ダイアナ妃は住居にしていたケンジントン宮殿ではなく病院での出産を選んだ理由をこう語ったという。「メディアのプレッシャーにはもう耐えられなくなった。我慢できない。毎日、みんなが私のことを監視してるみたいだから」。宮殿の周囲には、報道陣が張り付いていた。ダイアナ妃は病院を避難先として選んだのである。

 宮殿の複数の職員がダイアナ妃と一緒に病院に行こうとした。堪忍袋の緒が切れたダイアナ妃は激怒して、こう叫んだという。「あなたに何の関係があるの?」

 メーガン妃の出産のニュースを、静かに待ちたいものである。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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